天気……昼間は薄い雲が空一面にかかっていた。風はそよそよと柔らかく吹いていて、肌に当たる感触がとても心地よかった。夕方になると、雲は消えて、西の空がほんのりと茜色に染まり、次第に夜のとばりが降りていった。日が暮れると東の空に三日月がかかり、夜が更けていくとともに天空に無数の星が現れて、宝石のように輝いていた。
今日の朝、サーカス団の団員たちは、練習を終えたあと、これからの興行の方針について真剣な顔をしながら話し合っていた。スピーカーを用いて、あれほど宣伝したにもかかわらず、お客さんの入りがよくなかったからだ。団員のなかには、この公園での興行は先行きが見通せないと言って、ここから出たほうがよいのではないかと提言するものもいた。この町の人たちの教養の程度が低すぎるので、自分たちがおこなっている高尚な演目についてくることができないし、理解も得られないのだと言って、町の人たちに非難の矛先を向ける団員もいた。スイカ―が同じ時間に別の場所で、子どもに受けるような興行をおこなっているので、客を取られて集まらないのだと言ってスイカ―を非難したり、開演時間を変えて午前中におこなったり、曜日を変えて日曜日に興行をおこなったらどうかと提案する団員もいた。議論が百出する話し合いに、団長は静かに耳を傾けながら、これからの方針について真剣に考えているように見えた。しばらくしてから団長は
「みんなの意見を聞いて、どれももっともだと思う。しかしここを出て別の場所でおこなうにしても、客が多く集まるかどうか見通せないし、曜日や時間を変えても、スイカ―がおこなっている子どもに受けるショーほど人気を博さないかもしれない。それを思うと、もうしばらくここで土曜日ごとに午後の二時半から興行をおこなうことにする」
と言った。それを聞いて、団員のなかの一人が
「分かりました。でも、スイカ―をこのまま、のさばらせておくわけにはいきません。この公園から追放しましょう。そうしない限り、我々の興行の収益が上がりません」
と言っていた。
「分かった。むろん、おれもスイカ―を追放するつもりでいる」
団長がそう答えていた。それを聞いて、団員のなかの一人が
「おれが、この前、楠林の外から双眼鏡で、なかをのぞいたら、楠林の先にある広場でスイカ―が動物に芸を教えていた。スイカ―を追放したら、あの動物たちは路頭に迷うかもしれないので、スイカ―を追放したあと、わしらのサーカス団に引き込まないか。あの動物たちは銭が取れるぞ」
と提案していた。それを聞いて団長が興味深そうな顔をしながら
「動物たちはどんな芸を学んでいたのか」
と聞いていた。
「宙返りや、一輪車乗りや、空中飛びなどを練習していた。ああいうのを演目の合間に取り入れるのも面白いのではないか」
団員がそう答えていた。
「そうか。でも動物たちはスイカ―の指示にしか従わないのではないのか」
団長がそう答えていた。
「確かにそうかもしれない。オウムだって、そうだったからな」
団員がそう答えていた。
「スイカ―にもう一度、戻ってきてもらいましょうか」
女性の団員がそう言っていた。すると団長が首を横に振った。
「それはできない。スイカ―をステージに上げて動物たちに曲芸をさせたら、我々が目的としている見る人の人格を陶冶することとは相反することになるからだ」
団長が、きっぱりとした態度でそう言った。それを聞いて女性の団員は
「団長がそう思われるようだったら、団長の意見に従います。スイカ―をこの公園から追放したら、動物たちも自然とこの公園から出ていくと思います」
と答えていた。
団員たちの話し合いはお昼近くまで続いていた。ぼくはサーカス小屋の外に隠れながら話し合いの内容を耳をそばだてながら聞いていた、聞いていればいるほどスイカ―がかわいそうに思えてきた。
団員たちの話し合いが終わったあと、ぼくはうちへ帰って、妻猫や子どもたちといっしょに昼ご飯を食べて、そのあと、老いらくさんを訪ねていった。話し合いの内容を、ぼくは老いらくさんに伝えた。すると老いらくさんが
「サーカス団の収益が上がらないのは自分たちに客を引き寄せるだけの魅力がないからだ。そのことは棚上げにして、この町の人たちの教養が低すぎるせいだと言ったり、スイカ―のせいだと言うのは、責任転嫁も甚だしい。どう見ても正しい考え方とは言えない」
老いらくさんがそう言った。
「ぼくもそう思います。それに、あの人たちは芸術的なサーカスを見せていると言っていますが、見た目の美しさだけを追求していて内面的な美しさが少しも感じられません。見る人を感動させるのは心の美しさが反映されている深い芸であって、表面的な美しさではありません」
ぼくは老いらくさんにそう言った。それを聞いて老いらくさんが
「わしもそう思う。あのサーカス団の団員たちが演じている芸の領域は、けっして深くない」
と言った。
「たいした芸を演じているわけでもないのに、演芸研究家に多額のお金を払って、いかにも立派な芸を演じているように案内書に書いてもらったり、公園の管理事務所にお金を払ってスピーカーで派手に宣伝したりする行為は、けっして許されることではありません」
ぼくは老いらくさんにそう言った。
「お金さえ払えば、何でも自分の思う通りになるとでも思っているようだが、世の中はお金がすべてではない。一番大切なのはお金ではなくて愛だ」
老いらくさんがそう言った。
「ぼくもそう思います。スイカ―はお金持ちではないので、宣伝はしなかったけど、たくさんの子どもたちを毎回引き寄せています。子どもたちへの愛があふれていて、その愛が子どもたちに伝わって、口コミで広がっていったからだと思います」
ぼくは老いらくさんにそう言った。それを聞いて、老いらくさんが
「愛はけっして滅びることはない。たとえスイカ―がこの公園から追放されても、スイカ―の子どもたちへの愛は永遠に生き続ける。そして子どもたちも永遠にスイカ―を愛し続ける」
と言った。意味深長な老いらくさんの言葉を、ぼくはうなずきながら聞いていた。
ぼくはそのあと老いらくさんといっしょに、楠林のほうへ行った。楠林の先にある広場のなかで午後の練習が始まっていて、シャオパイとフェイナが、スイカ―の言葉を以心伝心で理解して指示に従って、手足を動かして踊っていた。いつもはシャオパイとフェイナは
スイカ―の頭の上に乗っているオウムの歌に合わせて踊っていたが、今日はCDの音楽に合わせて踊っていた。オウムの姿はどこにもなかったので、どこに行ったのだろうと思って、ぼくは少し不安になった。この前、サーカス団の団員が網でオウムを捕まえようとしていた場面が頭のなかに、ちらっとよぎったので、ぼくの不安は時間が経つとともに募っていくばかりだった。シャオパイとフェイナのダンスの練習が終わったあと、ぼくはすぐシャオパイとフェイナの近くに駆け寄っていって、オウムのことを訊ねた。するとシャオパイもフェイナも知らなかった。ここへ来たときには、もうすでにいなくて、その後一度も姿を見ていないとのことだった。ぼくはオウムの声真似をして、オウムに呼びかけた。でもどこからも返事が返ってこなかった。まさか捕まっているのではないかと思って、ぼくは不安でたまらなくなった。スイカ―も、とても不安そうな顔をしていたので、オウムのことを案じているのではないかと思った。ぼくは空を飛ぶことはできないから、高いところから広範囲に探すことはできないので、オウムの姿が見えないことが、もどかしくてたまらなかった。老いらくさんも心配そうな顔をしていた。
「まだ捕まっているとは限らないので、そんなに暗い顔をするなよ」
老いらくさんがそう言って励ましてくれたが、ぼくには気休めに過ぎないように思えた。
オウムが無事であることを願いながら、ぼくは重い足取りで、うちへ帰っていった。シャオパイとフェイナも、いつもはスキップをしながら楽しそうに帰っていくが、今日はそんな気持ちにはなれなかったのか、オウムのことを気遣いながら、静かに帰っていった。老いらくさんも、いつもはころころと転がるように元気よく帰っていくが、今は何か悪い胸騒ぎでもしているのか、うつうつとした顔をしながら、鉛を引きずるような重い足どりで、ゆるゆると帰っていった。
今日の朝、サーカス団の団員たちは、練習を終えたあと、これからの興行の方針について真剣な顔をしながら話し合っていた。スピーカーを用いて、あれほど宣伝したにもかかわらず、お客さんの入りがよくなかったからだ。団員のなかには、この公園での興行は先行きが見通せないと言って、ここから出たほうがよいのではないかと提言するものもいた。この町の人たちの教養の程度が低すぎるので、自分たちがおこなっている高尚な演目についてくることができないし、理解も得られないのだと言って、町の人たちに非難の矛先を向ける団員もいた。スイカ―が同じ時間に別の場所で、子どもに受けるような興行をおこなっているので、客を取られて集まらないのだと言ってスイカ―を非難したり、開演時間を変えて午前中におこなったり、曜日を変えて日曜日に興行をおこなったらどうかと提案する団員もいた。議論が百出する話し合いに、団長は静かに耳を傾けながら、これからの方針について真剣に考えているように見えた。しばらくしてから団長は
「みんなの意見を聞いて、どれももっともだと思う。しかしここを出て別の場所でおこなうにしても、客が多く集まるかどうか見通せないし、曜日や時間を変えても、スイカ―がおこなっている子どもに受けるショーほど人気を博さないかもしれない。それを思うと、もうしばらくここで土曜日ごとに午後の二時半から興行をおこなうことにする」
と言った。それを聞いて、団員のなかの一人が
「分かりました。でも、スイカ―をこのまま、のさばらせておくわけにはいきません。この公園から追放しましょう。そうしない限り、我々の興行の収益が上がりません」
と言っていた。
「分かった。むろん、おれもスイカ―を追放するつもりでいる」
団長がそう答えていた。それを聞いて、団員のなかの一人が
「おれが、この前、楠林の外から双眼鏡で、なかをのぞいたら、楠林の先にある広場でスイカ―が動物に芸を教えていた。スイカ―を追放したら、あの動物たちは路頭に迷うかもしれないので、スイカ―を追放したあと、わしらのサーカス団に引き込まないか。あの動物たちは銭が取れるぞ」
と提案していた。それを聞いて団長が興味深そうな顔をしながら
「動物たちはどんな芸を学んでいたのか」
と聞いていた。
「宙返りや、一輪車乗りや、空中飛びなどを練習していた。ああいうのを演目の合間に取り入れるのも面白いのではないか」
団員がそう答えていた。
「そうか。でも動物たちはスイカ―の指示にしか従わないのではないのか」
団長がそう答えていた。
「確かにそうかもしれない。オウムだって、そうだったからな」
団員がそう答えていた。
「スイカ―にもう一度、戻ってきてもらいましょうか」
女性の団員がそう言っていた。すると団長が首を横に振った。
「それはできない。スイカ―をステージに上げて動物たちに曲芸をさせたら、我々が目的としている見る人の人格を陶冶することとは相反することになるからだ」
団長が、きっぱりとした態度でそう言った。それを聞いて女性の団員は
「団長がそう思われるようだったら、団長の意見に従います。スイカ―をこの公園から追放したら、動物たちも自然とこの公園から出ていくと思います」
と答えていた。
団員たちの話し合いはお昼近くまで続いていた。ぼくはサーカス小屋の外に隠れながら話し合いの内容を耳をそばだてながら聞いていた、聞いていればいるほどスイカ―がかわいそうに思えてきた。
団員たちの話し合いが終わったあと、ぼくはうちへ帰って、妻猫や子どもたちといっしょに昼ご飯を食べて、そのあと、老いらくさんを訪ねていった。話し合いの内容を、ぼくは老いらくさんに伝えた。すると老いらくさんが
「サーカス団の収益が上がらないのは自分たちに客を引き寄せるだけの魅力がないからだ。そのことは棚上げにして、この町の人たちの教養が低すぎるせいだと言ったり、スイカ―のせいだと言うのは、責任転嫁も甚だしい。どう見ても正しい考え方とは言えない」
老いらくさんがそう言った。
「ぼくもそう思います。それに、あの人たちは芸術的なサーカスを見せていると言っていますが、見た目の美しさだけを追求していて内面的な美しさが少しも感じられません。見る人を感動させるのは心の美しさが反映されている深い芸であって、表面的な美しさではありません」
ぼくは老いらくさんにそう言った。それを聞いて老いらくさんが
「わしもそう思う。あのサーカス団の団員たちが演じている芸の領域は、けっして深くない」
と言った。
「たいした芸を演じているわけでもないのに、演芸研究家に多額のお金を払って、いかにも立派な芸を演じているように案内書に書いてもらったり、公園の管理事務所にお金を払ってスピーカーで派手に宣伝したりする行為は、けっして許されることではありません」
ぼくは老いらくさんにそう言った。
「お金さえ払えば、何でも自分の思う通りになるとでも思っているようだが、世の中はお金がすべてではない。一番大切なのはお金ではなくて愛だ」
老いらくさんがそう言った。
「ぼくもそう思います。スイカ―はお金持ちではないので、宣伝はしなかったけど、たくさんの子どもたちを毎回引き寄せています。子どもたちへの愛があふれていて、その愛が子どもたちに伝わって、口コミで広がっていったからだと思います」
ぼくは老いらくさんにそう言った。それを聞いて、老いらくさんが
「愛はけっして滅びることはない。たとえスイカ―がこの公園から追放されても、スイカ―の子どもたちへの愛は永遠に生き続ける。そして子どもたちも永遠にスイカ―を愛し続ける」
と言った。意味深長な老いらくさんの言葉を、ぼくはうなずきながら聞いていた。
ぼくはそのあと老いらくさんといっしょに、楠林のほうへ行った。楠林の先にある広場のなかで午後の練習が始まっていて、シャオパイとフェイナが、スイカ―の言葉を以心伝心で理解して指示に従って、手足を動かして踊っていた。いつもはシャオパイとフェイナは
スイカ―の頭の上に乗っているオウムの歌に合わせて踊っていたが、今日はCDの音楽に合わせて踊っていた。オウムの姿はどこにもなかったので、どこに行ったのだろうと思って、ぼくは少し不安になった。この前、サーカス団の団員が網でオウムを捕まえようとしていた場面が頭のなかに、ちらっとよぎったので、ぼくの不安は時間が経つとともに募っていくばかりだった。シャオパイとフェイナのダンスの練習が終わったあと、ぼくはすぐシャオパイとフェイナの近くに駆け寄っていって、オウムのことを訊ねた。するとシャオパイもフェイナも知らなかった。ここへ来たときには、もうすでにいなくて、その後一度も姿を見ていないとのことだった。ぼくはオウムの声真似をして、オウムに呼びかけた。でもどこからも返事が返ってこなかった。まさか捕まっているのではないかと思って、ぼくは不安でたまらなくなった。スイカ―も、とても不安そうな顔をしていたので、オウムのことを案じているのではないかと思った。ぼくは空を飛ぶことはできないから、高いところから広範囲に探すことはできないので、オウムの姿が見えないことが、もどかしくてたまらなかった。老いらくさんも心配そうな顔をしていた。
「まだ捕まっているとは限らないので、そんなに暗い顔をするなよ」
老いらくさんがそう言って励ましてくれたが、ぼくには気休めに過ぎないように思えた。
オウムが無事であることを願いながら、ぼくは重い足取りで、うちへ帰っていった。シャオパイとフェイナも、いつもはスキップをしながら楽しそうに帰っていくが、今日はそんな気持ちにはなれなかったのか、オウムのことを気遣いながら、静かに帰っていった。老いらくさんも、いつもはころころと転がるように元気よく帰っていくが、今は何か悪い胸騒ぎでもしているのか、うつうつとした顔をしながら、鉛を引きずるような重い足どりで、ゆるゆると帰っていった。

