天気……空に群雲が広がっていて空の大部分を覆っていたが、時々、雲の切れ目から日の光が射しこんだりしていた。まるで雲とお日様が隠れん坊をしているようで、雲のなかに消えたお日様が今度はどこから顔を出すのだろうかと思いながら見ていると楽しくなった。
サルを助けるためには、女の子の力を借りる必要があるのではないかという思いが、ぼくの心のなかで、ますます強くなっていった。馬小跳たちが正面から堂々と立ち向かっていったこれまで二回の正攻法では、まったく歯が立たなかったからだ。馬小跳たちも自分たち以外のだれかに協力してもらう必要があるのではないかと思っているようだった。二回目の戦いが失敗に終わってからまもなく、馬小跳たちは、ぼくが住んでいる洞窟のなかで、三度目の作戦会議を開いた。会議のなかで、だれに助太刀(すけだち)を頼んだらうまくいくだろうかと問題をめぐって議論百出したが、意見がなかなかまとまらないでいた。
馬小跳が考えていた協力者は、クラスメイトの夏林果という女の子だった。夏林果はバレエを習っていて、体の動きがしなやかで、馬小跳が秘かに心を寄せている女の子だった。顔がとてもきれいで、男の子を魅了するところがあるので、夏林果をサルに近づけさせようとしたら、サル使いの男も、夏林果の美しさに思わず見とれて、魂を抜かれたような顔になって、思いどおりにさせるのではないかと思っていたからだ。馬小跳の考えに張達も同調していた。ところが唐飛と毛超が異を唱えた。サルを助け出すために必要なのは美しさよりも勇気と知恵であり、その点では馬小跳のいとこである杜真子のほうが夏林果よりもまさっていると言っていた。どちらがふさわしいかについて、なかなかまとまらずに、かんかんがくがくの議論が続いたあと、唐飛が
「これ以上、もめても仕方がないから、最終的な判断は笑い猫に一任しよう」
と言った。それを聞いて馬小跳が、けげんそうな顔をしながら
「どうやって判断するのだ?」
と言って聞き返してきた。すると唐飛が
「杜真子と夏林果の名前を、おれが笑い猫に向かって呼ぶから、笑い猫が笑ったほうを適任者にする」
と言った。それを聞いて馬小跳が勝算は見込めないと思って
「そういうやりかたで判断すれば、おれが負けるに決まっているではないか」
と不服そうに言った。
「だったら、どうすればよいのだ?」
唐飛が聞き返していた。
「……」
馬小跳は答に詰まっていた。
唐飛はそれからまもなく、ぼくを抱いて
「夏林果がいいか?」
と聞いた。ぼくは笑わなかった。
「杜真子がいいか?」
今度は笑った。
ぼくが笑っているのを見て、馬小跳が何か言いたそうな顔をしていたが、反論が返ってこないうちに唐飛が
「杜真子に決まりました」
と言って馬小跳の口を封じていた。
それからまもなく馬小跳たちは会議を終えて、うちへ帰っていった。馬小跳はそのあと杜真子と連絡を取って、サルの救出作戦に一役買ってくれることを丁重にお願いしていた。
その翌日、馬小跳たちはサル使いの男に三度目の戦いを挑むために、翠湖公園にやってきた。杜真子もいた。杜真子はレモン色のブラウスを着て、若草色のミニスカートをはいて、とてもおしゃれなかっこうをしていた。手にはデジタルカメラを持っていた。馬小跳たちはサル使いの男から警戒されるのを恐れて、杜真子のあとから三十メートルほど距離を置いて、さりげなく、あとからついてきていた。ぼくもついていった。サル使いの男は今日もまた場所を変えていて、錦池(にしきいけ)の近くで、お客さんがやってくるのを待っていた。
杜真子がサル使いの男のすぐ前までやってくると、猫なで声で
「ねえ、おじさん、サルといっしょに写真を撮らせて」
と言っていた。
「いいよ。十元払ったら撮らせてやる」
サル使いの男がそう答えていた。
「払うわ」
杜真子はそう答えてからサル使いの男に十元札を渡していた。
「ねえ、おじさん、サルを抱いてもいい?」
杜真子がそう言うと、サル使いの男が
「いいよ。お嬢ちゃんはサルが好きなんだね」
と言ってから、杜真子にサルを抱かせてくれた。その瞬間、杜真子はサルを抱いたまま、一目散に走り始めた。それを見て、びっくりしたサル使いの男が
「こら、待て、どこへ行くのだ」
と言って、恐ろしい形相をしながら杜真子を追いかけてきた。杜真子は懸命に逃げていったが、女の子だから走るのが遅く、しかもサルを抱えたままだったからスピードは上がらずに十メートルぐらい走ったところで足にタックルされて倒されてしまった。でも倒される寸前に、杜真子は助太刀(すけだち)に来ていた張達にサルをうまく渡すことに成功していた。張達は足が速いし、体力もあるので、サルを抱えて走っていてもスピードはそれほど落ちずに、どんどん逃げていった。
「くそっ、おまえたちは、ぐるになっていたのか」
サル使いの男は、いまいましそうな顔をしながら、そう言って、今度は張達を追いかけていった。それを見て、ぼくはサル使いの男のふくらはぎの辺りにかみついて邪魔をした。サル使いの男はそれでもひるまないで執拗(しつよう)に張達を追いかけていった。それを見て、ぼくは今度はジャンプをして、尻の辺りにかみついた。サル使いの男は痛がって、張達を追うスピードを落とした。そのためにサル使いの男はそれからまもなく張達の姿を見失って、追いかけるのをあきらめてしまった。サル使いの男は地団太を踏んで悔しがり、そのあと杜真子を、とっちめようとして戻ってきた。ところがそのときには、もうすでに杜真子は助太刀(すけだち)に来ていた馬小跳と唐飛と毛超に導かれて遠くまで逃げていて影も形もなかった。サル使いの男は杜真子を捕まえることもできなかったので
「くそっ、このガキども。ただではすまないからな」
と、捨て台詞(ぜりふ)を吐きながら、公園から出ていった。
こうしてみんなが力を合わせて、三度目の戦いでようやく、サル使いの男に勝利をおさめてサルを解放してやることに成功したので、ぼくは溜飲(りゅういん)が下がった。
馬小跳たちが脱兎(だっと)のような勢いで去っていったあと、サル使いの男は今度はぼくを痛めつけようと思って、ぼくのほうに近づいてきた。それを見て、ぼくは一目散に逃げていった。すると逃げていく途中で地包天に会った。ぼくが息せききっているのを見て地包天が
「笑い猫、どうしたの?」
と聞いた。ぼくはスピードを緩めないまま地包天に
「サル使いの男が追ってきているので逃げているところだ」
と答えた。すると地包天が、ぼくの後ろを見ながら
「だれも追ってきていないわ」
と答えた。それを聞いて、ぼくはスピードを少し緩めて後ろを振り返った。すると確かにサル使いの男の姿はなかった。ぼくはほっとして逃げるのをやめた。ぼくはそのあと地包天に、サルを逃がしてやることができたことを話した。すると地包天がうれしそうな顔をしながら
「よかったわね。これで、あのサルもしあわせな生活ができると思うわ」
と言った。
「そうだね。ぼくもそう思う」
ぼくは地包天にそう答えた。
「サルはこれから、どこでどうやって暮らしていくのかしら」
地包天がサルのことを気づかっていた。
「ぼくにもまだよくわからないけど、馬小跳たちがきっとよい場所を探してくれるよ」
ぼくは地包天にそう答えた。
「そうだよね。馬小跳たちは動物が大好きだから、サルにふさわしい場所を探してくれるはずだわ」
地包天がそう答えていた。ぼくと地包天は、それからまもなく、いっしょに散歩に出かけた。空には群雲がかかっていて、すっきりした天気ではなかったが、困難を極めた救出劇がようやく成功したので、胸のつかえがとれて、ぼくの心のなかは今、晴れ晴れとしていた。
地包天といっしょに一時間ほど湖畔にそって歩いてから、ぼくは眼鏡橋の近くで地包天と
別れて、うちへ帰っていった。すると何と、うちのなかに馬小跳と杜真子がいた。サルもいたので、ぼくはびっくりした。馬小跳がぼくに
「笑い猫、ここでしばらくサルを預かってくれないか」
と言ったので、ぼくは、あっけにとられていた。
「サルをかくまうための一番安全な場所と言えば、ここしか思いつかなかったから」
馬小跳が申し訳なさそうな顔をしながらそう言った。杜真子がそのあと
「笑い猫はサルの言葉も話せると思うから、サルと仲良しになってくれたら、わたしはうれしいわ」
と言った。そう言われても、ぼくは、にっこりと笑みを浮かべるわけにはいかなかった。サルが、ぼくと友だちになることを望んでいるかどうかわからなかったからだ。
「サルといっしょに生活したら笑い猫も寂しくないと思うから、笑い猫、お願い、しばらく、ここでいっしょに生活してくれない?」
杜真子がそう言った。杜真子が哀願するような目でぼくを見ていたから、ぼくは聞き入れないわけにはいかなかった。ぼくはうなずいた。こうして、ぼくは思いがけず、今日からサルといっしょに生活をすることになった。
サルを助けるためには、女の子の力を借りる必要があるのではないかという思いが、ぼくの心のなかで、ますます強くなっていった。馬小跳たちが正面から堂々と立ち向かっていったこれまで二回の正攻法では、まったく歯が立たなかったからだ。馬小跳たちも自分たち以外のだれかに協力してもらう必要があるのではないかと思っているようだった。二回目の戦いが失敗に終わってからまもなく、馬小跳たちは、ぼくが住んでいる洞窟のなかで、三度目の作戦会議を開いた。会議のなかで、だれに助太刀(すけだち)を頼んだらうまくいくだろうかと問題をめぐって議論百出したが、意見がなかなかまとまらないでいた。
馬小跳が考えていた協力者は、クラスメイトの夏林果という女の子だった。夏林果はバレエを習っていて、体の動きがしなやかで、馬小跳が秘かに心を寄せている女の子だった。顔がとてもきれいで、男の子を魅了するところがあるので、夏林果をサルに近づけさせようとしたら、サル使いの男も、夏林果の美しさに思わず見とれて、魂を抜かれたような顔になって、思いどおりにさせるのではないかと思っていたからだ。馬小跳の考えに張達も同調していた。ところが唐飛と毛超が異を唱えた。サルを助け出すために必要なのは美しさよりも勇気と知恵であり、その点では馬小跳のいとこである杜真子のほうが夏林果よりもまさっていると言っていた。どちらがふさわしいかについて、なかなかまとまらずに、かんかんがくがくの議論が続いたあと、唐飛が
「これ以上、もめても仕方がないから、最終的な判断は笑い猫に一任しよう」
と言った。それを聞いて馬小跳が、けげんそうな顔をしながら
「どうやって判断するのだ?」
と言って聞き返してきた。すると唐飛が
「杜真子と夏林果の名前を、おれが笑い猫に向かって呼ぶから、笑い猫が笑ったほうを適任者にする」
と言った。それを聞いて馬小跳が勝算は見込めないと思って
「そういうやりかたで判断すれば、おれが負けるに決まっているではないか」
と不服そうに言った。
「だったら、どうすればよいのだ?」
唐飛が聞き返していた。
「……」
馬小跳は答に詰まっていた。
唐飛はそれからまもなく、ぼくを抱いて
「夏林果がいいか?」
と聞いた。ぼくは笑わなかった。
「杜真子がいいか?」
今度は笑った。
ぼくが笑っているのを見て、馬小跳が何か言いたそうな顔をしていたが、反論が返ってこないうちに唐飛が
「杜真子に決まりました」
と言って馬小跳の口を封じていた。
それからまもなく馬小跳たちは会議を終えて、うちへ帰っていった。馬小跳はそのあと杜真子と連絡を取って、サルの救出作戦に一役買ってくれることを丁重にお願いしていた。
その翌日、馬小跳たちはサル使いの男に三度目の戦いを挑むために、翠湖公園にやってきた。杜真子もいた。杜真子はレモン色のブラウスを着て、若草色のミニスカートをはいて、とてもおしゃれなかっこうをしていた。手にはデジタルカメラを持っていた。馬小跳たちはサル使いの男から警戒されるのを恐れて、杜真子のあとから三十メートルほど距離を置いて、さりげなく、あとからついてきていた。ぼくもついていった。サル使いの男は今日もまた場所を変えていて、錦池(にしきいけ)の近くで、お客さんがやってくるのを待っていた。
杜真子がサル使いの男のすぐ前までやってくると、猫なで声で
「ねえ、おじさん、サルといっしょに写真を撮らせて」
と言っていた。
「いいよ。十元払ったら撮らせてやる」
サル使いの男がそう答えていた。
「払うわ」
杜真子はそう答えてからサル使いの男に十元札を渡していた。
「ねえ、おじさん、サルを抱いてもいい?」
杜真子がそう言うと、サル使いの男が
「いいよ。お嬢ちゃんはサルが好きなんだね」
と言ってから、杜真子にサルを抱かせてくれた。その瞬間、杜真子はサルを抱いたまま、一目散に走り始めた。それを見て、びっくりしたサル使いの男が
「こら、待て、どこへ行くのだ」
と言って、恐ろしい形相をしながら杜真子を追いかけてきた。杜真子は懸命に逃げていったが、女の子だから走るのが遅く、しかもサルを抱えたままだったからスピードは上がらずに十メートルぐらい走ったところで足にタックルされて倒されてしまった。でも倒される寸前に、杜真子は助太刀(すけだち)に来ていた張達にサルをうまく渡すことに成功していた。張達は足が速いし、体力もあるので、サルを抱えて走っていてもスピードはそれほど落ちずに、どんどん逃げていった。
「くそっ、おまえたちは、ぐるになっていたのか」
サル使いの男は、いまいましそうな顔をしながら、そう言って、今度は張達を追いかけていった。それを見て、ぼくはサル使いの男のふくらはぎの辺りにかみついて邪魔をした。サル使いの男はそれでもひるまないで執拗(しつよう)に張達を追いかけていった。それを見て、ぼくは今度はジャンプをして、尻の辺りにかみついた。サル使いの男は痛がって、張達を追うスピードを落とした。そのためにサル使いの男はそれからまもなく張達の姿を見失って、追いかけるのをあきらめてしまった。サル使いの男は地団太を踏んで悔しがり、そのあと杜真子を、とっちめようとして戻ってきた。ところがそのときには、もうすでに杜真子は助太刀(すけだち)に来ていた馬小跳と唐飛と毛超に導かれて遠くまで逃げていて影も形もなかった。サル使いの男は杜真子を捕まえることもできなかったので
「くそっ、このガキども。ただではすまないからな」
と、捨て台詞(ぜりふ)を吐きながら、公園から出ていった。
こうしてみんなが力を合わせて、三度目の戦いでようやく、サル使いの男に勝利をおさめてサルを解放してやることに成功したので、ぼくは溜飲(りゅういん)が下がった。
馬小跳たちが脱兎(だっと)のような勢いで去っていったあと、サル使いの男は今度はぼくを痛めつけようと思って、ぼくのほうに近づいてきた。それを見て、ぼくは一目散に逃げていった。すると逃げていく途中で地包天に会った。ぼくが息せききっているのを見て地包天が
「笑い猫、どうしたの?」
と聞いた。ぼくはスピードを緩めないまま地包天に
「サル使いの男が追ってきているので逃げているところだ」
と答えた。すると地包天が、ぼくの後ろを見ながら
「だれも追ってきていないわ」
と答えた。それを聞いて、ぼくはスピードを少し緩めて後ろを振り返った。すると確かにサル使いの男の姿はなかった。ぼくはほっとして逃げるのをやめた。ぼくはそのあと地包天に、サルを逃がしてやることができたことを話した。すると地包天がうれしそうな顔をしながら
「よかったわね。これで、あのサルもしあわせな生活ができると思うわ」
と言った。
「そうだね。ぼくもそう思う」
ぼくは地包天にそう答えた。
「サルはこれから、どこでどうやって暮らしていくのかしら」
地包天がサルのことを気づかっていた。
「ぼくにもまだよくわからないけど、馬小跳たちがきっとよい場所を探してくれるよ」
ぼくは地包天にそう答えた。
「そうだよね。馬小跳たちは動物が大好きだから、サルにふさわしい場所を探してくれるはずだわ」
地包天がそう答えていた。ぼくと地包天は、それからまもなく、いっしょに散歩に出かけた。空には群雲がかかっていて、すっきりした天気ではなかったが、困難を極めた救出劇がようやく成功したので、胸のつかえがとれて、ぼくの心のなかは今、晴れ晴れとしていた。
地包天といっしょに一時間ほど湖畔にそって歩いてから、ぼくは眼鏡橋の近くで地包天と
別れて、うちへ帰っていった。すると何と、うちのなかに馬小跳と杜真子がいた。サルもいたので、ぼくはびっくりした。馬小跳がぼくに
「笑い猫、ここでしばらくサルを預かってくれないか」
と言ったので、ぼくは、あっけにとられていた。
「サルをかくまうための一番安全な場所と言えば、ここしか思いつかなかったから」
馬小跳が申し訳なさそうな顔をしながらそう言った。杜真子がそのあと
「笑い猫はサルの言葉も話せると思うから、サルと仲良しになってくれたら、わたしはうれしいわ」
と言った。そう言われても、ぼくは、にっこりと笑みを浮かべるわけにはいかなかった。サルが、ぼくと友だちになることを望んでいるかどうかわからなかったからだ。
「サルといっしょに生活したら笑い猫も寂しくないと思うから、笑い猫、お願い、しばらく、ここでいっしょに生活してくれない?」
杜真子がそう言った。杜真子が哀願するような目でぼくを見ていたから、ぼくは聞き入れないわけにはいかなかった。ぼくはうなずいた。こうして、ぼくは思いがけず、今日からサルといっしょに生活をすることになった。

