天気……今日は朝から昼にかけて風がほとんどなくて、蒸し暑い一日だった。ぼくたち猫も暑いときは汗をかく。人のように全身から汗をかくことはないが、鼻や、足の裏にある肉球から汗がたらたらと出て、気分がぼうっとなることがよくある。日が暮れ始めたころ、夕立が降って、大地にうるおいがもたらされて少し涼しくなったので、ようやく気分がもとに戻った。
今朝早く、ぼくはうちを出て、老いらくさんに会いにいった。昨日、楠林の近くで万年亀に出会ったことを伝えなければと思ったからだ。万年亀は老いらくさんの師匠だから、老いらくさんに話したら、きっと喜ぶだろうと思って、いそいそしながらサーカス小屋のほうに向かっていた。老いらくさんは最近、サーカス団の団員たちの動きに目を光らせていたから、きっとそこへ行ったら会えるはずだと、ぼくは思っていた。サーカス小屋の前に着くと、やはり思っていたとおり、老いらくさんが小屋のなかの様子をこっそりとうかがっている姿がぼくの目に映った。
「老いらくさん、何か変わったことでもありましたか」
ぼくは老いらくさんに聞いた。
「あったよ。あった。おまえに話したいことがあった」
老いらくさんが目を輝かせながらそう言った。
「そうですか。何があったのですか。ぜひ聞きたいです」
ぼくはそう答えた。
「話せば長くなるから、あとから話す」
老いらくさんが、もったいぶって、そう答えた。
「そうですか。では、ぼくのほうから先に話します」
ぼくはそう言って、昨日、楠林の近くで万年亀と会ったことを話した。すると老いらくさんが、びっくりしたような顔をしながら
「そうか、そうだったか。わしもお会いしたかったな。お元気にしておられたか」
と聞いた。
「元気にしておられました。子どもたちのにおいをかぎに来たと、おっしゃっていました。でも子どもたちのにおいが楠林のなかからしなかったので、どうしてなのかと、ぼくに聞かれました」
ぼくは老いらくさんにそう言った。
「そうか。それでおまえはスイカ―のことを話したのだろう」
老いらくさんが聞いた。
「もちろん話しました。裁判に訴えられて、この公園から出ていかなければならなくなったことを話しました」
ぼくはそう答えた。
「それで大先生は何とおっしゃっておられたか」
老いらくさんが聞いた。
「とても心を痛めておられて、『自分にできることがあったら何でもしたい』と、おっしゃってくださった」
ぼくはそう答えた。
「そうか、それは心強いな」
老いらくさんがそう言った。ぼくはうなずいた。
「それにしてもスイカ―は一体、どこにいったのでしょうか」
ぼくは老いらくさんに聞いた。
「わしにもよく分からん。この町のどこかに隔離されているのかもしれない」
老いらくさんがそう言った。
「老いらくさんには子孫がたくさんいて、この町の方々に住んでいるから、スイカ―のことを話して、何か情報が得られたら、知らせてもらえるようにお願いできないでしょうか」
ぼくは老いらくさんにそう言った。それを聞いて老いらくさんがうなずいた。
「そうする」
老いらくさんがそう答えた。
「それはありがたいです。吉報を待っています」
ぼくはそう言った。老いらくさんがそのあと
「わしがおまえに話したいと思っているのは昨日の出来事だ」
と言って、話し始めた。
「昨日の朝、わしがサーカス小屋に様子を見にきてからまもなく、団長と副団長がサーカス小屋を出ていったから、どこへ行くのだろうと思って、わしはこっそりと、彼らのあとからついていった。すると公園の前に車が止まっているのが見えたので、あの車に乗ってどこかへ行くのだろうと思った」
老いらくさんがそう言った。
「それでどうしたのですか」
ぼくは興味を覚えたので、すぐに聞き返した。
「団長と副団長が車の前まで来ると、運転手が車のドアを開けたので、ぼくは、そのすきに車のなかにさっと入り込んだ」
老いらくさんがそう言った。
「気づかれなかったのですか」
ぼくは老いらくさんに聞いた。
「気づかれたと思う。しかしわしは座席の下にさっと入り込んで隠れたから、見つかって車の外に出されることはなかった」
老いらくさんがそう答えた。
「そうですか。それはよかったです。そのあとどうしたのですか」
ぼくは老いらくさんに聞いた。
「車はそのあとすぐに動き始めた」
「どこへ行ったのですか」
ぼくは興味を覚えて老いらくさんに聞いた。
「学校をいくつか回っていた」
老いらくさんがそう答えた。
「学校へ何をしに行ったのですか」
ぼくは老いらくさんにすぐに聞き返した。
「学校の正門の前に着くと、運転手がドアを開けたので、団長と副団長は車から降りて学校のなかに入っていった。ドアが開いたすきに、ぼくもさっと外に出て、彼らのあとからこっそりとついていった。すると彼らは学校の事務室に入っていって、応対に出てきた人に何か話していた。わしには人の言葉は分からないから何を話していたのか知るよしもないが、団長が黒いかばんのなかから茶封筒を取り出して渡しているのが見えた。たぶんお金だと思う」
老いらくさんがそう言った。
「それでどうしたのですか」
ぼくは老いらくさんに聞き返した。
「どうもしない。ただ見ているだけだった」
老いらくさんはそう答えた。
「お金を渡してどうするのでしょうね」
ぼくは合点がいかなかったので小首をかしげていた。すると老いらくさんが
「お金を渡して、子どもたちをサーカス小屋に呼び込もうとしているのではないだろうかと、わしは思った」
と言った。
「そうかもしれないですね。明日は『子どもの日』だから、サーカス小屋のなかに子どもたちを呼びこもうと思って、宣伝に来たのかもしれない」
ぼくは想像を働かせながらそう言った。
「もしそうだとすれば、子どもたちにとって楽しくない『子どもの日』になるな」
老いらくさんがそう言った。
「ぼくもそう思います。あんなかたいものを見たいと思っている子どもは、ほとんどいませんから」
ぼくは老いらくさんにそう言った。
「でも学校の教師に見に行きなさいと言われたら、子どもたちは行かないわけにはいかないのではないかな」
老いらくさんがそう言った。
「団長からお金をもらったことで、図書室に入れる本や、教室の備品を買うことができるので、教師たちは、お礼の意味で子どもたちに見に行くように薦めるのではないでしょうか」
ぼくは老いらくさんにそう言った。
「そうかもしれないな。今の世の中はお金で何でも思い通りにすることができると思っている団長も団長だが、お金を受け取って、子どもが見ても面白くないものを子どもに薦める教師も教師だ」
老いらくさんがそう言って憤慨していた。
「ぼくもそう思います。子どもの教育に当たる人は、大人の観点からではなくて子どもの気持ちに寄り添って考えるべきだと思います」
ぼくは老いらくさんにそう言った。
「まったく、そのとおりだ」
老いらくさんがそう言った。
「そのあと、どうしたのですか」
ぼくは老いらくさんに聞いた。
「団長と副団長は全部で三つの学校を回ってから翠湖公園に帰ってきた」
老いらくさんがそう答えた。
「そうでしたか。それは大変な一日でしたね」
ぼくはそう言った。
「団長と副団長は翠湖公園に帰ってきたとき満足そうな顔をしていた。それとは対照的に、わしはとても疲れていた」
老いらくさんがそう答えた。
「分かりますよ。楽しいことについて回るのならともかく、そうでないことに、ついて回っていたら、ぼくだって疲れると思います」
ぼくは老いらくさんにそう言った。それからまもなく、ぼくは老いらくさんと別れて、うちへ帰っていった。
今朝早く、ぼくはうちを出て、老いらくさんに会いにいった。昨日、楠林の近くで万年亀に出会ったことを伝えなければと思ったからだ。万年亀は老いらくさんの師匠だから、老いらくさんに話したら、きっと喜ぶだろうと思って、いそいそしながらサーカス小屋のほうに向かっていた。老いらくさんは最近、サーカス団の団員たちの動きに目を光らせていたから、きっとそこへ行ったら会えるはずだと、ぼくは思っていた。サーカス小屋の前に着くと、やはり思っていたとおり、老いらくさんが小屋のなかの様子をこっそりとうかがっている姿がぼくの目に映った。
「老いらくさん、何か変わったことでもありましたか」
ぼくは老いらくさんに聞いた。
「あったよ。あった。おまえに話したいことがあった」
老いらくさんが目を輝かせながらそう言った。
「そうですか。何があったのですか。ぜひ聞きたいです」
ぼくはそう答えた。
「話せば長くなるから、あとから話す」
老いらくさんが、もったいぶって、そう答えた。
「そうですか。では、ぼくのほうから先に話します」
ぼくはそう言って、昨日、楠林の近くで万年亀と会ったことを話した。すると老いらくさんが、びっくりしたような顔をしながら
「そうか、そうだったか。わしもお会いしたかったな。お元気にしておられたか」
と聞いた。
「元気にしておられました。子どもたちのにおいをかぎに来たと、おっしゃっていました。でも子どもたちのにおいが楠林のなかからしなかったので、どうしてなのかと、ぼくに聞かれました」
ぼくは老いらくさんにそう言った。
「そうか。それでおまえはスイカ―のことを話したのだろう」
老いらくさんが聞いた。
「もちろん話しました。裁判に訴えられて、この公園から出ていかなければならなくなったことを話しました」
ぼくはそう答えた。
「それで大先生は何とおっしゃっておられたか」
老いらくさんが聞いた。
「とても心を痛めておられて、『自分にできることがあったら何でもしたい』と、おっしゃってくださった」
ぼくはそう答えた。
「そうか、それは心強いな」
老いらくさんがそう言った。ぼくはうなずいた。
「それにしてもスイカ―は一体、どこにいったのでしょうか」
ぼくは老いらくさんに聞いた。
「わしにもよく分からん。この町のどこかに隔離されているのかもしれない」
老いらくさんがそう言った。
「老いらくさんには子孫がたくさんいて、この町の方々に住んでいるから、スイカ―のことを話して、何か情報が得られたら、知らせてもらえるようにお願いできないでしょうか」
ぼくは老いらくさんにそう言った。それを聞いて老いらくさんがうなずいた。
「そうする」
老いらくさんがそう答えた。
「それはありがたいです。吉報を待っています」
ぼくはそう言った。老いらくさんがそのあと
「わしがおまえに話したいと思っているのは昨日の出来事だ」
と言って、話し始めた。
「昨日の朝、わしがサーカス小屋に様子を見にきてからまもなく、団長と副団長がサーカス小屋を出ていったから、どこへ行くのだろうと思って、わしはこっそりと、彼らのあとからついていった。すると公園の前に車が止まっているのが見えたので、あの車に乗ってどこかへ行くのだろうと思った」
老いらくさんがそう言った。
「それでどうしたのですか」
ぼくは興味を覚えたので、すぐに聞き返した。
「団長と副団長が車の前まで来ると、運転手が車のドアを開けたので、ぼくは、そのすきに車のなかにさっと入り込んだ」
老いらくさんがそう言った。
「気づかれなかったのですか」
ぼくは老いらくさんに聞いた。
「気づかれたと思う。しかしわしは座席の下にさっと入り込んで隠れたから、見つかって車の外に出されることはなかった」
老いらくさんがそう答えた。
「そうですか。それはよかったです。そのあとどうしたのですか」
ぼくは老いらくさんに聞いた。
「車はそのあとすぐに動き始めた」
「どこへ行ったのですか」
ぼくは興味を覚えて老いらくさんに聞いた。
「学校をいくつか回っていた」
老いらくさんがそう答えた。
「学校へ何をしに行ったのですか」
ぼくは老いらくさんにすぐに聞き返した。
「学校の正門の前に着くと、運転手がドアを開けたので、団長と副団長は車から降りて学校のなかに入っていった。ドアが開いたすきに、ぼくもさっと外に出て、彼らのあとからこっそりとついていった。すると彼らは学校の事務室に入っていって、応対に出てきた人に何か話していた。わしには人の言葉は分からないから何を話していたのか知るよしもないが、団長が黒いかばんのなかから茶封筒を取り出して渡しているのが見えた。たぶんお金だと思う」
老いらくさんがそう言った。
「それでどうしたのですか」
ぼくは老いらくさんに聞き返した。
「どうもしない。ただ見ているだけだった」
老いらくさんはそう答えた。
「お金を渡してどうするのでしょうね」
ぼくは合点がいかなかったので小首をかしげていた。すると老いらくさんが
「お金を渡して、子どもたちをサーカス小屋に呼び込もうとしているのではないだろうかと、わしは思った」
と言った。
「そうかもしれないですね。明日は『子どもの日』だから、サーカス小屋のなかに子どもたちを呼びこもうと思って、宣伝に来たのかもしれない」
ぼくは想像を働かせながらそう言った。
「もしそうだとすれば、子どもたちにとって楽しくない『子どもの日』になるな」
老いらくさんがそう言った。
「ぼくもそう思います。あんなかたいものを見たいと思っている子どもは、ほとんどいませんから」
ぼくは老いらくさんにそう言った。
「でも学校の教師に見に行きなさいと言われたら、子どもたちは行かないわけにはいかないのではないかな」
老いらくさんがそう言った。
「団長からお金をもらったことで、図書室に入れる本や、教室の備品を買うことができるので、教師たちは、お礼の意味で子どもたちに見に行くように薦めるのではないでしょうか」
ぼくは老いらくさんにそう言った。
「そうかもしれないな。今の世の中はお金で何でも思い通りにすることができると思っている団長も団長だが、お金を受け取って、子どもが見ても面白くないものを子どもに薦める教師も教師だ」
老いらくさんがそう言って憤慨していた。
「ぼくもそう思います。子どもの教育に当たる人は、大人の観点からではなくて子どもの気持ちに寄り添って考えるべきだと思います」
ぼくは老いらくさんにそう言った。
「まったく、そのとおりだ」
老いらくさんがそう言った。
「そのあと、どうしたのですか」
ぼくは老いらくさんに聞いた。
「団長と副団長は全部で三つの学校を回ってから翠湖公園に帰ってきた」
老いらくさんがそう答えた。
「そうでしたか。それは大変な一日でしたね」
ぼくはそう言った。
「団長と副団長は翠湖公園に帰ってきたとき満足そうな顔をしていた。それとは対照的に、わしはとても疲れていた」
老いらくさんがそう答えた。
「分かりますよ。楽しいことについて回るのならともかく、そうでないことに、ついて回っていたら、ぼくだって疲れると思います」
ぼくは老いらくさんにそう言った。それからまもなく、ぼくは老いらくさんと別れて、うちへ帰っていった。

