毒を持つ娘と、毒を食う獣魔王 ~偽りの愛と復讐劇~

 この場で唯一スカイブルーの瞳を持つレンティは、赤い瞳に呑まれるしかない。

「い、いや……助け……お兄様……」

 命乞いすら言葉にならないレンティの前にゼンティが立つ。その表情は穏やかな兄・王子センティではない。

「うるせえ、オレを兄と呼ぶな! 胸クソ悪い、目障りだ、餌らしく無様に死ね!!」

 それはセンティの人格ではなく、魔物本来の人格であった。これは禁断症状ではない。レンティへの憎しみから魔物の本性が表に出ただけ。

 続いて、その隣にリィラが立つ。感情の昂ぶっているゼンティとは逆に冷ややかに凍りついた微笑みを浮かべている。

「レンティさん、さようなら。どうか痛く苦しみながら死んでくださいね」

 リィラのその笑顔を合図に、ヒメがレンティに掴みかかり食らいついた。
 きっと、これでは苦しむ間もなく即死だろう。腹を空かせたヒメに理性など存在しない。

 レンティが最後に視界に映したのは、魔物に成り果てたアレンの赤い瞳だった。
 アレンの愛が偽りであっても、多くの偽りの中でも……レンティのアレンに対する愛だけは本物だった。

 リィラは、あんなに恐怖に思っていた捕食から今は目をそらさない。どんなに悲惨で残酷でもレンティの最後を見届ける。
 レンティの命と姿が跡形もなくなるまでが復讐なのだから。

 やがてヒメの捕食が終わると、リィラはようやく息を吐いて肩の力を抜いた。その瞳の色は赤から紫に戻っている。
 そんなリィラの肩を抱いてゼンティが優しく支える。

「リィラちゃん、お疲れ様。やっと僕たちの復讐が終わったよ」
「うん……ゼンティ、ありがとう」
「ふふ、でも式は改めてやり直さないとね」

 リィラは床に飛び散る捕食の血の跡を見て意識が現実に戻る。魔物のヒメが乱入した事で結婚式も中断という形になった。

 結婚式と戴冠式は、日を改めて行う必要がある。どちらにしても、復讐と血で染まった今日が結婚記念日にならなくて良かった。