天気……朝は晴れていたが、午後になって、空がにわかに曇ってきた。三時過ぎにひと雨降って、からからに乾いていた大地にうるおいがもたらされ、その後、天気は再び回復した。
島に渡るための地下道があることがスイカ―や動物や馬小跳たちに知られるようになってからまもなく、スイカ―が島のなかで生活を始めた。島の真ん中に小さなテントを張って、そのなかで寝泊まりしながら、ショーに参加する動物たちを呼び集めて訓練をおこない始めた。島の周りは松林で囲まれていて、湖岸からはまったく見えなかったから、島のなかでサーカスの訓練がおこなわれていることに気がついている人は誰もいなかった。ぼくの子どもたちや地包天はこれまでと同じように午前の訓練に参加し、シャオパイとフェイナは午後の訓練に参加していた。ぼくも毎日、島にやってきて、スイカ―の指示や助言を動物たちに伝えるための通訳として、朝から夕方まで一生懸命働いていた。『猫の手も借りたい』という言葉があるが、まさにその通りで、スイカ―の右腕となって、ぼくが持っている語学の才能をフルに発揮しながら働いていた。老いらくさんもボールのなかに入って、ぴょんぴょん跳びはねながら、ぼくの子どもたちの技の習得に一役買っていた。
島のなかでの訓練が始まってから一週間後の土曜日に、馬小跳たちが再び島にやってきた。スイカ―が島のなかで動物たちの訓練をおこなっている姿を見て、馬小跳たちはびっくりしていた。
「こんなところにいたのですか。しばらく会えなかったので、ぼくたちはとても寂しかったです」
馬小跳がそう言っていた。それを聞いてスイカ―が、うなずいていた。スイカ―がそのあと馬小跳たちに
「これからはこの島で動物たちの訓練やサーカスのショーをすることにした」
と答えていた。
「そうでしたか。それはとてもうれしいです」
馬小跳がそう答えていた。
「ショーはいつから始めるのですか」
唐飛が聞いていた。
「来週の土曜日の午後二時半に第一回目のショーを始めようと思っている。見に来てくれるか」
スイカ―がそう言った。それを聞いて唐飛が
「もちろんですよ。たくさんの友だちを連れてきますよ」
と答えていた。
「そうか。それはありがたい。よろしく頼むよ」
スイカ―が、にこやかな笑みを浮かべながら、そう答えていた。
「ここに来る地下道を、みんな、わくわくしながら、くぐってくるのではないかな」
毛超がそう言った。
「そ、そ、そう思う」
張達は吃音障害があるので、言葉がスムーズには出てこなかったので、声を詰まらせながらそう答えていた。馬小跳たちは動物たちの訓練の様子を楽しそうにしばらく見てから島を離れていった。
それから一週間がたって、スイカ―が島で初めてのショーをおこなう日がやってきた。同じ時刻に、梅園の近くでサーカス団がショーをおこなうことになっていたので、子どもたちの足がどちらに向くのか、ぼくは関心があった。サーカス団の団長や団員はスイカ―を楠林のなかから追い出したことで、邪魔者がいなくなったので多くの子どもたちがやってくると見込んでいるようだった。ところがショーが始まる一時間前になっても、子どもたちの入りが思ったほどではなかったので、サーカス団の団長や団員は焦っていた。子どもたちの姿が公園のなかに見えたものの、子どもたちはサーカス小屋のほうには行かないで、途中にある池の前で立ち止まって魚にえさを与えたり、サーカス小屋とは反対のほうに歩いていたので、団長や団員は子どもに声をかけてサーカス小屋のなかに呼び込もうとしていた。でも子どものなかには団長や団員の呼びかけを無視する子どももいた。
ショーが始まる三十分前になったとき、翠湖公園の入口付近にある眼鏡橋を渡って馬小跳たちがやってくるのが見えた。馬小跳たちのすぐ後ろには子どもたちの列ができていて、みんな楠林のほうに向かっていた。列のなかには杜真子や夏林果や安琪儿といったぼくが知っている女の子もいた。子どもたちは楠林のなかに入っていくと、姿が次々と消えていった。みんな地下道を通って島へ渡っているのだと、ぼくは思った。子どもたちの姿が消えたあとから、ぼくも地下道を通って島へ渡っていった。すると島の周りを松の木で囲まれて目隠しされている広場のなかに子どもたちがたくさんいるのが目に入った。
それからまもなくショーが始まった。初めにスイカ―があいさつに立って、歓迎の気持ちを述べていた。
「皆さん、今日はよくいらっしゃいました。これまでは楠林のなかでおこなっていましたが、これからは、この島でおこなうことにしました。皆さんを楽しませるために、これからも一生懸命頑張ります。どうぞ、よろしくお願いします」
スイカ―がそう言うと、子どもたちは盛大な拍手を送っていた。そのあとスイカ―が
「皆さんを歓迎して、初めにオウムが一曲歌います。聞いてください」
と言っていた。スイカ―が帽子に手を当てて、頭の上に乗っているオウムに合図を送るとオウムが『茉莉花』という歌を歌い始めた。まるで人が歌っているかのようにとても上手な歌い方だったから、聞いていると茉莉花(ジャスミン)の花が咲き誇っている光景が目に浮かんでくるようで、ぼくはとても感動していた。
そのあと、いよいよショーの本番が始まった。最初に登場したのは地包天だった。あいさつ代わりに逆立ち歩行を五メートルほどして見せて子どもたちの拍手を浴びていた。そのあと練習に励んでいた三回連続の後ろ宙返りを見事に決めた。子どもたちから歓声があがったので、地包天がうれしそうな顔をしていた。
次に出てきたのはサンパオだった。老いらくさんがなかに入っているボールを、ころころと転がしながら出てきた。スイカ―がそれを見て
「皆さん、この子猫が玉乗りを披露します。ボールの上に立って二回転ジャンプをしてからまたボールの上に着地します。うまくいったら盛大な拍手をしてください」
と言っていた。それを聞いて、子どもたちはうなずいていた。
それからまもなくサンパオが演技を始めた。ボールの上に乗ると、一瞬止まって呼吸を整えてから、高く飛び上がった。そして空中で二回転してから、ボールの上に見事に着地することに成功した。それを見て、子どもたちは歓声をあげていた。
次に登場したのはパントーとアーヤーだった。スイカ―が
「皆さん、このペアの子猫は空中でヘディングパスをします。見てください」
と言っていた。ボールが空中にあがって下に落ちてきたところをパントーがジャンプして頭で受け止めてアーヤーにパスしていた。アーヤーはそれを見てジャンプして頭で受け止めてからパントーにパスしていた。息がぴったり合っていて、受けそこなって下に落とすことなく,五回、六回とパスが続いていた。それを見て、子どもたちは驚喜していた。
スイカ―がそのあと子どもたちに
「今度はこの子猫が空中飛びを披露します」
と言っていた。それを聞いてぼくはアーヤーに、スイカ―が言った言葉の意味を伝えた。するとアーヤーはうなずいてから、広場のすぐ後ろにある松の木のところまで駆けていって、木の枝にのぼり始めた。子どもたちが注視するなか、アーヤーは七メートルぐらいの高さまでのぼってから、両手両足を開いて十メートルぐらい飛んで隣の木の枝まで飛び移ることに成功した。それを見ていた子どもたちの間から
「すごい。まるでムササビみたいだ」
という声があがっていた。
スイカ―はそのあと子どもたちに
「次は犬のカップルにダンスをしてもらいます」
と言って、フェイナとシャオパイを子どもたちの前に登場させていた。
「この犬のカップルはワルツを踊ることができます」
スイカ―はそう言ってから、頭の上にかぶっている帽子を手で軽く二回たたいた。すると帽子の上に乗っていたオウムがスイカ―の合図に応えるように一声鳴いてから『子犬のワルツ』というショパンの曲を、この国の言葉で歌い始めた。するとその曲に合わせるように、フェイナとシャオパイがステップを軽やかに踏みながら、互いに手を取り合って、優雅にダンスを踊り始めた。フェイナとシャオパイは息がぴったり合っていて、とても楽しそうに踊っていた。それを見て、子どもたちはワルツの美しさに酔いしれていた。子どもたちは見ているだけでは物足りなくなったのか、男の子と女の子が手を取り合って、フェイナとシャオパイの真似をしながら踊り出す子どももいた。こうして子どもたちは時間が経つのも忘れるくらいに夢中になって、昼下がりのひとときを島のなかで楽しく過ごしていた。
ショーの終わりに、スイカ―が、ぼくのことを紹介してくれた。
「皆さん、覚えていますか。この猫は、人の言葉を理解したり、ほかの動物の言葉を話すことができます」
スイカ―がそう言うと、子どもたちの間から
「覚えています」
という声が、会場のあちこちからあがった。
「この猫の名前を覚えていますか」
スイカ―がまた聞いた。
「覚えています。『笑い猫』です」
子どものなかの一人がそう答えた。よく見ると、杜真子だった。
「その猫を以前、うちで飼っていました。笑うことができるので、わたしが『笑い猫』と名付けました」
杜真子がそう答えていた。
「どんな笑い方をするのか、皆さん、見てみたいと思いませんか」
スイカ―がそう言った。それを聞いて、ぼくは習得しているいろいろな笑い方をしてみせた。にっこり笑ったり、げらげら笑ったり、やるせない顔で笑ったり、にたにたと、あざけるような目で笑ったり、渋い顔で笑ったり、含みのある笑いを浮かべたり、作り笑いをしてみせた。バリエーションに富んだぼくの笑い方を見て、子どもたちは驚喜していた。スイカ―がそのあと子どもたちに
「皆さん、『笑い猫』の表情を見て、それとそっくりの顔をしながら笑ってください」
と言っていた。それを聞いて子どもたちは、楽しそうな顔をしながら、ぼくの真似をして、いろいろな笑いを浮かべて、友だち同士で見せ合っていた。会場全体が明るい雰囲気に包まれていて、あちこちから歓呼の声があがっていた。
それからまもなく、スイカ―が
「では最後に『歓喜の歌』をみんなで歌っておしまいにしましょう。今日は皆さん、来てくれて本当にありがとう」
と言っていた。スイカ―が指揮棒を取って振り始めると、子どもたちは声をそろえて、ベートーヴェンの『歓喜の歌』を、この国の言葉で歌い始めた。スイカ―の頭の上にとまっていたオウムも子どもたちといっしょに歌っていた。合唱が終わると、子どもたちはみんな満たされたような顔をしながら、三々五々と連れ立って、島をあとにしていた。
島に渡るための地下道があることがスイカ―や動物や馬小跳たちに知られるようになってからまもなく、スイカ―が島のなかで生活を始めた。島の真ん中に小さなテントを張って、そのなかで寝泊まりしながら、ショーに参加する動物たちを呼び集めて訓練をおこない始めた。島の周りは松林で囲まれていて、湖岸からはまったく見えなかったから、島のなかでサーカスの訓練がおこなわれていることに気がついている人は誰もいなかった。ぼくの子どもたちや地包天はこれまでと同じように午前の訓練に参加し、シャオパイとフェイナは午後の訓練に参加していた。ぼくも毎日、島にやってきて、スイカ―の指示や助言を動物たちに伝えるための通訳として、朝から夕方まで一生懸命働いていた。『猫の手も借りたい』という言葉があるが、まさにその通りで、スイカ―の右腕となって、ぼくが持っている語学の才能をフルに発揮しながら働いていた。老いらくさんもボールのなかに入って、ぴょんぴょん跳びはねながら、ぼくの子どもたちの技の習得に一役買っていた。
島のなかでの訓練が始まってから一週間後の土曜日に、馬小跳たちが再び島にやってきた。スイカ―が島のなかで動物たちの訓練をおこなっている姿を見て、馬小跳たちはびっくりしていた。
「こんなところにいたのですか。しばらく会えなかったので、ぼくたちはとても寂しかったです」
馬小跳がそう言っていた。それを聞いてスイカ―が、うなずいていた。スイカ―がそのあと馬小跳たちに
「これからはこの島で動物たちの訓練やサーカスのショーをすることにした」
と答えていた。
「そうでしたか。それはとてもうれしいです」
馬小跳がそう答えていた。
「ショーはいつから始めるのですか」
唐飛が聞いていた。
「来週の土曜日の午後二時半に第一回目のショーを始めようと思っている。見に来てくれるか」
スイカ―がそう言った。それを聞いて唐飛が
「もちろんですよ。たくさんの友だちを連れてきますよ」
と答えていた。
「そうか。それはありがたい。よろしく頼むよ」
スイカ―が、にこやかな笑みを浮かべながら、そう答えていた。
「ここに来る地下道を、みんな、わくわくしながら、くぐってくるのではないかな」
毛超がそう言った。
「そ、そ、そう思う」
張達は吃音障害があるので、言葉がスムーズには出てこなかったので、声を詰まらせながらそう答えていた。馬小跳たちは動物たちの訓練の様子を楽しそうにしばらく見てから島を離れていった。
それから一週間がたって、スイカ―が島で初めてのショーをおこなう日がやってきた。同じ時刻に、梅園の近くでサーカス団がショーをおこなうことになっていたので、子どもたちの足がどちらに向くのか、ぼくは関心があった。サーカス団の団長や団員はスイカ―を楠林のなかから追い出したことで、邪魔者がいなくなったので多くの子どもたちがやってくると見込んでいるようだった。ところがショーが始まる一時間前になっても、子どもたちの入りが思ったほどではなかったので、サーカス団の団長や団員は焦っていた。子どもたちの姿が公園のなかに見えたものの、子どもたちはサーカス小屋のほうには行かないで、途中にある池の前で立ち止まって魚にえさを与えたり、サーカス小屋とは反対のほうに歩いていたので、団長や団員は子どもに声をかけてサーカス小屋のなかに呼び込もうとしていた。でも子どものなかには団長や団員の呼びかけを無視する子どももいた。
ショーが始まる三十分前になったとき、翠湖公園の入口付近にある眼鏡橋を渡って馬小跳たちがやってくるのが見えた。馬小跳たちのすぐ後ろには子どもたちの列ができていて、みんな楠林のほうに向かっていた。列のなかには杜真子や夏林果や安琪儿といったぼくが知っている女の子もいた。子どもたちは楠林のなかに入っていくと、姿が次々と消えていった。みんな地下道を通って島へ渡っているのだと、ぼくは思った。子どもたちの姿が消えたあとから、ぼくも地下道を通って島へ渡っていった。すると島の周りを松の木で囲まれて目隠しされている広場のなかに子どもたちがたくさんいるのが目に入った。
それからまもなくショーが始まった。初めにスイカ―があいさつに立って、歓迎の気持ちを述べていた。
「皆さん、今日はよくいらっしゃいました。これまでは楠林のなかでおこなっていましたが、これからは、この島でおこなうことにしました。皆さんを楽しませるために、これからも一生懸命頑張ります。どうぞ、よろしくお願いします」
スイカ―がそう言うと、子どもたちは盛大な拍手を送っていた。そのあとスイカ―が
「皆さんを歓迎して、初めにオウムが一曲歌います。聞いてください」
と言っていた。スイカ―が帽子に手を当てて、頭の上に乗っているオウムに合図を送るとオウムが『茉莉花』という歌を歌い始めた。まるで人が歌っているかのようにとても上手な歌い方だったから、聞いていると茉莉花(ジャスミン)の花が咲き誇っている光景が目に浮かんでくるようで、ぼくはとても感動していた。
そのあと、いよいよショーの本番が始まった。最初に登場したのは地包天だった。あいさつ代わりに逆立ち歩行を五メートルほどして見せて子どもたちの拍手を浴びていた。そのあと練習に励んでいた三回連続の後ろ宙返りを見事に決めた。子どもたちから歓声があがったので、地包天がうれしそうな顔をしていた。
次に出てきたのはサンパオだった。老いらくさんがなかに入っているボールを、ころころと転がしながら出てきた。スイカ―がそれを見て
「皆さん、この子猫が玉乗りを披露します。ボールの上に立って二回転ジャンプをしてからまたボールの上に着地します。うまくいったら盛大な拍手をしてください」
と言っていた。それを聞いて、子どもたちはうなずいていた。
それからまもなくサンパオが演技を始めた。ボールの上に乗ると、一瞬止まって呼吸を整えてから、高く飛び上がった。そして空中で二回転してから、ボールの上に見事に着地することに成功した。それを見て、子どもたちは歓声をあげていた。
次に登場したのはパントーとアーヤーだった。スイカ―が
「皆さん、このペアの子猫は空中でヘディングパスをします。見てください」
と言っていた。ボールが空中にあがって下に落ちてきたところをパントーがジャンプして頭で受け止めてアーヤーにパスしていた。アーヤーはそれを見てジャンプして頭で受け止めてからパントーにパスしていた。息がぴったり合っていて、受けそこなって下に落とすことなく,五回、六回とパスが続いていた。それを見て、子どもたちは驚喜していた。
スイカ―がそのあと子どもたちに
「今度はこの子猫が空中飛びを披露します」
と言っていた。それを聞いてぼくはアーヤーに、スイカ―が言った言葉の意味を伝えた。するとアーヤーはうなずいてから、広場のすぐ後ろにある松の木のところまで駆けていって、木の枝にのぼり始めた。子どもたちが注視するなか、アーヤーは七メートルぐらいの高さまでのぼってから、両手両足を開いて十メートルぐらい飛んで隣の木の枝まで飛び移ることに成功した。それを見ていた子どもたちの間から
「すごい。まるでムササビみたいだ」
という声があがっていた。
スイカ―はそのあと子どもたちに
「次は犬のカップルにダンスをしてもらいます」
と言って、フェイナとシャオパイを子どもたちの前に登場させていた。
「この犬のカップルはワルツを踊ることができます」
スイカ―はそう言ってから、頭の上にかぶっている帽子を手で軽く二回たたいた。すると帽子の上に乗っていたオウムがスイカ―の合図に応えるように一声鳴いてから『子犬のワルツ』というショパンの曲を、この国の言葉で歌い始めた。するとその曲に合わせるように、フェイナとシャオパイがステップを軽やかに踏みながら、互いに手を取り合って、優雅にダンスを踊り始めた。フェイナとシャオパイは息がぴったり合っていて、とても楽しそうに踊っていた。それを見て、子どもたちはワルツの美しさに酔いしれていた。子どもたちは見ているだけでは物足りなくなったのか、男の子と女の子が手を取り合って、フェイナとシャオパイの真似をしながら踊り出す子どももいた。こうして子どもたちは時間が経つのも忘れるくらいに夢中になって、昼下がりのひとときを島のなかで楽しく過ごしていた。
ショーの終わりに、スイカ―が、ぼくのことを紹介してくれた。
「皆さん、覚えていますか。この猫は、人の言葉を理解したり、ほかの動物の言葉を話すことができます」
スイカ―がそう言うと、子どもたちの間から
「覚えています」
という声が、会場のあちこちからあがった。
「この猫の名前を覚えていますか」
スイカ―がまた聞いた。
「覚えています。『笑い猫』です」
子どものなかの一人がそう答えた。よく見ると、杜真子だった。
「その猫を以前、うちで飼っていました。笑うことができるので、わたしが『笑い猫』と名付けました」
杜真子がそう答えていた。
「どんな笑い方をするのか、皆さん、見てみたいと思いませんか」
スイカ―がそう言った。それを聞いて、ぼくは習得しているいろいろな笑い方をしてみせた。にっこり笑ったり、げらげら笑ったり、やるせない顔で笑ったり、にたにたと、あざけるような目で笑ったり、渋い顔で笑ったり、含みのある笑いを浮かべたり、作り笑いをしてみせた。バリエーションに富んだぼくの笑い方を見て、子どもたちは驚喜していた。スイカ―がそのあと子どもたちに
「皆さん、『笑い猫』の表情を見て、それとそっくりの顔をしながら笑ってください」
と言っていた。それを聞いて子どもたちは、楽しそうな顔をしながら、ぼくの真似をして、いろいろな笑いを浮かべて、友だち同士で見せ合っていた。会場全体が明るい雰囲気に包まれていて、あちこちから歓呼の声があがっていた。
それからまもなく、スイカ―が
「では最後に『歓喜の歌』をみんなで歌っておしまいにしましょう。今日は皆さん、来てくれて本当にありがとう」
と言っていた。スイカ―が指揮棒を取って振り始めると、子どもたちは声をそろえて、ベートーヴェンの『歓喜の歌』を、この国の言葉で歌い始めた。スイカ―の頭の上にとまっていたオウムも子どもたちといっしょに歌っていた。合唱が終わると、子どもたちはみんな満たされたような顔をしながら、三々五々と連れ立って、島をあとにしていた。

