「ぼくが夏実サン運ぶよ?」
「へっ?」


運ぶ? 運ぶって、どうやって?
そりゃあ、お母さんは小柄な方だとは思うけど。でも大の大人を、しかも酔っ払って寝てる人をって、現実には大変じゃない?


「あっちの部屋?」
「ぃや、チハ……ル」


『無理しないで』って言おうとした矢先、軽々と抱きかかえた光景を目の当たりにして閉口した。


「げ、現実にもあるんだ。お姫様抱っこ……」


思わず口に出してしまった私を見て、チハルは笑う。


「Haha! 『お姫様』? 日本ではそんなふうに言うの?」
「あっ……えーと。うん、たぶん」
「へぇ」


……うわ。王子!

ただ何気ないシーンだけど。

目を細めて、お母さんを見下ろす姿。イタリア人の血を引くチハルは、まるで本物の王子様みたいで、見てるこっちが顔を赤くしてしまう。

相手はお母さん。でも、自分で言うのもなんだけど、童顔だし、服装も若めだし。眠ってる姿なら、チハルと一緒でも全然違和感ない。

だから余計に、物語から出て来たような光景にドキドキとしちゃう。