天気……今朝、目が覚めたあと外に出て空を見上げると、厚い群雲がかかっていて、この町全体が灰色の緞帳(どんちょう)に覆われているように思われた。群雲のすき間から太陽が顔をのぞかせることもあったが、すぐにまた群雲のなかに隠れていって、そのたびに外が明るくなったり暗くなったりしていた。
今朝早く、ぼくはサルを連れて散歩にでかけてから、日が出る前に洞窟のなかに戻ってきて、サルといっしょにご飯を食べた。馬小跳と杜真子が、この前、サルのためにリンゴや、さつまいもや、ニンジンなどを持ってきてくれたので、サルはおいしそうに食べていた。サルはご飯を食べたあと再び、外へ出ていきたそうな顔をしていたが、ぼくは入口の前に立ちはだかって制止した。サルはぼくの忠告を素直に聞き入れて、洞窟の奥でじっとしていた。それからしばらくしてから、洞窟の前に老いらくさんがやってきた。
「笑い猫、サルとはその後、うまくいっているか?」
と聞いた。ぼくはうなずいた。それを聞いて、老いらくさんが
「それはよかった」
と答えて、ほっとしたような顔をしていた。
「サルはぼくの言うことを素直に聞いて昼間は、このなかでじっとしています」
ぼくは老いらくさんにそう答えた。すると老いらくさんが
「このなかにサルをかくまっていることは、馬小跳と杜真子以外はだれも知らないのか?」
と聞いた。
「そう思います」
ぼくはそう答えた。すると老いらくさんが小首をかしげながら
「それはおかしいなあ。馬小跳がさっき、唐飛と毛超と張達を連れて公園のなかに入ってきて、こちらのほうに向かってくるのが見えたぞ。サルが大好きなバナナやニンジンやリンゴをもっていたから、馬小跳は、サルがここにいることを話したのかもしれない」
と答えていた。ぼくはそれを聞いて馬小跳のことが信用できなくなった。杜真子から固く口止めされていたはずなのに、軽々しく話した馬小跳には誠実さが感じられなかったからだ。でもサルを助け出すことに成功したのは、みんなの協力があってのことだし、唐飛も毛超も張達も自分たちが助けたサルが今、どこでどうやって暮らしているのか知りたくてたまらないだろうから、馬小跳が話したのも自然の成り行きだと言えないこともない。ぼくはそう思うことにした。
それからしばらくしてから、馬小跳たちの姿が見えた。よく見ると、馬小跳たちの後ろに人影があって、帽子を深くかぶってサングラスをかけて顔を隠すようにしながら、馬小跳たちの跡をつけていた。その人影にぼくは見覚えがあった。あのサル使いの男だった。馬小跳たちは、サル使いの男に跡をつけられていることにまったく気がついていなかった。
(まったく、もう、何て鈍感なのだ。このままでは、あのサル使いの男にサルが見つかってしまう)
ぼくはそう思ったから、洞窟の前から、ぱっと飛び出して、馬小跳たちのすぐ前までに駆けていった。
「あっ、笑い猫、どうしたのだ?」
馬小跳が聞いた。
ぼくは馬小跳たちのあとからつけてきているサル使いの男を鋭い目で見ながら、不気味な声を出して威嚇(いかく)した。それを見て、馬小跳たちが後ろを振り向いて、そのときにようやく、サル使いの男につけられているのに気がついていた。サル使いの男が、不敵な顔をしながら、にやりと笑ったのを見て、馬小跳たちは、もう一度、この男と戦うことにして近づいていった。ぼくと老いらくさんも、馬小跳たちのあとに続いた。多勢に無勢で、到底勝ち目がないと思ったのか、サル使いの男は、しっぽを巻いて逃げ始めた。馬小跳たちは深追いすることはしなかったが、ぼくは、とことんまで、このサル使いの男を追いかけていくことにした。逃げていく後ろ足に鋭い歯でかみついて、しばらく離さなかった。
「このクソ猫、ぶっ殺してやる」
サル使いの男がいまいましそうな声でそう言ってから、ぼくの首根っこをつかんで投げ飛ばした。宙に舞ってから地面に落ちて、体をしたたかに打ちつけて、ぼくはとても痛かった。しかしぼくはそれでもひるまずに敢然と立ち向かっていった。今度はジャンプして尻にかみついて、しばらく離さなかった。ぼくとサル使いの男の戦いはしばらく続いていて、それを見ていた人たちが面白そうな顔をしながら、スマートフォンで動画撮影をしたり
「この男は、どうして、猫に目の敵(かたき)にされているのだろうか」
「前世で猫の恨みを買うようなことをしたのではないのか」
「そうかもしれないな。猫はそれを覚えていて、敵(かたき)討ちをしているのかもしれない」
と話したりしていた。いろいろな声が飛び交っているなか、ぼくはようやく、その男の卑劣な行為を許してやることにした。戦いはぼくの勝利に終わったことを確信しながら、ぼくはそれからまもなくサル使いの男にかみつくのをやめて、洞窟のなかに帰っていった。洞窟のなかには、馬小跳たちがいた。ぼくが帰ってきたのを見て、馬小跳が笑みを浮かべながら
「おまえのおかげで、サルをかくまっている場所を発見されずにすんだ」
と言って、ぼくのことをほめてくれた。唐飛は目を細めながら
「おまえは本当に勇敢な猫だなあ」
と言って、ぼくの頭をなでてくれた。
毛超は感心したような顔をしながら
「おまえは正義感に燃えた戦士猫だ」
と言って、サル使いの男に敢然と立ち向かっていった、ぼくの行為をほめてくれた。張達は注意を喚起しながら
「こ、これからは気をつけなければ」
と言った。それを聞いて、みんな、うなずいていた。
馬小跳たちはサルのためにもってきたバナナやニンジンやリンゴを、サルのそばに置いていたので、サルはうれしそうな顔をしながら、バナナの皮を剥いて食べたり、ニンジンやリンゴを丸かじりしていた。
「おいしそうに食べているね」
馬小跳がそう言った。
「そうだね。これからも時々、ここに来て、おいしいものを食べさせてやろう」
毛超がそう言った。
「そ、そうしよう」
張達がそう答えていた。
サルは馬小跳たちが親切なことを知って、だんだんと警戒心を解いていって、心を許して、ちょっとしたいたずらまでするようになった。馬小跳がかぶっていた帽子を電光石火の早わざで、さっと取ってから、自分でかぶろうとしたり、毛超がかけていた眼鏡をはずして自分の目にかけようとしていた。サルのいたずらに馬小跳たちは、いちいち目くじらを立てることはなく、温かい目で見ていた。
「このサルは愛嬌があって、本当にかわいいな」
馬小跳がそう言った。それを聞いて唐飛が
「このサルに何か、名前をつけないか?」
と提案していた。
「そうだな。何がいいだろうか」
馬小跳がそう答えた。そのあと馬小跳たちは、しばらく考えていた。
「モンキーはどうかな?」
毛超がそう言った。
「そうだな。それがいい」
馬小跳がそう答えていた。
馬小跳たちは、それからまもなく、うちへ帰っていった。ぼくはそのあとサルに
「あの子たちは、おまえのことをモンキーと呼ぶことにしたみたいだよ」
と言った。するとサルが、けげんそうな顔をしながら
「モンキー?」
と聞き返してきた。ぼくはうなずいた。
「サルのことを外国の言葉ではモンキーと呼ぶから」
ぼくはサルにそう教えてやった。それを聞いて、サルが
「いい名前ですね。かっこよくて、ぼくは気に入りました」
と答えていた。それを聞いて
「ぼくもこれから、おまえのことをモンキーと呼んでもいいかな」
とサルに聞いた。するとサルが
「いいよ。そう呼んで」
と答えた。
「ぼくは笑うことができる猫だから、みんなから『笑い猫』と呼ばれている。おまえも、ぼくのことを、そう呼んでくれないか」
ぼくはサルにそう言った。するとサルが
「わかりました。そう呼ぶことにします」
と答えていた。ぼくはそのあとサルに、にっこりと笑ってみせた。それを見てサルが
「ぼくも笑っているような顔を作ることができるよ」
と言って、笑みを浮かべてみせた。ぼくはサルに
「笑い方をどうして覚えたのか?」
と聞いた。するとサルが
「あの男が教えてくれた」
と答えた。ぼくはそれを聞いて、サル使いの男がサルをお客さんといっしょに記念写真を撮らせるときにサルに笑っているような顔をさせていたことを思い出した。
「そうだったな。笑顔はこの世の中で一番美しいコミュニケーションだから、言葉は通じなくても、『わたしはあなたが好きです』という気持ちを伝えることができる」
ぼくはサルにそう言った。するとサルが
「ぼくもそう思います。でもあの男に捕まってサル回しの芸の一つとして無理やり覚えさせられた笑い方だから、ぼくは笑うことがあまり好きではありません」
と答えた。ぼくはそれを聞いて
「そうだろうなあ。おまえの気持ちがよくわかるよ」
ぼくはサルにそう答えた。サルはそのあと、うちのなかにじっとしていて、外に出ることはなかった。
今朝早く、ぼくはサルを連れて散歩にでかけてから、日が出る前に洞窟のなかに戻ってきて、サルといっしょにご飯を食べた。馬小跳と杜真子が、この前、サルのためにリンゴや、さつまいもや、ニンジンなどを持ってきてくれたので、サルはおいしそうに食べていた。サルはご飯を食べたあと再び、外へ出ていきたそうな顔をしていたが、ぼくは入口の前に立ちはだかって制止した。サルはぼくの忠告を素直に聞き入れて、洞窟の奥でじっとしていた。それからしばらくしてから、洞窟の前に老いらくさんがやってきた。
「笑い猫、サルとはその後、うまくいっているか?」
と聞いた。ぼくはうなずいた。それを聞いて、老いらくさんが
「それはよかった」
と答えて、ほっとしたような顔をしていた。
「サルはぼくの言うことを素直に聞いて昼間は、このなかでじっとしています」
ぼくは老いらくさんにそう答えた。すると老いらくさんが
「このなかにサルをかくまっていることは、馬小跳と杜真子以外はだれも知らないのか?」
と聞いた。
「そう思います」
ぼくはそう答えた。すると老いらくさんが小首をかしげながら
「それはおかしいなあ。馬小跳がさっき、唐飛と毛超と張達を連れて公園のなかに入ってきて、こちらのほうに向かってくるのが見えたぞ。サルが大好きなバナナやニンジンやリンゴをもっていたから、馬小跳は、サルがここにいることを話したのかもしれない」
と答えていた。ぼくはそれを聞いて馬小跳のことが信用できなくなった。杜真子から固く口止めされていたはずなのに、軽々しく話した馬小跳には誠実さが感じられなかったからだ。でもサルを助け出すことに成功したのは、みんなの協力があってのことだし、唐飛も毛超も張達も自分たちが助けたサルが今、どこでどうやって暮らしているのか知りたくてたまらないだろうから、馬小跳が話したのも自然の成り行きだと言えないこともない。ぼくはそう思うことにした。
それからしばらくしてから、馬小跳たちの姿が見えた。よく見ると、馬小跳たちの後ろに人影があって、帽子を深くかぶってサングラスをかけて顔を隠すようにしながら、馬小跳たちの跡をつけていた。その人影にぼくは見覚えがあった。あのサル使いの男だった。馬小跳たちは、サル使いの男に跡をつけられていることにまったく気がついていなかった。
(まったく、もう、何て鈍感なのだ。このままでは、あのサル使いの男にサルが見つかってしまう)
ぼくはそう思ったから、洞窟の前から、ぱっと飛び出して、馬小跳たちのすぐ前までに駆けていった。
「あっ、笑い猫、どうしたのだ?」
馬小跳が聞いた。
ぼくは馬小跳たちのあとからつけてきているサル使いの男を鋭い目で見ながら、不気味な声を出して威嚇(いかく)した。それを見て、馬小跳たちが後ろを振り向いて、そのときにようやく、サル使いの男につけられているのに気がついていた。サル使いの男が、不敵な顔をしながら、にやりと笑ったのを見て、馬小跳たちは、もう一度、この男と戦うことにして近づいていった。ぼくと老いらくさんも、馬小跳たちのあとに続いた。多勢に無勢で、到底勝ち目がないと思ったのか、サル使いの男は、しっぽを巻いて逃げ始めた。馬小跳たちは深追いすることはしなかったが、ぼくは、とことんまで、このサル使いの男を追いかけていくことにした。逃げていく後ろ足に鋭い歯でかみついて、しばらく離さなかった。
「このクソ猫、ぶっ殺してやる」
サル使いの男がいまいましそうな声でそう言ってから、ぼくの首根っこをつかんで投げ飛ばした。宙に舞ってから地面に落ちて、体をしたたかに打ちつけて、ぼくはとても痛かった。しかしぼくはそれでもひるまずに敢然と立ち向かっていった。今度はジャンプして尻にかみついて、しばらく離さなかった。ぼくとサル使いの男の戦いはしばらく続いていて、それを見ていた人たちが面白そうな顔をしながら、スマートフォンで動画撮影をしたり
「この男は、どうして、猫に目の敵(かたき)にされているのだろうか」
「前世で猫の恨みを買うようなことをしたのではないのか」
「そうかもしれないな。猫はそれを覚えていて、敵(かたき)討ちをしているのかもしれない」
と話したりしていた。いろいろな声が飛び交っているなか、ぼくはようやく、その男の卑劣な行為を許してやることにした。戦いはぼくの勝利に終わったことを確信しながら、ぼくはそれからまもなくサル使いの男にかみつくのをやめて、洞窟のなかに帰っていった。洞窟のなかには、馬小跳たちがいた。ぼくが帰ってきたのを見て、馬小跳が笑みを浮かべながら
「おまえのおかげで、サルをかくまっている場所を発見されずにすんだ」
と言って、ぼくのことをほめてくれた。唐飛は目を細めながら
「おまえは本当に勇敢な猫だなあ」
と言って、ぼくの頭をなでてくれた。
毛超は感心したような顔をしながら
「おまえは正義感に燃えた戦士猫だ」
と言って、サル使いの男に敢然と立ち向かっていった、ぼくの行為をほめてくれた。張達は注意を喚起しながら
「こ、これからは気をつけなければ」
と言った。それを聞いて、みんな、うなずいていた。
馬小跳たちはサルのためにもってきたバナナやニンジンやリンゴを、サルのそばに置いていたので、サルはうれしそうな顔をしながら、バナナの皮を剥いて食べたり、ニンジンやリンゴを丸かじりしていた。
「おいしそうに食べているね」
馬小跳がそう言った。
「そうだね。これからも時々、ここに来て、おいしいものを食べさせてやろう」
毛超がそう言った。
「そ、そうしよう」
張達がそう答えていた。
サルは馬小跳たちが親切なことを知って、だんだんと警戒心を解いていって、心を許して、ちょっとしたいたずらまでするようになった。馬小跳がかぶっていた帽子を電光石火の早わざで、さっと取ってから、自分でかぶろうとしたり、毛超がかけていた眼鏡をはずして自分の目にかけようとしていた。サルのいたずらに馬小跳たちは、いちいち目くじらを立てることはなく、温かい目で見ていた。
「このサルは愛嬌があって、本当にかわいいな」
馬小跳がそう言った。それを聞いて唐飛が
「このサルに何か、名前をつけないか?」
と提案していた。
「そうだな。何がいいだろうか」
馬小跳がそう答えた。そのあと馬小跳たちは、しばらく考えていた。
「モンキーはどうかな?」
毛超がそう言った。
「そうだな。それがいい」
馬小跳がそう答えていた。
馬小跳たちは、それからまもなく、うちへ帰っていった。ぼくはそのあとサルに
「あの子たちは、おまえのことをモンキーと呼ぶことにしたみたいだよ」
と言った。するとサルが、けげんそうな顔をしながら
「モンキー?」
と聞き返してきた。ぼくはうなずいた。
「サルのことを外国の言葉ではモンキーと呼ぶから」
ぼくはサルにそう教えてやった。それを聞いて、サルが
「いい名前ですね。かっこよくて、ぼくは気に入りました」
と答えていた。それを聞いて
「ぼくもこれから、おまえのことをモンキーと呼んでもいいかな」
とサルに聞いた。するとサルが
「いいよ。そう呼んで」
と答えた。
「ぼくは笑うことができる猫だから、みんなから『笑い猫』と呼ばれている。おまえも、ぼくのことを、そう呼んでくれないか」
ぼくはサルにそう言った。するとサルが
「わかりました。そう呼ぶことにします」
と答えていた。ぼくはそのあとサルに、にっこりと笑ってみせた。それを見てサルが
「ぼくも笑っているような顔を作ることができるよ」
と言って、笑みを浮かべてみせた。ぼくはサルに
「笑い方をどうして覚えたのか?」
と聞いた。するとサルが
「あの男が教えてくれた」
と答えた。ぼくはそれを聞いて、サル使いの男がサルをお客さんといっしょに記念写真を撮らせるときにサルに笑っているような顔をさせていたことを思い出した。
「そうだったな。笑顔はこの世の中で一番美しいコミュニケーションだから、言葉は通じなくても、『わたしはあなたが好きです』という気持ちを伝えることができる」
ぼくはサルにそう言った。するとサルが
「ぼくもそう思います。でもあの男に捕まってサル回しの芸の一つとして無理やり覚えさせられた笑い方だから、ぼくは笑うことがあまり好きではありません」
と答えた。ぼくはそれを聞いて
「そうだろうなあ。おまえの気持ちがよくわかるよ」
ぼくはサルにそう答えた。サルはそのあと、うちのなかにじっとしていて、外に出ることはなかった。

