人になりたいと思ったサル

天気……昼間は空が厚い雲に覆われていて、太陽が雲のなかから顔を出したり隠れたりしていた。太陽の光が地上に射しこんでくるときは汗ばむほどだったが、そうでないときはしのぎやすくて、過ごしやすい一日だった。

モンキーが山のなかに帰っていったあと、ぼくは再び翠湖公園のなかに戻っていった。大雨で水浸しになっていた洞窟のなかの水はすっかり引いて、またもとのように住めるようになったので、ぼくは以前のような生活を始めた。馬小跳や杜真子はこれまでのように食べ物や水を持ってよく来てくれるし、唐飛や張達や毛超もよく遊びに来てくれる。地包天も毎日やって来るので、ひとりで生活をしていても、それほど寂しくなかったし、生活にも困らなかった。
夜寝ているときに、夢のなかにモンキーが出てくることが時々あった。モンキーはお父さんやお母さんやきょうだいたちといっしょに山のなかを楽しく走りまわったり、木に登って果実をちぎっておいしそうに食べていた。モンキーは好奇心が旺盛なサルだから、食べられそうなものは何でも口に入れてみたいと思うところがあるので、あるとき珍しいキノコを見つけて食べていた。ところがそのあと気分が悪くなって、げえげえ吐いていた。毒キノコだということを知らなかったようだ。ぼくは、はっとして目を覚まして、夢であったことがわかって、ほっとした。
翌朝、ご飯を食べてから、ぼくは湖畔にそってしばらく散歩をしていた。すると向こうから老いらくさんがやってきた。
「やあ、笑い猫、久しぶりだな」
老いらくさんがそう言った。ぼくはそのあと、老いらくさんに、これまでのいきさつを話した。
「大雨が降ったあと、洞窟のなかが水浸しになって住めなくなったので、馬小跳たちが洞窟のなかから連れ出してくれました」
ぼくはそう言った。すると老いらくさんが
「サルはどうしたのだ?」
と聞いた。
「サルもいっしょに連れていきました」
ぼくはそう答えた。
「どこへ行ったのだ?」
老いらくさんが興味深そうな顔をして、そう聞いた。
「馬小跳のうちへ連れていきました」
ぼくはそう答えた。それを聞いて、老いらくさんがびっくりしたような顔をしていた。
「サルを人のうちへ連れていって大丈夫だったのか?」
老いらくさんが心配そうな顔をしていた。ぼくは首を横に振った。
「いろいろなことを引き起こして大変でした」
ぼくは正直にそう答えた。ぼくはそのあと老いらくさんに、モンキーが引き起こしたさまざまな事件をつぶさに話してあげた。
「そうか。それは大変だったな」
老いらくさんがそう言った。
「本当に大変でした。サルは好奇心が旺盛なところがあるので、人がすることを真似してみたくてたまらないようでした」
ぼくは老いらくさんにそう言った。
「それでサルはどうなったのだ?」
老いらくさんが聞いたので
「馬小跳のお父さんが車に乗せて山のなかに連れていきました」
ぼくは老いらくさんにそう答えた。
「そうか、それが一番よいと、わしはずっと思っていた」
老いらくさんがそう言って安堵したような顔をしていた。
「モンキーは以前、『動物園ではなくて山のなかに帰って、お父さんやお母さんや、きょうだいたちといっしょに暮らしたい』と言っていましたから、これでよかったと、ぼくは思っています」
ぼくは老いらくさんにそう答えた。
老いらくさんが、そのあと人とサルの共存の仕方について持論を述べた。
「人とサルは、いっしょに生活することはできない。でも人はサルから進化したものだから人はサルを尊重してペットのように大切にしていかなければならない」
老いらくさんがそう言った。ぼくはそれを聞いて
「ぼくもそう思います」
と答えた。そのあと老いらくさんが
「あのサルは、もしかしたら、人の生活が一生忘れられないかもしれない」
と言った。ぼくはそれを聞いて
「そうかもしれませんね。あのサルは人のうちで生活して、楽しさに味を占めたり、人の生活にあこがれを抱くようになっていましたから」
と答えた。すると老いらくさんが
「でもいくら人の真似をしようとしたところで、しょせん、サルはサル。人にはなれない」
と言った。そっけない言い方だったが、的を射ていたので、同意せざるを得なかった。老いらくさんが、そのあとぼくに
「『サルは人間に毛が三本足らぬ』という言葉があるが、知っているか?」
と聞いた。ぼくは首を横に振った。すると老いらくさんが
「サルは人間に似ているが知恵は及ばないという意味だ」
と教えてくれた。それを聞いて、思い当たるふしがあったので、ぼくはうなずいた。
「サル知恵という言葉がありますが、もっと知恵がついたら人になれるかもしれないと思って、モンキーは本を読もうとしていました」
と、ぼくは思い出しながら、そう言った。すると老いらくさんが、
「サルに本が読めるわけがないではないか」
と、あきれたような顔をしながら、そう言った。
「ぼくもそう思ったので、『本のなかには字がたくさん書かれているから、おまえに読めるはずがないではないか』と言ってやりました。するとモンキーが『字が読めるようになったら本が読めるようになるの?』と聞き返してきました」
ぼくは老いらくさんにそう言った。
「本が読めるようになったら知恵がついて人になれると思っているサルのけなげな心に、わしは感心する。しかしサルにサル知恵以上の知恵がつくことはありえない」
老いらくさんがそう言った。ぼくはそれを聞いてうなずいた。ぼくはそのあと老いらくさんに
「モンキーとは、もう二度と会えないかもしれませんが、モンキーといっしょに、ひとときを過ごしたことは、ぼくにとっても一生、忘れられない思い出になりました」
ぼくは老いらくさんにそう言った。
「そうか、それはよかったな」
老いらくさんがそう答えた。
「馬小跳たちも、モンキーのことが心のなかに深く残って忘れられないのではないでしょうか?」
ぼくは老いらくさんにそう言った。
「わしもそう思う」
老いらくさんがそう答えた。
「馬小跳たちは山のなかでモンキーといっしょに記念写真を撮っていましたから、写真立てに入れて大切に飾るのではないかと思います」
ぼくは老いらくさんにそう言った。すると老いらくさんがうなずいた。老いらくさんがそのあと
「モンキーがこれから山のなかで楽しく生きていけることを、わしは心から望んでいる」
と言った。
「ぼくもそう思っています」
ぼくは老いらくさんにそう答えた。
老いらくさんがそのとき、ふっと何かを思いついたような顔をした。
「そうだ、モンキーの前途にこれから幸があるようにワインを飲んで乾杯しないか?」
老いらくさんがそう言った。
「いいですね。久しぶりにグラスを傾けましょう」
ぼくは笑みを浮かべながらそう答えた。
「わかった。ではこれから、わしはうちへ帰って赤ワインとグラスをスケートボードに乗せて持ってくるから、ここで待っていろ」
老いらくさんがそう言った。それからまもなく老いらくさんは、跳ぶようにぴょんぴょんはねながら、うちへ帰っていった。老いらくさんの後ろ姿を、ぼくは楽しそうに見ていた。