天気…昨日の夕方、子どもたちを連れて湖畔を散歩しているとき、西の空が赤く染まっていた。それを見て、今日はきっといい天気になるだろうと思った。やはりそのとおりだった。朝からすっきりと晴れていて、太陽の光がきらきらと明るく輝いていた。
今朝八時ごろ、翠湖公園の入口付近に再び、青いバスがやってきて、車掌がバスから降りてきて、サーカス団の団員たちを呼びに梅園のほうに向かっていた。バスの出入口は開いていて、運転手は雑誌を読んでいたので、ぼくと老いらくさんは、すきを見て、バスのなかに入っていって、一番後ろの座席の下に隠れた。それからまもなくサーカス団の団員たちが次々とバスに乗り込んできた。団員たちが座席に座ってシートベルトを締めたのを確認してから車掌が運転手に「発車オーライ」と言っていた。バスは昨日と同じように、スピードをあげて走り始めた。今日はいよいよ判決が下される日だとあって、団長も団員も少し緊張したような顔をしていた。(スイカ―は今ごろ、どんな気持ちでいるのだろうか)と、ぼくはふと思った。
バスが裁判所の前に着くと、団員たちはバスから降りて百段ほどある大理石の白い階段を、静粛な表情をしながら、重々しい足取りで、ゆっくりとのぼっていった。ぼくと老いらくさんもバスから降りて、団長や団員のあとに続いて階段をのぼっていった。のぼりきったところにある入り口の前で昨日と同じように団長や団員は厳しいボディーチェックを受けてから法廷のなかに入っていった。ぼくと老いらくさんも、すきを見て法廷のなかに入っていった。建物のなかに法廷がいくつかあったが、団長や団員は昨日と同じ法廷に入っていった。ぼくと老いらくさんもなかに入っていって傍聴席の一番後ろにあるいすの下に隠れて裁判の様子を見ることにした。法廷のなかには、もうすでに裁判官や書記官や検察官や弁護士が着席していて、開廷を待っていた。罪を犯したとして訴えられたスイカ―も正面を向きながら、被告人席にじっと座っていた。
それからまもなくしてから裁判が再び始まった。スイカ―が犯したとされる罪状を検察官が事細かに読み上げていた。検察官の起訴状の朗読が終わったあと、弁護士が口頭弁論をおこなっていた。スイカ―を擁護する立場の弁護士のはずだが、スイカ―に有利になるようなことは、ほとんど何も言わなくて、情状酌量の余地があるから刑罰を軽くすることが妥当ではないかと、ただそれだけを言っていた。裁判官はそのあとスイカ―に
「何か言いたいことがあったら言いなさい」
と言っていた。スイカ―は昨日は何も言わなかったが、今日は判決が決まるとあって、自分がおこなったことを弁明していた。
「わたしはただ子どもたちを喜ばせようと思って独自の興行をおこなっただけです。サーカス団の興行に損害を与えようと思ったことは一度もありません」
スイカ―がそう言っていた。スイカ―の弁明を聞いて、検察官が
「子どもの多くは、あなたの興行を見に行き、そのためにサーカス団の興行を見に行く子どもの数が極端に少なくなった。これは事実ですか」
とスイカ―に問うていた。
「分かりません」
スイカ―はそう答えていた。
「ではもう一つ聞きます。あなたのショーは子どもの心をとりこにして、ふわふわと宙に浮いているような放心状態にさせました。これは事実ですか」
検察官がそう聞いていた。
「そうだと思います」
スイカ―はそう答えていた。そのあと今度は弁護士がスイカ―に聞いていた。
「あなたは子どもだけに興行を見せて、大人には見せませんでした。大人が見に行こうとしたら犬にほえさせて近づけさせませんでした。犬にかみつかれて、けがをした大人もいました。これは事実ですか」
「事実です」
スイカ―がそう答えていた。
「どうして大人には見せなかったのですか」
弁護士がさらに聞いていた。
「大人を対象としたショーはサーカス団が興行していたからです」
スイカ―がそう答えていた。
「犬をけしかけて大人を近づけさせなかったのはどうしてですか」
弁護士が聞いた。
「わたしがそうしろと犬に言ったわけではありません。犬が自主的にそうしただけです」
スイカ―がそう弁明していた。
「あなたが子どもの客足を奪うことで、サーカス団の収益が減るとは思わなかったのですか」
今度は再び検察官が聞いていた。
「思いませんでした。わたしのショーでは子どもの料金しか取らなかったから、客足が少々奪われても、サーカス団の収益はそれほど減らないだろうと思っていたからです」
スイカ―がそう答えていた。
スイカ―は検察官からも弁護士からも追及されていたが、ひるむことなく弁明していた。
そのあといったん休廷に入り、一時間後に判決が言い渡されることになった。休憩時間の間に、ぼくと老いらくさんは法廷の外に出て、新鮮な空気を吸ってから、再び、法廷のなかに入っていって判決が言い渡されるのを待っていた。サーカス団の団長と団員も外に出て、たばこを吸ったり、携帯電話で誰かと話をしたりしていた。
一時間後に再び、裁判が始まり、裁判長が判決文を読み上げていた。
「被告は、子どもの心を奪い、原告に多大な損害を与えた。心を奪うことは金品を奪うこととは違うとは言え、奪うことに変わりはない。心を奪われた子どもは、何かにとりつかれたように夢中になり、原告がおこなっている興行から足を遠ざけていった。そのために原告は子どもの客足を呼び寄せることが困難になり、営業利益に支障をきたすようになった。被告が犯した罪は横領罪に該当すると言わざるを得ない。子どもの心を奪った横領罪として被告に有罪を言い渡す。被告はこれ以後、翠湖公園の楠林の近くで興行をおこなうことを禁止する」
裁判長がそう言った。
それを聞いて、サーカス団の団長と団員たちは勝訴を知って、思わず顔を見合わせて、にんまりしていた。一方、敗訴したスイカ―は、下をうつむいて、しょんぼりしていた。
それからまもなく閉廷したので、ぼくと老いらくさんは、外に出て大理石の白い階段をおりていった。一番下までおりてくると、ぼくは老いらくさんに判決文の内容について話して聞かせた。すると老いらくさんが悲憤やるかたない顔をしながら
「何て荒唐無稽な判決だろう。こんな判決があっていいのだろうか」
と言っていた。
「そうですよね。まったくそのとおりです」
ぼくも、気持ちがむしゃくしゃしていた。
「裁判官は公平な観点から判決を下すべきだろう?」
老いらくさんがそう言った。ぼくはそれを聞いて、昨日、裁判が終わったあと、団長が裁判長にお金を渡していた場面を、ふっと思い出した。あれを見て、ぼくは裁判長は団長に悪いイメージを抱いて、サーカス団に敗訴を出すのではないかと思っていた。ところがぼくの期待外れだった。スイカ―は何も悪いことをしていないのに無実の罪を着せられて、楠林の近くで興行をおこなうことができなくなったので、スイカ―の無念な気持ちを思うと、ぼくはとても悲しかった。裁判の場といえども、賄賂の授受によって原告と被告のどちらが勝訴するかが決まることを知って、ぼくはやるかたない思いに駆られていた。老いらくさんも、ぼくと同じように感じているようだった。
「笑い猫、このままスイカ―を翠湖公園から出ていかせるわけにはいかない。スイカ―を慕っている子どもたちや動物がたくさんいるので、スイカ―が出ていったら、みんなを悲しませることになる」
老いらくさんがそう言った。
「ぼくもそう思います。でも判決は絶対的なものだから、従わなければならないのではないですか」
ぼくは老いらくさんにそう聞いた。すると老いらくさんが
「わしらの手に負えないような事態が生じたときは、わしはよく、わしの師匠である万年亀のことを思い出す。万年亀は大先生だから、何かよい知恵を授けてくれるかもしれないからだ。万年亀が今、どこにいるのか知らないが、会って、スイカ―のことを話してみたい」
と言った。
「そうですね。万年亀は不思議な力を持っている亀だから、会ってスイカ―の窮状を話したら助けるための何かよい知恵を授けてくれるかもしれないですね」
ぼくは老いらくさんにそう答えた。でも一体、どこに行ったら、万年亀に会えるのか、ぼくも老いらくさんも、さっぱり見当がつかなかった。ぼくと老いらくさんが話に夢中になっていると階段の上から、サーカス団の団長と団員たちが、晴れやかな気持ちでおりてくるのが見えた。裁判に勝訴したことが、よほどうれしそうに見えたから、ぼくは不愉快でたまらなくなった。階段の下にバスが止まっていたが、ぼくと老いらくさんはいっしょにバスに乗って帰る気はしなかったので、今日も昨日と同じように、歩いて翠湖公園まで帰っていった。
今朝八時ごろ、翠湖公園の入口付近に再び、青いバスがやってきて、車掌がバスから降りてきて、サーカス団の団員たちを呼びに梅園のほうに向かっていた。バスの出入口は開いていて、運転手は雑誌を読んでいたので、ぼくと老いらくさんは、すきを見て、バスのなかに入っていって、一番後ろの座席の下に隠れた。それからまもなくサーカス団の団員たちが次々とバスに乗り込んできた。団員たちが座席に座ってシートベルトを締めたのを確認してから車掌が運転手に「発車オーライ」と言っていた。バスは昨日と同じように、スピードをあげて走り始めた。今日はいよいよ判決が下される日だとあって、団長も団員も少し緊張したような顔をしていた。(スイカ―は今ごろ、どんな気持ちでいるのだろうか)と、ぼくはふと思った。
バスが裁判所の前に着くと、団員たちはバスから降りて百段ほどある大理石の白い階段を、静粛な表情をしながら、重々しい足取りで、ゆっくりとのぼっていった。ぼくと老いらくさんもバスから降りて、団長や団員のあとに続いて階段をのぼっていった。のぼりきったところにある入り口の前で昨日と同じように団長や団員は厳しいボディーチェックを受けてから法廷のなかに入っていった。ぼくと老いらくさんも、すきを見て法廷のなかに入っていった。建物のなかに法廷がいくつかあったが、団長や団員は昨日と同じ法廷に入っていった。ぼくと老いらくさんもなかに入っていって傍聴席の一番後ろにあるいすの下に隠れて裁判の様子を見ることにした。法廷のなかには、もうすでに裁判官や書記官や検察官や弁護士が着席していて、開廷を待っていた。罪を犯したとして訴えられたスイカ―も正面を向きながら、被告人席にじっと座っていた。
それからまもなくしてから裁判が再び始まった。スイカ―が犯したとされる罪状を検察官が事細かに読み上げていた。検察官の起訴状の朗読が終わったあと、弁護士が口頭弁論をおこなっていた。スイカ―を擁護する立場の弁護士のはずだが、スイカ―に有利になるようなことは、ほとんど何も言わなくて、情状酌量の余地があるから刑罰を軽くすることが妥当ではないかと、ただそれだけを言っていた。裁判官はそのあとスイカ―に
「何か言いたいことがあったら言いなさい」
と言っていた。スイカ―は昨日は何も言わなかったが、今日は判決が決まるとあって、自分がおこなったことを弁明していた。
「わたしはただ子どもたちを喜ばせようと思って独自の興行をおこなっただけです。サーカス団の興行に損害を与えようと思ったことは一度もありません」
スイカ―がそう言っていた。スイカ―の弁明を聞いて、検察官が
「子どもの多くは、あなたの興行を見に行き、そのためにサーカス団の興行を見に行く子どもの数が極端に少なくなった。これは事実ですか」
とスイカ―に問うていた。
「分かりません」
スイカ―はそう答えていた。
「ではもう一つ聞きます。あなたのショーは子どもの心をとりこにして、ふわふわと宙に浮いているような放心状態にさせました。これは事実ですか」
検察官がそう聞いていた。
「そうだと思います」
スイカ―はそう答えていた。そのあと今度は弁護士がスイカ―に聞いていた。
「あなたは子どもだけに興行を見せて、大人には見せませんでした。大人が見に行こうとしたら犬にほえさせて近づけさせませんでした。犬にかみつかれて、けがをした大人もいました。これは事実ですか」
「事実です」
スイカ―がそう答えていた。
「どうして大人には見せなかったのですか」
弁護士がさらに聞いていた。
「大人を対象としたショーはサーカス団が興行していたからです」
スイカ―がそう答えていた。
「犬をけしかけて大人を近づけさせなかったのはどうしてですか」
弁護士が聞いた。
「わたしがそうしろと犬に言ったわけではありません。犬が自主的にそうしただけです」
スイカ―がそう弁明していた。
「あなたが子どもの客足を奪うことで、サーカス団の収益が減るとは思わなかったのですか」
今度は再び検察官が聞いていた。
「思いませんでした。わたしのショーでは子どもの料金しか取らなかったから、客足が少々奪われても、サーカス団の収益はそれほど減らないだろうと思っていたからです」
スイカ―がそう答えていた。
スイカ―は検察官からも弁護士からも追及されていたが、ひるむことなく弁明していた。
そのあといったん休廷に入り、一時間後に判決が言い渡されることになった。休憩時間の間に、ぼくと老いらくさんは法廷の外に出て、新鮮な空気を吸ってから、再び、法廷のなかに入っていって判決が言い渡されるのを待っていた。サーカス団の団長と団員も外に出て、たばこを吸ったり、携帯電話で誰かと話をしたりしていた。
一時間後に再び、裁判が始まり、裁判長が判決文を読み上げていた。
「被告は、子どもの心を奪い、原告に多大な損害を与えた。心を奪うことは金品を奪うこととは違うとは言え、奪うことに変わりはない。心を奪われた子どもは、何かにとりつかれたように夢中になり、原告がおこなっている興行から足を遠ざけていった。そのために原告は子どもの客足を呼び寄せることが困難になり、営業利益に支障をきたすようになった。被告が犯した罪は横領罪に該当すると言わざるを得ない。子どもの心を奪った横領罪として被告に有罪を言い渡す。被告はこれ以後、翠湖公園の楠林の近くで興行をおこなうことを禁止する」
裁判長がそう言った。
それを聞いて、サーカス団の団長と団員たちは勝訴を知って、思わず顔を見合わせて、にんまりしていた。一方、敗訴したスイカ―は、下をうつむいて、しょんぼりしていた。
それからまもなく閉廷したので、ぼくと老いらくさんは、外に出て大理石の白い階段をおりていった。一番下までおりてくると、ぼくは老いらくさんに判決文の内容について話して聞かせた。すると老いらくさんが悲憤やるかたない顔をしながら
「何て荒唐無稽な判決だろう。こんな判決があっていいのだろうか」
と言っていた。
「そうですよね。まったくそのとおりです」
ぼくも、気持ちがむしゃくしゃしていた。
「裁判官は公平な観点から判決を下すべきだろう?」
老いらくさんがそう言った。ぼくはそれを聞いて、昨日、裁判が終わったあと、団長が裁判長にお金を渡していた場面を、ふっと思い出した。あれを見て、ぼくは裁判長は団長に悪いイメージを抱いて、サーカス団に敗訴を出すのではないかと思っていた。ところがぼくの期待外れだった。スイカ―は何も悪いことをしていないのに無実の罪を着せられて、楠林の近くで興行をおこなうことができなくなったので、スイカ―の無念な気持ちを思うと、ぼくはとても悲しかった。裁判の場といえども、賄賂の授受によって原告と被告のどちらが勝訴するかが決まることを知って、ぼくはやるかたない思いに駆られていた。老いらくさんも、ぼくと同じように感じているようだった。
「笑い猫、このままスイカ―を翠湖公園から出ていかせるわけにはいかない。スイカ―を慕っている子どもたちや動物がたくさんいるので、スイカ―が出ていったら、みんなを悲しませることになる」
老いらくさんがそう言った。
「ぼくもそう思います。でも判決は絶対的なものだから、従わなければならないのではないですか」
ぼくは老いらくさんにそう聞いた。すると老いらくさんが
「わしらの手に負えないような事態が生じたときは、わしはよく、わしの師匠である万年亀のことを思い出す。万年亀は大先生だから、何かよい知恵を授けてくれるかもしれないからだ。万年亀が今、どこにいるのか知らないが、会って、スイカ―のことを話してみたい」
と言った。
「そうですね。万年亀は不思議な力を持っている亀だから、会ってスイカ―の窮状を話したら助けるための何かよい知恵を授けてくれるかもしれないですね」
ぼくは老いらくさんにそう答えた。でも一体、どこに行ったら、万年亀に会えるのか、ぼくも老いらくさんも、さっぱり見当がつかなかった。ぼくと老いらくさんが話に夢中になっていると階段の上から、サーカス団の団長と団員たちが、晴れやかな気持ちでおりてくるのが見えた。裁判に勝訴したことが、よほどうれしそうに見えたから、ぼくは不愉快でたまらなくなった。階段の下にバスが止まっていたが、ぼくと老いらくさんはいっしょにバスに乗って帰る気はしなかったので、今日も昨日と同じように、歩いて翠湖公園まで帰っていった。

