その様子を悲しげな眼差しで見つめる者がいました。

「お兄様!」

 4歳離れたスウォードの弟のハイドが、廊下で兄を呼び止めました。

「お兄様は戦争をするつもりなんですか?」

「そうだよ。この国は資源はないし、自給率は極端に低い。だからラティスフォリアの領地を手に入れる必要がある」
 スウォードは平然とした顔で言いました。

「そんな自分勝手な。ラティスフォリアの人がかわいそうですよ。だって人が死ぬんですよ?」

 ハイドは兄のスウォード以上に繊細で、正義感が強く、優しい心の持ち主でした。
 
自国の兵士はもちろん、敵国のラティスフォリアの人も傷つくことを嘆き、戦争をやめさせようと思ったのです。

「おまえは理想主義者だな。いいか、この国の王はおまえじゃない、僕なんだよ」
 そう言って、スウォードはハイドをにらみつけました。

「弟だからってなんでも思い通りになると思うなよ」
 氷のように冷たい目つきで、ハイドはその目つきに言葉を失いました。

 スウォードは弟に背を向け、廊下の奥へと歩いていきます。
 ハイドはそれを複雑な表情で見送りました。