天気……今日は二十四節気のなかのひとつ小暑。夏の暑さも、いよいよこれからが本番になる。日中は暑さが厳しくなってきたが、朝晩はまだいくぶん涼しさが感じられる。
朝の十時ごろ、翠湖の湖畔にそって散歩をしていると、向こうから老いらくさんがやってきた。
「笑い猫、おはよう。おまえに知らせたいビッグニュースがある」
老いらくさんがそう言った。
「何ですか」
ぼくは間髪を入れずに、すぐに聞き返した。
「サーカス団が出ていくことになった」
老いらくさんがそう言った。
「本当ですか」
ぼくはびっくりしていた。
「興行が赤字続きで、これ以上、続けていくことができなくなったみたいだ。今、サーカス小屋の片づけをおこなっている」
老いらくさんがそう言った。
「そうでしたか。いずれそうなるとは思っていましたが、ついにその日がやってきましたか」
ぼくはそう答えた。それからまもなく、ぼくは老いらくさんといっしょにサーカス小屋が設営されている梅園の近くまでいった。するとやはり老いらくさんが言ったとおりにサーカス小屋の片づけがおこなわれているのが見えた。小屋のすぐ近くにはトラックが横づけされていて、団員たちが積み込み作業をおこなっていた。それを見ながら、ぼくは老いらくさんに
「スイカ―はこのことを知っているのでしょうか」
と聞いた。すると老いらくさんが
「まだ知らないと思う」
と答えた。
「いずれ知るときがくると思いますが、これからはスイカ―は、サーカス団に気兼ねをすることなく、ショーを開くことができますね」
ぼくは老いらくさんにそう言った。
「そうだな。実におめでたいことだ。笑い猫、サーカス団の退去を祝って祝杯をあげないか」
老いらくさんが晴れ晴れしたような顔でそう言った。老いらくさんは何かうれしいことがあると、すぐにワインを飲もうとする。
「いいですね、おいしいワインがありますか」
ぼくは調子を合わせて、そう言った。
「あるよ。飲み残したまま捨ててある赤ワインを昨日、拾ってきたばかりだから」
老いらくさんがそう答えた。
「そうですか。それはぜひ、ぼくにも一口、飲ませていただきたいものです」
ぼくは相好をくずしながらそう言った。
「いいよ。わしはこれからうちへ帰ってワインを持ってくるから、おまえは一足先に梅園に行って、わしを待っていろ」
老いらくさんがそう言った。
「分かりました。そうします」
ぼくは老いらくさんにそう答えた。それからまもなく老いらくさんは、うちへ帰っていった。ぼくが梅園のなかに入ってしばらく待っていると、老いらくさんが運搬用に使っているスケートボードの上に赤ワインが入った小瓶と、グラスを二個乗せて引いてくるのが見えた。ぼくは急いで駆け寄っていった。
「笑い猫、持ってきたぞ。さあ、乾杯しよう」
老いらくさんがそう言った。ぼくは、にっこりとうなずいた。
「サーカス団が出ていくことを祝って乾杯!」
「スイカ―のショーがますます楽しくなることを願って乾杯!」
ぼくと老いらくさんはそう言って、グラスを合わせながら、赤ワインを一口飲んだ。ぼくも老いらくさんもワインはいける口なので、本当はもう少し飲みたいと思っていた。でも
今日は土曜日だから午後からスイカ―のショーがあるし、そのショーに、ぼくも老いらくさんも出なければならなかったので、それ以上は飲まないことにした。酔っぱらって赤い顔をして出るわけにはいかないと思ったからだ。ぼくと老いらくさんは赤ワインを飲んで、ほろよい機嫌に浸りながら楽しい話をして心を弾ませながら、それぞれのうちへ帰っていった。
妻猫や子どもたちといっしょにお昼ご飯を食べたあと、ぼくは家族みんなで島へ行った。島に着くと、地包天やシャオパイやフェイナはもうすでに来ていて、ショーで披露する技の最終チェックをおこなっていた。老いらくさんもそれからまもなくやってきて、ボールのなかに入ってころころと転がりながらウォーミングアップを始めた。パントーとアーヤーとサンパオも、今日のショーで披露する技の試技を繰り返しおこなって、感触を確かめていた。ショーが始まる三十分ほど前から、子どもたちが続々と島に渡ってきた。馬小跳や唐飛や毛超や張達や杜真子もいた。
それからまもなくショーが始まり、スイカ―が子どもたちにあいさつをしていた。
「皆さん、こんにちは。お元気ですか」
スイカ―がそう言うと、会場のあちこちから
「元気です」
という明るい声が返ってきた。
「今日は何月何日ですか」
スイカ―が聞いていた。
「七月七日です」
子どものなかの一人がそう答えていた。
「そうですね。今日は七月七日です。七月七日と言えば、皆さんは何を思い浮かべますか」
スイカ―が聞いていた。
「七夕です」
子どものなかの一人がそう答えていた。
「そうですね。今日は七夕です。七夕はどんな日ですか」
スイカ―が聞いていた。
「織姫様と彦星様が一年に一度会う日です」
子どものなかの一人がそう答えていた。
「そうですね。今日は星まつりだから、ショーの初めにみんなで星にまつわる歌を歌いましょう」
スイカ―がそう言っていた。
「どんな歌を歌うのですか」
子どものなかの一人が聞いていた。
「『きらきら星』を歌います。皆さん、知っていますか」
スイカ―が聞いていた。
「知っています」
という声が会場のあちこちから聞こえてきた。
「そうですか。それはよかったです。これからオウムが音頭を取って歌い始めますから、そのあとみんなで唱和してください」
スイカ―がそう言うと
「分かりました。歌います」
という声が、会場のあちこちから聞こえてきた。スイカ―が帽子を軽く二回たたいて、頭の上に乗っていたオウムに合図を送ると、それからまもなくオウムが『きらきら星』を歌い始めた。子どもたちはオウムの声に合わせながら楽しそうに歌っていた。歌が終わるとスイカ―が
「皆さん、とても上手に歌うことができました。聞いていて、とても心地よかったです」
と、にこやかな顔をしながら答えていた。
「わたしも心地よかったです」
子どものなかの一人がそう答えていた。
「ではこれから、皆さんに楽しい曲芸をお見せいたします」
スイカ―がそう言ったので、子どもたちは拍手をしていた。一番最初に技を披露したのはサンパオだった。ボールのなかに入っている老いらくさんと息がぴったり合っていて、ボールの上で三回転ジャンプをしてから、ボールの上に見事に着地することに成功した。その瞬間、子どもたちの間から大きな歓声が上がった。サンパオはこれまで二回転ジャンプをすることはできていたが、三回転ジャンプに成功したのは、これが初めてだったので、とてもうれしそうな顔をしていた。
次に技を披露したのはパントーとアーヤーだった。落ちてきたボールに向かってジャンプしてヘディングパスをするという技を披露していた。パスが成功するたびに子どもたちの間から歓声があがっていた。ジャンピングパスを続けるのはこれまでは六回が最高だったが、今日は九回続けることができたので、パントーとアーヤーも満足そうな顔をしていた。
次に技を披露したのはフェイナとシャオパイだった。今日はワルツではなくてポルカの曲を踊っていた。ポルカはワルツとは違って四分の二拍子の曲だから、リズムの取り方や、ステップの跳び方を短期間のうちに習得するのは大変だったと思う。でもスイカ―の適切な指導のもとで、フェイナもシャオパイもマスターして上手に踊っていた。子どもたちは初めのうちは、にこにこと笑いながら見ているだけだったが、しばらくしてから男の子と女の子がペアを組んで、フェイナとシャオパイの真似をしながら楽しそうに踊り始めた。踊っている子どもたちの顔は喜びにあふれていた。
すべての演目が終わったあと、スイカ―が子どもたちに
「皆さん、今日は楽しんでいただけたでしょうか」
と言って、子どもたちに呼びかけていた。
「楽しかったです」
子どもたちがそう答えていた。
それからまもなく馬小跳が、すっと立ち上がって、スイカ―の前に近づいてくるのが見えた。馬小跳は手に何か持っていた。馬小跳のあとに続いて、杜真子が手にバラの花束を持ってスイカ―の前に近づいてくるのも見えた。
「ぼくたちをいつも楽しませてくれてありがとうございます。これは、ぼくたちからの感謝状です」
馬小跳がそう言ってから、手にもっていた感謝状を読み始めた。
「親愛なるスイカ―様。あなたは、ぼくたちにとって、一生忘れられない演出家として、心に深い印象を与えてくれました。ここにあなたの功績をたたえて表彰いたします」
馬小跳が普段とは別人のように、とてもかしこまったような顔をしながら、そう言っていた。馬小跳は、スイカ―にうやうやしく最敬礼をしながら感謝状を渡していた。杜真子がそのあとスイカ―にバラの花束を渡していた。それを見て会場全体から割れんばかりの大きな拍手が起きた。
思いがけないプレゼントをもらってスイカ―は照れたような顔をしながら
「ありがとう。みんなに喜んでもらって、こんなにうれしいことはないよ」
と言っていった。
「これからも、ずっと、この島でショーを続けてください」
「スイカ―は、わたしたちにとって、永遠のアイドルです」
子どもたちはそう言いながら、スイカ―の周りにわっと集まってきて、昼下がりのひとときを楽しく過ごしていた。スイカ―の目からは感涙が、とめどなく、ぽろぽろと流れていた。
朝の十時ごろ、翠湖の湖畔にそって散歩をしていると、向こうから老いらくさんがやってきた。
「笑い猫、おはよう。おまえに知らせたいビッグニュースがある」
老いらくさんがそう言った。
「何ですか」
ぼくは間髪を入れずに、すぐに聞き返した。
「サーカス団が出ていくことになった」
老いらくさんがそう言った。
「本当ですか」
ぼくはびっくりしていた。
「興行が赤字続きで、これ以上、続けていくことができなくなったみたいだ。今、サーカス小屋の片づけをおこなっている」
老いらくさんがそう言った。
「そうでしたか。いずれそうなるとは思っていましたが、ついにその日がやってきましたか」
ぼくはそう答えた。それからまもなく、ぼくは老いらくさんといっしょにサーカス小屋が設営されている梅園の近くまでいった。するとやはり老いらくさんが言ったとおりにサーカス小屋の片づけがおこなわれているのが見えた。小屋のすぐ近くにはトラックが横づけされていて、団員たちが積み込み作業をおこなっていた。それを見ながら、ぼくは老いらくさんに
「スイカ―はこのことを知っているのでしょうか」
と聞いた。すると老いらくさんが
「まだ知らないと思う」
と答えた。
「いずれ知るときがくると思いますが、これからはスイカ―は、サーカス団に気兼ねをすることなく、ショーを開くことができますね」
ぼくは老いらくさんにそう言った。
「そうだな。実におめでたいことだ。笑い猫、サーカス団の退去を祝って祝杯をあげないか」
老いらくさんが晴れ晴れしたような顔でそう言った。老いらくさんは何かうれしいことがあると、すぐにワインを飲もうとする。
「いいですね、おいしいワインがありますか」
ぼくは調子を合わせて、そう言った。
「あるよ。飲み残したまま捨ててある赤ワインを昨日、拾ってきたばかりだから」
老いらくさんがそう答えた。
「そうですか。それはぜひ、ぼくにも一口、飲ませていただきたいものです」
ぼくは相好をくずしながらそう言った。
「いいよ。わしはこれからうちへ帰ってワインを持ってくるから、おまえは一足先に梅園に行って、わしを待っていろ」
老いらくさんがそう言った。
「分かりました。そうします」
ぼくは老いらくさんにそう答えた。それからまもなく老いらくさんは、うちへ帰っていった。ぼくが梅園のなかに入ってしばらく待っていると、老いらくさんが運搬用に使っているスケートボードの上に赤ワインが入った小瓶と、グラスを二個乗せて引いてくるのが見えた。ぼくは急いで駆け寄っていった。
「笑い猫、持ってきたぞ。さあ、乾杯しよう」
老いらくさんがそう言った。ぼくは、にっこりとうなずいた。
「サーカス団が出ていくことを祝って乾杯!」
「スイカ―のショーがますます楽しくなることを願って乾杯!」
ぼくと老いらくさんはそう言って、グラスを合わせながら、赤ワインを一口飲んだ。ぼくも老いらくさんもワインはいける口なので、本当はもう少し飲みたいと思っていた。でも
今日は土曜日だから午後からスイカ―のショーがあるし、そのショーに、ぼくも老いらくさんも出なければならなかったので、それ以上は飲まないことにした。酔っぱらって赤い顔をして出るわけにはいかないと思ったからだ。ぼくと老いらくさんは赤ワインを飲んで、ほろよい機嫌に浸りながら楽しい話をして心を弾ませながら、それぞれのうちへ帰っていった。
妻猫や子どもたちといっしょにお昼ご飯を食べたあと、ぼくは家族みんなで島へ行った。島に着くと、地包天やシャオパイやフェイナはもうすでに来ていて、ショーで披露する技の最終チェックをおこなっていた。老いらくさんもそれからまもなくやってきて、ボールのなかに入ってころころと転がりながらウォーミングアップを始めた。パントーとアーヤーとサンパオも、今日のショーで披露する技の試技を繰り返しおこなって、感触を確かめていた。ショーが始まる三十分ほど前から、子どもたちが続々と島に渡ってきた。馬小跳や唐飛や毛超や張達や杜真子もいた。
それからまもなくショーが始まり、スイカ―が子どもたちにあいさつをしていた。
「皆さん、こんにちは。お元気ですか」
スイカ―がそう言うと、会場のあちこちから
「元気です」
という明るい声が返ってきた。
「今日は何月何日ですか」
スイカ―が聞いていた。
「七月七日です」
子どものなかの一人がそう答えていた。
「そうですね。今日は七月七日です。七月七日と言えば、皆さんは何を思い浮かべますか」
スイカ―が聞いていた。
「七夕です」
子どものなかの一人がそう答えていた。
「そうですね。今日は七夕です。七夕はどんな日ですか」
スイカ―が聞いていた。
「織姫様と彦星様が一年に一度会う日です」
子どものなかの一人がそう答えていた。
「そうですね。今日は星まつりだから、ショーの初めにみんなで星にまつわる歌を歌いましょう」
スイカ―がそう言っていた。
「どんな歌を歌うのですか」
子どものなかの一人が聞いていた。
「『きらきら星』を歌います。皆さん、知っていますか」
スイカ―が聞いていた。
「知っています」
という声が会場のあちこちから聞こえてきた。
「そうですか。それはよかったです。これからオウムが音頭を取って歌い始めますから、そのあとみんなで唱和してください」
スイカ―がそう言うと
「分かりました。歌います」
という声が、会場のあちこちから聞こえてきた。スイカ―が帽子を軽く二回たたいて、頭の上に乗っていたオウムに合図を送ると、それからまもなくオウムが『きらきら星』を歌い始めた。子どもたちはオウムの声に合わせながら楽しそうに歌っていた。歌が終わるとスイカ―が
「皆さん、とても上手に歌うことができました。聞いていて、とても心地よかったです」
と、にこやかな顔をしながら答えていた。
「わたしも心地よかったです」
子どものなかの一人がそう答えていた。
「ではこれから、皆さんに楽しい曲芸をお見せいたします」
スイカ―がそう言ったので、子どもたちは拍手をしていた。一番最初に技を披露したのはサンパオだった。ボールのなかに入っている老いらくさんと息がぴったり合っていて、ボールの上で三回転ジャンプをしてから、ボールの上に見事に着地することに成功した。その瞬間、子どもたちの間から大きな歓声が上がった。サンパオはこれまで二回転ジャンプをすることはできていたが、三回転ジャンプに成功したのは、これが初めてだったので、とてもうれしそうな顔をしていた。
次に技を披露したのはパントーとアーヤーだった。落ちてきたボールに向かってジャンプしてヘディングパスをするという技を披露していた。パスが成功するたびに子どもたちの間から歓声があがっていた。ジャンピングパスを続けるのはこれまでは六回が最高だったが、今日は九回続けることができたので、パントーとアーヤーも満足そうな顔をしていた。
次に技を披露したのはフェイナとシャオパイだった。今日はワルツではなくてポルカの曲を踊っていた。ポルカはワルツとは違って四分の二拍子の曲だから、リズムの取り方や、ステップの跳び方を短期間のうちに習得するのは大変だったと思う。でもスイカ―の適切な指導のもとで、フェイナもシャオパイもマスターして上手に踊っていた。子どもたちは初めのうちは、にこにこと笑いながら見ているだけだったが、しばらくしてから男の子と女の子がペアを組んで、フェイナとシャオパイの真似をしながら楽しそうに踊り始めた。踊っている子どもたちの顔は喜びにあふれていた。
すべての演目が終わったあと、スイカ―が子どもたちに
「皆さん、今日は楽しんでいただけたでしょうか」
と言って、子どもたちに呼びかけていた。
「楽しかったです」
子どもたちがそう答えていた。
それからまもなく馬小跳が、すっと立ち上がって、スイカ―の前に近づいてくるのが見えた。馬小跳は手に何か持っていた。馬小跳のあとに続いて、杜真子が手にバラの花束を持ってスイカ―の前に近づいてくるのも見えた。
「ぼくたちをいつも楽しませてくれてありがとうございます。これは、ぼくたちからの感謝状です」
馬小跳がそう言ってから、手にもっていた感謝状を読み始めた。
「親愛なるスイカ―様。あなたは、ぼくたちにとって、一生忘れられない演出家として、心に深い印象を与えてくれました。ここにあなたの功績をたたえて表彰いたします」
馬小跳が普段とは別人のように、とてもかしこまったような顔をしながら、そう言っていた。馬小跳は、スイカ―にうやうやしく最敬礼をしながら感謝状を渡していた。杜真子がそのあとスイカ―にバラの花束を渡していた。それを見て会場全体から割れんばかりの大きな拍手が起きた。
思いがけないプレゼントをもらってスイカ―は照れたような顔をしながら
「ありがとう。みんなに喜んでもらって、こんなにうれしいことはないよ」
と言っていった。
「これからも、ずっと、この島でショーを続けてください」
「スイカ―は、わたしたちにとって、永遠のアイドルです」
子どもたちはそう言いながら、スイカ―の周りにわっと集まってきて、昼下がりのひとときを楽しく過ごしていた。スイカ―の目からは感涙が、とめどなく、ぽろぽろと流れていた。

