土佐弁男子は気まぐれ猫さん

信州りんごTシャツを着こなした龍馬と一緒に、私達は電車に揺られて隣町の大きなショッピングモールへと向かった。
​休日ということもあって、ショッピングモールの中はたくさんの家族連れやカップルで賑わっている。吹き抜けの天井とキラキラしたお店の光に、龍馬は目を丸くしてあちこちを見渡していた。
二階にはメンズファッションのお店が沢山あったので、龍馬と二人で色んなお店をブラブラしながらまわった。
​まずは、お父さんの謎センスTシャツから卒業するためにメンズ服のお店へ入ることにした。
男物の服なんて普段自分で買いに行くことないから、お店に入るだけでもちょっとドキドキしてしまう。けれど、棚に並ぶ服を見ているうちに、だんだんコーディネートするのが楽しくなってきた。
​「龍馬、このTシャツとか似合いそうじゃない?」
シンプルだけどシルエットがおしゃれなカーキ色のTシャツと、動きやすそうなデニムを龍馬にあててみる。背が高くてスラッとしているから、こういう落ち着いた服を着たら一気に『人気アイドルの変装したオフの日』になりそう。
​「これか?……うーん、わしはもっとこう、派手なやつがえいなぁ!」
​それは、黒地にど真ん中、目が痛くなるような蛍光オレンジと黄色の簡略化された虎が『我、虎ぞ』と書かれたプラカードを持っているイラストがプリントされたTシャツだった。
​結果、虎のTシャツをえらく気に入ったらしく、うっきうきで購入した。
「……マジでそれ買うの!?」
​私の制止も虚しく、龍馬はホクホク顔で『虎Tシャツ』の入った紙袋を嬉しそうに抱えていた。蛍光色の虎が主張激しくプリントされたそれを、彼はまるで宝物でも手に入れたかのように愛おしそうに撫でている。
​「何を言うがか、莉子ちゃん!この虎、めっそう強そうじゃろ?見ゆうだけで力が湧いてくるぜよ!」
「いや、強そうだけどさ……絶対街中で目立つって……」
虎も猫科だから親近感でも湧いたんだろうか?
​まあ、本人がこんなに満足そうならいいか、と半ばあきらめの境地に達しながら、私達は次の目的地へ向かうことにした。
ひと通り買い物を済ませたあとは、少し小腹が空いたので何かスイーツでも食べようかということになり、三階の色んなカフェがある場所までやってきた。
オシャレなカフェがいっぱいで、どこにしようか迷ってしまう。
するとそこで、とあるカフェの呼び込みをしていた女性店員さんに声をかけられた。
「こんにちはー、そこのカップルお二人〜」
その言葉にギョッとして足を止めたら、店員さんは私と龍馬に、ニコニコしながらメニューを見せてくる。
「ただいまカップルのお客様限定で、スペシャルメニューをご提供しております。いかがですか?」
「えっ!」
思わず龍馬の顔を確認してしまった私。
限定スイーツ、ちょっ食べてみたいかも。
すると龍馬が目を爛々と輝かせ、「おぉぉぉぉ!入る!入りたいぜよ!」と身を乗り出したので、入店決定となってしまった。
それを聞いた店員さんがニコッと笑って、
「ありがとうございまーす!それではとっておきの席をご案内しますね!」
意気揚々と店内まで案内してくれる店員さんの後ろを、龍馬は「カップル限定のスイーツ……!」と期待に胸を躍らせながらついて行く。私は腹を括って彼の後ろに続いた。
通されたのは、奥にある少し薄暗い、二人の距離が嫌でも近くなるソファ席だった。席に座ると、早速先程見せてもらったカップル限定スイーツとドリンクのセットを注文した。
すると十分ほど待った待ったあと、早速店員さんがそのスイーツを運んでくれて。
「お待たせしました〜。こちら、カップル限定スイーツの『ラブラブ二人占め・超ビッグスペシャルフラワープリンパフェ』でございます」
​明るい声と共に、店員さんがとてつもない存在感を放つスイーツを運んできてくれた。
​大きなガラス容器の中には色とりどりのフルーツと数種類のジェラート、そして中央にはお花の形をした大きな自家製プリンがどんと鎮座している。頂上にはハート型のパイと『Love』と書かれたクッキーが添えられていて、どこから見てもカップル専用と言わんばかりの特別感だ。
​実物は写真で見るよりも何倍も可愛くて華やかで、私は思わず声を上げてしまった。
「か、可愛い……!」
何これ、食べるのがもったいないくらいだよ!
思わずパフェに夢中になって目を輝かせ、声を弾ませる私。
そんな私を、隣に座る龍馬は肘を突き、頬杖をつきながら優しく見つめていた。
「良かったのぉ」
「うん!」
「記念撮影も承っております〜!どうです?」
カメラ片手に満面の笑みを浮かべる店員さん。
「えっ、あ、写真ですか!?」
​突然の提案に私がドギマギしていると、隣で龍馬が勢いよく身を乗り出した。
​「おぉ!記念撮影とな!ぜひ頼むぜよ!」
​「はいっ、喜んで〜!それではパフェを挟んで、もう少しお二人キュッと寄っていただけますか?」
​店員さんの指示に、私の心臓は一気に跳ね上がる。
ただでさえ狭いソファ席なのに、さらに距離が縮まるなんて……!
私がパフェ越しにカチコチに固まっていると、龍馬が「もっと近くか?」と無防備に身体を寄せてきた。
​「はーい、いきますよ〜!パフェのハートに負けないくらい、にっこりスマイルで〜……3、2、1!」
カシャッ!
フラッシュの光と同時に、龍馬はとびきりのドヤ顔でポーズを決め、私は真っ赤な顔で照れ笑いを浮かべる羽目になった。
​「素敵なお写真撮れましたよ〜!」
言われて画面を見てみたら、そこにはカップル感満載の私達の写真があって。
しかも龍馬に肩を抱かれた私は真っ赤になっていて、恥ずかしさから何処かに隠れてしまいたかった。
どうしよう、私ったら顔に出過ぎだよ。
​「ほら、見てみぃ莉子ちゃん! えい写真が撮れたぞ!」
​私の焦りなんて露知らず、龍馬は店員さんからプリントされた写真を受け取ると、実に満足そうにそれを眺めている。
​「ちょっと龍馬、見ないでよ……っ!」
​恥ずかしさのあまり写真を奪い取ろうと手を伸ばしたけれど、背の高い龍馬にひょいと腕を高く掲げられ、空振りに終わってしまう。
「何を隠すことがあるがか。莉子ちゃん、真っ赤で熟したリンゴみたいで可愛いぜよ」
​「〜〜〜っ!からかわないで!」
​悪びれもせず、心底思った通りに言った様子の龍馬に、私の顔はさらに熱を帯びていく。
だけど、楽しいのは私も同じで。
✳✳✳
「「いただきます」」
ふたりで両手を合わせ、スプーンを握りしめる。
ちなみにチョコ系じゃないフルーツ主体のパフェなので、安心して食べられそうだ。猫にチョコは厳禁だからね。
「美味いのぉ!」
​大きな口でジェラートをすくった龍馬が、目を丸くして感嘆の声をあげる。
​「本当だ!自家製プリンもトロトロで、すごく美味しい!」
​私もプリンをすくって口に運ぶ。濃厚で優しい甘さが広がって、思わず笑みがこぼれた。
​大きなガラス容器に盛られたパフェは迫力満点だったけれど、二人で「このフルーツ美味い!」「クッキー半分こしよう」なんてワイワイ言いながら食べ進めていくと、あんなに巨大に見えたパフェもあっという間に小さくなっていく。
するとその時、龍馬がパフェのてっぺんに乗っていたパイを指差して、
「このパイ、一個しかないけんど、莉子ちゃん食べる?」
「良いの?」
「うん、はい」
そして何を思ったのか、それをスプーンですくって私の口元まで運んでくれたので、思わず固まってしまった。
こ、これは『あーん』ならぬ猫が体調不良などで餌を食べない時に食べさせることができるやつ!
「……って、猫の介護ご飯じゃないんだから!」
​思わずツッコミを入れてしまう。
当の本人はといえば、「ほら、早く食べんか」と言わんばかりに、何の他意もない無邪気でまっすぐな瞳でこちらを見つめていた。
「わ、わかったから……自分で食べるよ!」
「何を言うがか。あっちの客はあーんしちゅーぜよ!」
​周りをコッソリ伺ってみれば、確かに向かいの席のカップルがお互いにパフェを一口ずつ食べさせ合っている。その甘い雰囲気に、私の顔は限界突破で真っ赤になってしまった。
(絶対私達がいるべきじゃない空間だよ!)
​「ほら、莉子ちゃん。これ、放置したら溶けて落ちてしまうぜよ?」
「うっ……!わ、分かったから……っ」
​逃げ場を失った私は、半ばやけくそで目をギュッと瞑り、パイを食べた。
​「どうじゃ、美味いか?」
もぐもぐと噛み締めながらコクコクと頷くと、龍馬は目をキラキラ輝かせていた。
ふたりで競うようにスプーンを動かしていると、あっという間にパフェは終盤戦へ。
あんなに大きかったガラス容器の底には、甘酸っぱいベリーソースと残りのフレークがほんの少し残るだけになっていた。
​「ふぅ……美味しかったぁ!結構ボリュームあったけど、ふたりで食べたらペロリだったね」
「ほんまになぁ!美味いものを腹いっぱい食うて、莉子ちゃんの可愛い顔も見られて、今日は最高の一日じゃ!」