毒を持つ娘と、毒を食う獣魔王 ~偽りの愛と復讐劇~

 その後、改めてゼンティとリィラの結婚式が執り行われた。ヒメとアレンの結婚式も兼ねて。
 同日に戴冠式も無事に終わり、ゼンティは正式にアディール国の王となった。

 さらにその後は、森を隔てたアディール国とベスティア国の間に道が作られて、国交が可能になった。

 森に住む野生の魔物や獣魔は、無差別に人間を捕食しないようにゼンティが指示した。

 その代わり、アディール国で不治の病や致命傷の怪我などで長くは生きられない人間に限り、獣魔に捕食させる事が可能。
 生きる希望を失った人間に、獣魔の体になって生きるという新たな選択肢が与えられた。
 これこそが、獣魔と人間の理想的な共存と共生の形であった。



 それから3年後。
 アディール国の王妃・リィラは、小さな女の子と手を繋いで中庭の花壇の花を眺めている。
 その子はリィラにそっくりな紫の髪と瞳、そして体内には人毒を持つ。彼女こそがゼンティとリィラの娘。

「ママ、このお花、きれい! ママとリンと同じ色!」
「そうね、リンティ。これは毒の花よ」

 娘の名前はリンティ。さらにリィラは今、二人目の命を胎内に宿している。
 そんな二人よりも遅れて、やっと休憩時間の多忙なアディール王・ゼンティが横に並んだ。

「あぁ、毒の花。おいしそうだなぁ」
「パパ、お花を食べちゃダメ」

 幼い娘に注意される情けないパパであった。リィラが再び妊娠中なので、ゼンティは毒が吸えなくて人毒に飢えていた。
 ドックが開発した人工的な嗜好品の毒も美味しいが、やはりリィラの体内の人毒に勝る味はない。

「ねぇ、リィラちゃん。ちょっとだけ毒吸わせて……」
「ダメ。我慢して」
「パパ、リンを吸っていいよ! リンの毒も美味しいよ!」
「リン……! ありがとう! パパ嬉しいよ、リン大好きだよ!」

 そう言って娘にキスをするゼンティだが、毒は吸わない。娘にまで手を出したら隣の妻に叩かれる事は分かっている。

 そんな長閑な一家の前に、小さな男の子が駆け寄ってきた。その後ろではヒメとアレンの夫婦が微笑ましく見守っている。

「リンちゃん! 一緒に遊ぼう!!」
「あっ、アレスくん! うん、あそぼー!」

 アレスと呼ばれた男児は、ヒメとアレンの息子。リンティと同い年の3歳。母親のヒメと同じ銀髪で、赤い瞳の獣魔。
 リィラにそっくりな女の子・紫髪のリンティと、ヒメにそっくりな男の子・銀髪のアレス。
 つまり二人は、リィラとゼンティにそっくりであった。



 人間の国・アディール王国と、獣魔の国・ベスティア王国。
 そこにはもう国境も、種族の壁も、偽りの愛もない。

 毒を持つ娘と、毒を食う獣魔。その愛は世代を超えて永遠に繋がっていく。

―完―