天気……昨夜、ひと雨降ったので、けさは涼しく感じた。目が覚めたとき、さわやかな風が、うちのなかへ、すうーと入ってきているのが分かったので、とても心地よかった。外に出て、空を見上げると雨はすっかりあがっていて、白い雲が小舟のようにゆっくりと動いているのが見えた。
今朝、妻猫や子どもたちといっしょに朝ご飯を食べているとき、アーヤーが、にこやかな顔をしながら
「お父さん、おめでとうございます」
と言った。
「えっ!?」
ぼくには何のことだか、分からなかったので、雲に包まれたような顔をしていた。
「お父さん、知らないの。今日は『父の日』でしょう?」
アーヤーがそう言った。
「そうか、今日は『父の日』か」
ぼくにはようやく合点がいった。
「今日が『父の日』であることを、父さんはすっかり忘れていたよ。おまえはよく覚えていたね」
ぼくはアーヤーにそう言った。するとアーヤーが
「昨日の夜、お母さんが教えてくれたの」
と答えた。
「そうか。そうだったのか」
ぼくはうなずいていた。
「『父の日』には、どんなプレゼントをあげたらいいの?」
パントーが聞いた。ぼくはそれを聞いて
「父さんはもう、おまえたちから、うれしいプレゼントをたくさんもらったから、ほかには何もいらないよ」
と答えた。それを聞いて、パントーがけげんそうな顔をしながら
「ぼくたちは、お父さんに何かプレゼントをあげたかなあ」
と言って、小首をかしげていた。
「おまえたちは、みんな、一生懸命頑張って、すぐれた技を身につけて、たくさんの子どもたちに喜んでもらったから、それが何よりのプレゼントだよ」
と、ぼくは子どもたちに言った。
「なーんだ、そういうことだったのか。ぼくたちはただ、自分たちが持っている個性や才能を発揮しようと思って頑張っただけなのに」
サンパオがそう言った。
「わたしたちが技を身につけられたのは、わたしたちの努力だけではなくて、お父さんとお母さんからもらった遺伝的なものもあると思います。『母の日』にはお母さんにカーネーションをあげて感謝の気持ちを伝えるように、『父の日』にはお父さんに感謝して、何かをあげるべきだと思います」
アーヤーがそう言った。
「ぼくもそう思う。お父さんは何もいらないと言っているけど、何かあげないと、ぼくは気がすまない」
パントーがそう言った。それを聞いてサンパオがうなずいていた。
子どもたちは、そのあと、ぼくや妻猫に聞こえないように、ひそひそと話を始めたので、
(何を相談しているのだろう)
と思って、気になってしかたがなかった。しばらくしてから、パントーが
「ぼくたちは、お父さんにキスを送ることにしました。どうか受け取ってください」
と言った。
「キス!?」
ぼくは一瞬、何のことだが分からなかったので、パントーに聞き返した。パントーがうなずいた。
「お父さんへの一番の愛を伝えるプレゼントは、キスよりほかにはないと思ったからです」
パントーがそう言った。妻猫がそれを聞いて、目を細めていた。
「なかなか、いいプレゼントだと思うわ。誰の思いつきが知らないけど、とても素敵なプレゼントだわ」
妻猫がそう言った。
「悪くはないけど、ちょっと照れくさいなあ……」
ぼくはそう答えた。
それからまもなく、パントーが、ぼくのすぐ前に顔を持ってきて、熱いキスをしてくれた。その瞬間、ぼくの心のなかに深い喜びが湧き水のように、じわりと広がっていった。パントーのあとに続いてアーヤーが、とろけるように甘いキスをしてくれた。アーヤーは女の子なので、キスをされた感触がパントーとは少し違って柔らかく感じた。最後にサンパオがキスをしてくれた。サンパオは末っ子なので、唇を押し当てる動作に少し幼さを感じたが、それでも、「お父さん、大好き」と言って、唇を、なかなか離そうとはしなかったので、ぼくの心のなかにサンパオの唇の温かさが長く残った。
子どもたちからキスをされて、ぽうっとなったぼくは、ほおを染めながら、外に出て、しあわせな気持ちに包まれながら、湖畔にそってしばらく歩いていた。すると向こうから老いらくさんがやってきた。
「笑い猫、どうしたのだ。やけに、うれしそうな顔をしているではないか。何か、よいことでもあったのか」
老いらくさんが、そう聞いた。
「今日は『父の日』なので、子どもたちが、ぼくにプレゼントをしてくれたからです」
ぼくは老いらくさんにそう答えた。
「そうか。それはよかったな。どんなプレゼントをもらったのか」
老いらくさんが聞いた。
「何をもらったと思いますか」
ぼくは逆に老いらくさんに聞いた。老いらくさんは、しばらく考えていたが、なかなか答が出てこないでいた。
「キスをもらいました」
ぼくは老いらくさんにそう答えた。
「キスか。それはよかったな。わしは以前、キスを食べたことがある」
老いらくさんがそう言ったので、ぼくは
(はぁー?)
と思った。
「それはどういう意味ですか」
ぼくは老いらくさんに聞き返した。
「キスという魚を天ぷらにしたものを、わしは以前、盗み食いしたことがある」
老いらくさんがそう答えた。ぼくはそれを聞いて、思わずおかしくなって、吹きだしてしまった。
「違います。ぼくが子どもたちからもらったのは、魚のキスではありません。愛のキスです」
ぼくは老いらくさんにそう答えた。それを聞いて老いらくさんが、びっくりしたような顔をして
「そうだったのか。猫は魚が大好きだから、わしはてっきり、子どもたちがどこからか魚のキスを見つけてきて、おまえにプレゼントしてくれたのだとばかり思っていた」
老いらくさんがそう答えた。
「魚のキスを塩焼きにしたものを、ぼくも以前、杜真子のうちで飼われていたころ食べたことがあります。口のなかがとろけるほど、おいしかったことを覚えています。でも子どもたちが今日くれたた愛のキスは、それ以上に甘くて、心のなかがとろけそうでした」
ぼくは、ふわふわとした恍惚感に浸りながら、老いらくさんにそう答えた。
「そうか。それでおまえは浮き浮きした顔をしているのだな」
老いらくさんがそう言った。ぼくは、にっこりうなずいた。
「老いらくさんも子どもたちからキスをしてもらったことがありますか」
ぼくは老いらくさんに聞いた。すると老いらくさんが、しばらく考えを巡らしながら
「もう、ずいぶん昔のことだから忘れたよ」
と言った。
「そうですか。キスは、どんな高価なプレゼントにもまさる最高のプレゼントだと思います」
ぼくは老いらくさんにそう言った。すると老いらくさんが
「おまえは立派な父親だから、子どもたちからキスをもらったのだ。本当にうらやましいよ」
と言った。それを聞いて、ぼくは老いらくさんに
「老いらくさんだって、たくさんの子孫たちから偉大なる父として、尊敬されているではありませんか。ぼくは老いらくさんがうらやましいです」
ぼくは老いらくさんにそう言った。すると老いらくさんが
「わしが、そのように思われているのは立派な父親だからではない。長く生きているから、そのように思われているだけだ」
と言った。それを聞いて、ぼくは老いらくさんに
「そんなことはないと思います。昔の老いらくさんがどうだったのかは、ともかく、今の老いらくさんは立派だと思います。そうでなかったら、ぼくは老いらくさんと親友になっていなかったと思います」
と答えた。
「そう言ってくれるとうれしいよ」
老いらくさんがそう答えた。
ぼくと老いらくさんは、それからまもなく別れて、それぞれのうちへ帰っていった。
今朝、妻猫や子どもたちといっしょに朝ご飯を食べているとき、アーヤーが、にこやかな顔をしながら
「お父さん、おめでとうございます」
と言った。
「えっ!?」
ぼくには何のことだか、分からなかったので、雲に包まれたような顔をしていた。
「お父さん、知らないの。今日は『父の日』でしょう?」
アーヤーがそう言った。
「そうか、今日は『父の日』か」
ぼくにはようやく合点がいった。
「今日が『父の日』であることを、父さんはすっかり忘れていたよ。おまえはよく覚えていたね」
ぼくはアーヤーにそう言った。するとアーヤーが
「昨日の夜、お母さんが教えてくれたの」
と答えた。
「そうか。そうだったのか」
ぼくはうなずいていた。
「『父の日』には、どんなプレゼントをあげたらいいの?」
パントーが聞いた。ぼくはそれを聞いて
「父さんはもう、おまえたちから、うれしいプレゼントをたくさんもらったから、ほかには何もいらないよ」
と答えた。それを聞いて、パントーがけげんそうな顔をしながら
「ぼくたちは、お父さんに何かプレゼントをあげたかなあ」
と言って、小首をかしげていた。
「おまえたちは、みんな、一生懸命頑張って、すぐれた技を身につけて、たくさんの子どもたちに喜んでもらったから、それが何よりのプレゼントだよ」
と、ぼくは子どもたちに言った。
「なーんだ、そういうことだったのか。ぼくたちはただ、自分たちが持っている個性や才能を発揮しようと思って頑張っただけなのに」
サンパオがそう言った。
「わたしたちが技を身につけられたのは、わたしたちの努力だけではなくて、お父さんとお母さんからもらった遺伝的なものもあると思います。『母の日』にはお母さんにカーネーションをあげて感謝の気持ちを伝えるように、『父の日』にはお父さんに感謝して、何かをあげるべきだと思います」
アーヤーがそう言った。
「ぼくもそう思う。お父さんは何もいらないと言っているけど、何かあげないと、ぼくは気がすまない」
パントーがそう言った。それを聞いてサンパオがうなずいていた。
子どもたちは、そのあと、ぼくや妻猫に聞こえないように、ひそひそと話を始めたので、
(何を相談しているのだろう)
と思って、気になってしかたがなかった。しばらくしてから、パントーが
「ぼくたちは、お父さんにキスを送ることにしました。どうか受け取ってください」
と言った。
「キス!?」
ぼくは一瞬、何のことだが分からなかったので、パントーに聞き返した。パントーがうなずいた。
「お父さんへの一番の愛を伝えるプレゼントは、キスよりほかにはないと思ったからです」
パントーがそう言った。妻猫がそれを聞いて、目を細めていた。
「なかなか、いいプレゼントだと思うわ。誰の思いつきが知らないけど、とても素敵なプレゼントだわ」
妻猫がそう言った。
「悪くはないけど、ちょっと照れくさいなあ……」
ぼくはそう答えた。
それからまもなく、パントーが、ぼくのすぐ前に顔を持ってきて、熱いキスをしてくれた。その瞬間、ぼくの心のなかに深い喜びが湧き水のように、じわりと広がっていった。パントーのあとに続いてアーヤーが、とろけるように甘いキスをしてくれた。アーヤーは女の子なので、キスをされた感触がパントーとは少し違って柔らかく感じた。最後にサンパオがキスをしてくれた。サンパオは末っ子なので、唇を押し当てる動作に少し幼さを感じたが、それでも、「お父さん、大好き」と言って、唇を、なかなか離そうとはしなかったので、ぼくの心のなかにサンパオの唇の温かさが長く残った。
子どもたちからキスをされて、ぽうっとなったぼくは、ほおを染めながら、外に出て、しあわせな気持ちに包まれながら、湖畔にそってしばらく歩いていた。すると向こうから老いらくさんがやってきた。
「笑い猫、どうしたのだ。やけに、うれしそうな顔をしているではないか。何か、よいことでもあったのか」
老いらくさんが、そう聞いた。
「今日は『父の日』なので、子どもたちが、ぼくにプレゼントをしてくれたからです」
ぼくは老いらくさんにそう答えた。
「そうか。それはよかったな。どんなプレゼントをもらったのか」
老いらくさんが聞いた。
「何をもらったと思いますか」
ぼくは逆に老いらくさんに聞いた。老いらくさんは、しばらく考えていたが、なかなか答が出てこないでいた。
「キスをもらいました」
ぼくは老いらくさんにそう答えた。
「キスか。それはよかったな。わしは以前、キスを食べたことがある」
老いらくさんがそう言ったので、ぼくは
(はぁー?)
と思った。
「それはどういう意味ですか」
ぼくは老いらくさんに聞き返した。
「キスという魚を天ぷらにしたものを、わしは以前、盗み食いしたことがある」
老いらくさんがそう答えた。ぼくはそれを聞いて、思わずおかしくなって、吹きだしてしまった。
「違います。ぼくが子どもたちからもらったのは、魚のキスではありません。愛のキスです」
ぼくは老いらくさんにそう答えた。それを聞いて老いらくさんが、びっくりしたような顔をして
「そうだったのか。猫は魚が大好きだから、わしはてっきり、子どもたちがどこからか魚のキスを見つけてきて、おまえにプレゼントしてくれたのだとばかり思っていた」
老いらくさんがそう答えた。
「魚のキスを塩焼きにしたものを、ぼくも以前、杜真子のうちで飼われていたころ食べたことがあります。口のなかがとろけるほど、おいしかったことを覚えています。でも子どもたちが今日くれたた愛のキスは、それ以上に甘くて、心のなかがとろけそうでした」
ぼくは、ふわふわとした恍惚感に浸りながら、老いらくさんにそう答えた。
「そうか。それでおまえは浮き浮きした顔をしているのだな」
老いらくさんがそう言った。ぼくは、にっこりうなずいた。
「老いらくさんも子どもたちからキスをしてもらったことがありますか」
ぼくは老いらくさんに聞いた。すると老いらくさんが、しばらく考えを巡らしながら
「もう、ずいぶん昔のことだから忘れたよ」
と言った。
「そうですか。キスは、どんな高価なプレゼントにもまさる最高のプレゼントだと思います」
ぼくは老いらくさんにそう言った。すると老いらくさんが
「おまえは立派な父親だから、子どもたちからキスをもらったのだ。本当にうらやましいよ」
と言った。それを聞いて、ぼくは老いらくさんに
「老いらくさんだって、たくさんの子孫たちから偉大なる父として、尊敬されているではありませんか。ぼくは老いらくさんがうらやましいです」
ぼくは老いらくさんにそう言った。すると老いらくさんが
「わしが、そのように思われているのは立派な父親だからではない。長く生きているから、そのように思われているだけだ」
と言った。それを聞いて、ぼくは老いらくさんに
「そんなことはないと思います。昔の老いらくさんがどうだったのかは、ともかく、今の老いらくさんは立派だと思います。そうでなかったら、ぼくは老いらくさんと親友になっていなかったと思います」
と答えた。
「そう言ってくれるとうれしいよ」
老いらくさんがそう答えた。
ぼくと老いらくさんは、それからまもなく別れて、それぞれのうちへ帰っていった。

