もういつから声、聞いてないんだろう。
検査があるから、色々と大変だから邪魔しちゃいけないっていうのは都合のいい理由で。
実際は、私があいつと会うのを恐れて避けていただけなんじゃないの。
「私、あいつに何も聞けない」
「どうして?」
「聞いたら……」
その先が、怖かった。
聞いてしまったら。
知ってしまったら。
今までみたいに、くだらないことで笑えなくなる気がする。
「……李仁がいなくなるみたいで嫌なの」
タケちゃんの手が、ほんの少しだけ強く私の肩を掴んだ。
「紗綾」
「だから会いたくない」
「それは、会いたくないんじゃないだろ」
私の足元に小鳥が舞い降りてくる。
可愛らしくて手を伸ばせば、すぐに何処かに飛んでいってしまった。
「会ってしまったら、認めなきゃいけなくなるのが怖いだけだ」
「……やめて」
「李仁が苦しんでることも」
「やめてよ」
「お前が、あいつを大切に思ってることも」
「やめてってば!」
思わず声を荒らげて、ギターを抱きしめて俯いた。
「……嫌だ」
「…………」
「そんなの嫌だよ」
涙が一粒、ギターのボディに落ちた。
「私、まだ何も返せてない」
「……」
「ギターだって教えてもらってる途中だし」
「うん」
「まだ一緒に演奏したい曲もある」
「うん」
「まだ……」
まだ、いっぱいある。まだ、いっぱいしたいことがある。
一緒にいたい。
歌を聞きたい。
ギターを弾きたい。
くだらないことで喧嘩したい。
「……まだ、ありがとうって言ってない」
「だったら、本人に言えばいい」
はっとして、私はタケちゃんの顔を見上げた。
「今のお前なら、まだ言えるだろ」
タケちゃんが病棟の方に視線を移したから、釣られて私も目を向けた。
病院の窓。
その向こう側にある病室。きっと、あそこに李仁がいる。
「……行きたくない」
「うん」
「怖い、でも……」
ギターをケースにしまって、私は立ち上がった。
「……行かなきゃ」
立ち上がった私の足は、少し震えていた。



