さっき、携帯番号を知らせる名目でした電話。
残業中だったみたいだけど、近くには誰もいなかったようで、ちょっと長めに話をしていたけど。


『ちょっと仕事で長めに居る予定だから、携帯持ってみた』


ぼくがアキラに言うと、アキラがすぐにこう答えた。


『なんだ。来るのは知ってたけど、そんな長く居るなんて。人のウチなんて落ち着かないんじゃない?部屋借りたら?それまでならあたしのウチにきてもいいけど』


今日ミナトに言われたようなこと。
でも、相手がアキラだと、兄妹なわけだし、その言葉を断る理由なんてないし、その案がいいに決まってる。
しいて言うなら、アキラとは兄妹とはいえ、性格がちょっと違うから、今さら一緒に住むとなると……ちょっとアキラがうるさそうだ。

そういうことを踏まえて、間を置いてから言った。


『いや。ここがいい』


なんか理由は明確には言えないけど、居心地いいし。楽しいし。困ってないし。


『ふーん。まぁコウちゃんや、セイジがいるもんね?』


……あれ?そうだよな。普通、それが、いの一番に出てくる理由だったような。
だけど、瞬時にアキラに言われて考えた結果、その理由はパッと浮かばなかった。


『……まぁ、ね』


遅れてぼくが返事すると、勘の鋭いアキラが驚いた声を返した。


『へぇ……趣味変わったのね』


その言葉の意味が、すぐには理解できなかった。
だって、誰もそんなこと予想してないし、なにより自分自身が、そんなことを言われて戸惑ったから。

『そんなバカみたいなこと』って、そのままアキラと電話を切ったんだけど――。


「まさか、ね……」


自分の気持ちがわからないまま。
とりあえず今は、アキラに洗脳されたんだ、と思うことにして。

それでも足は、いつの間にか扉に向かって歩を進めていて。ドアノブへと伸ばしていた手を、無理やり引っ込めてまた座った。