毒を持つ娘と、毒を食う獣魔王 ~偽りの愛と復讐劇~

 ここで、動かずにいたゼンティがようやく立ち上がった。リィラと向かい合うと、その両肩を掴んで引き寄せる。

「僕たちの誓いのキスを見せてあげるよ。さぁ、みんな見て!!」

 ……そんな事ができるはずがない。レンティはそう確信していた。
 毒の種族とキスをして有毒な唾液を飲み込んでしまったら、普通の人間は死んでしまう。

「リィラちゃん。僕は君に永遠の愛を誓うよ」
「はい、センティ。私も永遠の愛を誓います」

 誓いを述べた後に二人は互いの唇を深く重ねる。長く、見せつけるように、疑う余地もないほどのキスで。

 二人はキスを見せつける事で普通の人間である事をアピールして、レンティの信用を落とす意図があった。

 当然、キスが終わってもゼンティには異変がない。どさくさに紛れてリィラの毒を吸ったゼンティは満足そうに微笑んだ。

「そ、そんな、なんで平気なの……」

 この状況にレンティは言い訳すら思い浮かばない。客人たちの冷めた目は、もはやレンティの言葉を狂言としか受け止めていない。
 さらにリィラが一歩前に出て客人たちに向かって大声で語りかける。

「皆様。私、リィラは懐妊しました事をご報告させて頂きます」
「なっ!? そんな、ありえませんわ!!」

 咄嗟に否定の声を上げるレンティだが、リィラは小声で言い返した。

「疑うなら検査をすれば分かります」

 毒の種族であれば当然、普通の人間とは交われない。子を成す事など不可能なのだ。
 しかし、リィラの自信に満ちた発言に嘘はなさそうに見える。おそらく懐妊は真実だろうとレンティは認めるしかない。