「密室……?莉子ちゃん、密室って何じゃ?」
隣で文章を覗き込んでいた龍馬が、私の袖をきゅっと引っ張った。
「あ、ええとね、窓もドアも全部中から鍵が閉まっていて、誰も出入りできない部屋のことだよ」
「誰も入れんのに、人が倒れちゅうが?……あ、分かったぜよ!犯人は壁の隙間から入った小さな虫じゃ!」
「虫が犯人だったら嫌だなー。でも、これは人間の仕掛けた巧妙なトリックなんだよ」
布団に寝っ転がって読んでいるからか、それとも眠たいからか、とても眠気が……目を瞑ったら寝てしまいそうなほどに。
「莉子ちゃん、文字ばっかりで目が疲れたがやない?もう眠いろう」
私が何度もこすりかける目を必死に開けていると、隣にいた龍馬が心配そうに覗き込んできた。
「大丈夫、まだ読める……。犯人が、気になるし……」
そう言いながらも、私の頭は半分夢の中へと引きずり込まれそうになっていた。パジャマの袖に包まれた手が、小説を持つ力を失って、シーツの上にぱたりと落ちる。
「無理したらいかんぜよ。ほら、本はわしが片付けるき」
龍馬はそう言って、私の手から優しく小説を抜き取った。栞を挟んで、サイドテーブルにそっと置く音が、遠くの方で聞こえる。
ガサゴソと床に敷いた布団に潜り込む龍馬。
「莉子ちゃん、おやすみ」
下の方から聞こえる龍馬の声は、驚くほど穏やかで、おひさまの温もりをそのまま溶かしたように優しかった。
いつもは元気いっぱいに部屋を賑やかしている彼だけど、私が眠たそうにしていると、まるであの猫の頃のように、そっと寄り添うように静かになる。
私がベッドの端から薄目を開けて見下ろすと、床の布団からひょっこりと顔を出した龍馬と目が合った。暗がりの中でも、彼の瑠璃色の瞳は優しくきらめいている。
「……ん、おやすみ、龍馬。本、片付けてくれてありがとう」
「どういたしまして。明日、また一緒に犯人を探そうね」
龍馬は布団を顎のあたりまで引き上げ、嬉しそうに目を細めた。
その姿を見ていたら、不思議と張り詰めていた胸の緊張がほぐれ、心地よい温かさが体中に広がっていく。
「今度はもう、勝手に消えたりせんきね」
夢の中で、そんな優しい約束が聞こえた気がした。
✳✳✳
「莉子ちゃん、莉子ちゃーん」
ユサユサと揺さぶられながら私は目を開けた。
寝ぼけた頭を必死に動かしながら、ゆっくりと上体を起こす。まだ頭がぼーっとして、夢と現実の境界線が曖昧なままだ。
「ん……龍馬?もう朝……?」
「おう!鳥がちゅんちゅん鳴きゆうし、おばちゃんも下で朝ご飯を作り始めちゅうぜよ!莉子ちゃん、昨日はぐっすり寝ちゅったねぇ」
龍馬は私のベッドの横に膝をつき、嬉しそうに覗き込んできた。
「う、うん……本当によく寝たかも。龍馬、起こしてくれてありがとう」
私は目をこすりながら、大きく伸びをした。
カーテンの隙間から差し込む朝の光が眩しくて、昨夜の眠気が嘘のようにすっきりと引いていく。
頭の後ろで手を組んで、もう一度だけ大きな伸びをする。窓から差し込む朝の光は少し白っぽくて、澄んだ空気の匂いがした。
「莉子ちゃん、髪が爆発しちゅうぜよ!まるで寝起きにびっくりのけぞった猫の尻尾じゃ!」
龍馬は私の寝癖を指差して、声を上げてケラケラと笑う。
「あ、ひどい……。誰のせいで寝不足になってたと思ってんの。……って、まあ昨日はよく眠れたからいいけどさ」
ふてくされたフリをしながらベッドから這い出ると、龍馬は「わしのせい!?げえっ、なんか悪いことしたかっ!?」と、犬のように(猫だけど)あわてふためいて私の顔を覗き込んできた。
昨日、あんなに学校に馴染めるか心配したのがバカらしくなるくらい、今日の彼はやけに朝からテンションが高い。
「莉子ちゃん、今日は休日ぜよ!」
「あ、そうだった……。今日って土曜日じゃん!」
ベッドから足を下ろした瞬間、張り詰めていた頭のネジが完全にゆるんだ。
学校に行かなくていい、授業もなければ、クラスメイトの『二人の関係はどうなってるの?』という痛い視線に耐える必要もない。
なんて素晴らしい響きだろう、休日。
「莉子ちゃん、今日暇ならどっか遊びに行こ?」
きらきらとした瞳で私を見上げる龍馬に、私は大きく伸びをしながら、「そうだね、どこ行こうか」と返した。
私はベッドから立ち上がり、クローゼットへと歩きながら考え込んだ。
いつもなら、せっかくの土曜日は家でだらだらとスマホを見たりアニメを消化したりするのが定番だった。けれど……せっかく龍馬が人間になったんだし、どこかへ出かけたい気持ちもある。
「莉子ちゃん、どこ行きたいがか?」
「えー、私は何でも良いよー。あ、でも室内が良いかも」
「室内か!ならいっぱい遊べる場所があるところがえいのぉ」
クローゼットの扉に手をかけたまま私が振り返ると、龍馬はベッドの端にちょこんと座り、興味津々といった様子で首を傾げた。
「....あ!ショッピングモールとかどう?フードコートもあるからお昼ご飯には困らないし」
「飯も食えて、色んなものが見られるなら、一日中おっても飽きんのぉ!」
ということで、朝ご飯を食べ終えて支度してからショッピングモールに向かうことになった。
ただ、龍馬は高知から持ってきた着替えと制服くらいしか持っていない。せっかくの休日だし、服屋さんで何着か普段着を買うのもありだと思う。
顔がイケメン寄りだから、お父さんがノリと勢いで買ってきてくれた、超ローカルなTシャツでも着こなせるだろう。胸元にでっかく、素朴なタッチで『信州りんご農園』って書いてあるけど.....。
「莉子ちゃん、この信州っちゅうのは長野のことぜよ!」
「そうなの?よく知ってね!……それにしても龍馬、そのTシャツ、意外と似合ってるのがなんか悔しいな……」
「色んな場所におったき、地名は得意ぜよ」
胸を張ってニシシと笑う龍馬の姿に、私は思わず吹き出してしまった。
隣で文章を覗き込んでいた龍馬が、私の袖をきゅっと引っ張った。
「あ、ええとね、窓もドアも全部中から鍵が閉まっていて、誰も出入りできない部屋のことだよ」
「誰も入れんのに、人が倒れちゅうが?……あ、分かったぜよ!犯人は壁の隙間から入った小さな虫じゃ!」
「虫が犯人だったら嫌だなー。でも、これは人間の仕掛けた巧妙なトリックなんだよ」
布団に寝っ転がって読んでいるからか、それとも眠たいからか、とても眠気が……目を瞑ったら寝てしまいそうなほどに。
「莉子ちゃん、文字ばっかりで目が疲れたがやない?もう眠いろう」
私が何度もこすりかける目を必死に開けていると、隣にいた龍馬が心配そうに覗き込んできた。
「大丈夫、まだ読める……。犯人が、気になるし……」
そう言いながらも、私の頭は半分夢の中へと引きずり込まれそうになっていた。パジャマの袖に包まれた手が、小説を持つ力を失って、シーツの上にぱたりと落ちる。
「無理したらいかんぜよ。ほら、本はわしが片付けるき」
龍馬はそう言って、私の手から優しく小説を抜き取った。栞を挟んで、サイドテーブルにそっと置く音が、遠くの方で聞こえる。
ガサゴソと床に敷いた布団に潜り込む龍馬。
「莉子ちゃん、おやすみ」
下の方から聞こえる龍馬の声は、驚くほど穏やかで、おひさまの温もりをそのまま溶かしたように優しかった。
いつもは元気いっぱいに部屋を賑やかしている彼だけど、私が眠たそうにしていると、まるであの猫の頃のように、そっと寄り添うように静かになる。
私がベッドの端から薄目を開けて見下ろすと、床の布団からひょっこりと顔を出した龍馬と目が合った。暗がりの中でも、彼の瑠璃色の瞳は優しくきらめいている。
「……ん、おやすみ、龍馬。本、片付けてくれてありがとう」
「どういたしまして。明日、また一緒に犯人を探そうね」
龍馬は布団を顎のあたりまで引き上げ、嬉しそうに目を細めた。
その姿を見ていたら、不思議と張り詰めていた胸の緊張がほぐれ、心地よい温かさが体中に広がっていく。
「今度はもう、勝手に消えたりせんきね」
夢の中で、そんな優しい約束が聞こえた気がした。
✳✳✳
「莉子ちゃん、莉子ちゃーん」
ユサユサと揺さぶられながら私は目を開けた。
寝ぼけた頭を必死に動かしながら、ゆっくりと上体を起こす。まだ頭がぼーっとして、夢と現実の境界線が曖昧なままだ。
「ん……龍馬?もう朝……?」
「おう!鳥がちゅんちゅん鳴きゆうし、おばちゃんも下で朝ご飯を作り始めちゅうぜよ!莉子ちゃん、昨日はぐっすり寝ちゅったねぇ」
龍馬は私のベッドの横に膝をつき、嬉しそうに覗き込んできた。
「う、うん……本当によく寝たかも。龍馬、起こしてくれてありがとう」
私は目をこすりながら、大きく伸びをした。
カーテンの隙間から差し込む朝の光が眩しくて、昨夜の眠気が嘘のようにすっきりと引いていく。
頭の後ろで手を組んで、もう一度だけ大きな伸びをする。窓から差し込む朝の光は少し白っぽくて、澄んだ空気の匂いがした。
「莉子ちゃん、髪が爆発しちゅうぜよ!まるで寝起きにびっくりのけぞった猫の尻尾じゃ!」
龍馬は私の寝癖を指差して、声を上げてケラケラと笑う。
「あ、ひどい……。誰のせいで寝不足になってたと思ってんの。……って、まあ昨日はよく眠れたからいいけどさ」
ふてくされたフリをしながらベッドから這い出ると、龍馬は「わしのせい!?げえっ、なんか悪いことしたかっ!?」と、犬のように(猫だけど)あわてふためいて私の顔を覗き込んできた。
昨日、あんなに学校に馴染めるか心配したのがバカらしくなるくらい、今日の彼はやけに朝からテンションが高い。
「莉子ちゃん、今日は休日ぜよ!」
「あ、そうだった……。今日って土曜日じゃん!」
ベッドから足を下ろした瞬間、張り詰めていた頭のネジが完全にゆるんだ。
学校に行かなくていい、授業もなければ、クラスメイトの『二人の関係はどうなってるの?』という痛い視線に耐える必要もない。
なんて素晴らしい響きだろう、休日。
「莉子ちゃん、今日暇ならどっか遊びに行こ?」
きらきらとした瞳で私を見上げる龍馬に、私は大きく伸びをしながら、「そうだね、どこ行こうか」と返した。
私はベッドから立ち上がり、クローゼットへと歩きながら考え込んだ。
いつもなら、せっかくの土曜日は家でだらだらとスマホを見たりアニメを消化したりするのが定番だった。けれど……せっかく龍馬が人間になったんだし、どこかへ出かけたい気持ちもある。
「莉子ちゃん、どこ行きたいがか?」
「えー、私は何でも良いよー。あ、でも室内が良いかも」
「室内か!ならいっぱい遊べる場所があるところがえいのぉ」
クローゼットの扉に手をかけたまま私が振り返ると、龍馬はベッドの端にちょこんと座り、興味津々といった様子で首を傾げた。
「....あ!ショッピングモールとかどう?フードコートもあるからお昼ご飯には困らないし」
「飯も食えて、色んなものが見られるなら、一日中おっても飽きんのぉ!」
ということで、朝ご飯を食べ終えて支度してからショッピングモールに向かうことになった。
ただ、龍馬は高知から持ってきた着替えと制服くらいしか持っていない。せっかくの休日だし、服屋さんで何着か普段着を買うのもありだと思う。
顔がイケメン寄りだから、お父さんがノリと勢いで買ってきてくれた、超ローカルなTシャツでも着こなせるだろう。胸元にでっかく、素朴なタッチで『信州りんご農園』って書いてあるけど.....。
「莉子ちゃん、この信州っちゅうのは長野のことぜよ!」
「そうなの?よく知ってね!……それにしても龍馬、そのTシャツ、意外と似合ってるのがなんか悔しいな……」
「色んな場所におったき、地名は得意ぜよ」
胸を張ってニシシと笑う龍馬の姿に、私は思わず吹き出してしまった。



