天気……好天気が二日間続いたあと、雲行きが再び怪しくなってきた。午後から小雨がぱらぱらと降ってきて、気温がまた下がってきた。
サーカスの公演は土曜日ごとにおこなわれるので、次の土曜日までの間、団員たちは練習に励み、公演が終わったあとの日曜日は団員たちの休息日に充てられていた。ぼくと老いらくさんは団員たちの練習を見ることにはあまり興味はなかったが、ピエロはどんなことをしているのだろうと思ったので、時々、会場に出かけていった。すると観客席のいすの上に、ぽつんと座って、寂しげな表情をしながら練習の様子を見ている姿が目に入った。スイカ模様のつなぎ服は着ていなかったので、しょぼくれた老人にしか見えなかった。
一週間がたってサーカスの二回目の公演の日がやってきた。朝から空がどんよりと曇っていて、お昼を過ぎたころからは小ぬか雨がしとしと降ってきて路上を静かに濡らしていた。ピエロがお客さんを呼び込んでいる姿を見ようと思って、ぼくと老いらくさんは、いそいそとしながらサーカスの会場の近くまで行った。ところがスイカーの姿は今日はどこにもなかった。先週の土曜日には会場の近くで「いらっしゃい、いらっしゃい、これからサーカスが始まるよ」と言って、お客さんを呼び込むのに一役買っていたのに、今日はどうしたのだろうと、ぼくは思った。今日は天気もよくないし、スイカーの姿も見えなかったから、お客さんの入りが悪いのではないかと思って心配していた。ところがぼくの心配は杞憂にすぎなかった。開演時間が近づくにつれて、お客さんの姿がどんどん増えてきているのが分かったからだ。ほとんどが子ども連れの人ばかりだった。
会場にやってきたお客さんのなかに杜真子とお母さんの姿もあった。ぼくは以前、杜真子のうちで飼われていたので、二人の姿を見て、とても懐かしく思った。杜真子は、ぼくが一番好きな女の子だから、近くまで駆けよっていきたいという衝動に駆られた。でも近くにお母さんがいるので、気持ちを抑えて自重することにした。杜真子のお母さんは、ぼくのことを嫌っているので、ぼくが近づいていったら不愉快な思いをするかもしれないと思ったからだ。それにしても杜真子のお母さんは、どうして杜真子をサーカスの会場に連れてきたのだろうか。杜真子のお母さんは、とても厳しい人だから、サーカスのような娯楽性の強いものを見せるために杜真子を連れてくるような人ではないからだ。うちではテレビのアニメも見せないし、学校での宿題のほかに自分でも宿題を出していたし、塾にも幾つも通わせていた。そんなお母さんがどうして杜真子をサーカスの会場に連れてきたのか、ぼくには皆目、見当がつかないでいた。
杜真子のほかに、馬小跳の姿もあった。馬小跳は友だちといっしょに見にきていた。馬小跳たちは先週、会場の前まできて、宣伝用の看板を見て「これはサーカスではない」と言っていたから、今日またくるとは、思ってもいなかった。どういう風の吹き回しだろうと思いながら、ぼくは馬小跳たちを見ていた。すると老いらくさんが
「笑い猫、わしにも理由がさっぱり分からん。まるで何かにとりつかれたように、人がたくさんやってくる。ピエロに勧誘されて、渋々、見にきたのではなくて、ほとんどの人は自分からすすんで見にきているように思える。なかにはサーカスをよく思っていない人までも、見にきているようだ」
老いらくさんがそう言って、小首をかしげていた。
「ぼくにも理由がよく分かりません」
ぼくもそう答えるよりほかなかった。
会場の入口の前には先週以上に長蛇の列ができていた。ぼくと老いらくさんは今度も混雑に紛れ込んで会場のなかに、そっと入り込んでいった。先週と同じように、会場のなかに空席は一つもなくて立ち見客がたくさんいた。ただ先週と違っているところが一つだけあった。ステージの横にテレビ局のカメラが何台も設置されていたことだ。
それからまもなくトランペットのファンファーレが高らかに鳴って、サーカスの公演が始まった。先週とは違って、テレビ局のアナウンサーが司会を務めていた。演目の内容や順番は先週とまったく同じだった。今回も動物の曲芸や空中綱渡りはなかったし、ピエロも出てこなかった。そのために子どもたちの多くは退屈して、あくびをしたり、演技は見ないでスマートフォンをいじったりしていた。アナウンサーがスマートフォンの電源を切るように言っていたにもかかわらず、子どもたちの多くは電源を切らないで、いじっていた。注意されて席を立って出口のほうに向かう子どももいた。席を立ちかけた子どもの手を強く引っ張って行かせないようにしている親もいた。杜真子も退屈そうに演目を見ていた。途中で席を立ったら、あとでお母さんに怒られるのは分かっていたので、おとなしく座っているように見えた。馬小跳たちは、横を見ながら、ひそひそと私語を交わしていた。すべての演目が終わった直後に馬小跳たちはさっと席を立って出口のほうに向かっていた。ぼくと老いらくさんも馬小跳たちのあとから、ついていった。出口のところに立っていた初老のお年寄りが馬小跳たちに
「どうでしたか。楽しかったですか」
と聞いていた。その質問に馬小跳たちは誰一人答えないで、むすっとしていた。そのあと馬小跳が、とげとげしい声で
「団長と会いたい」
と言っていた。
「会ってどうするのですか」
お年寄りが聞き返していた。
「一言いいたいことがある」
馬小跳がそう答えていた。
「わたしが伝えておきます」
お年寄りがそう言った。
「おじいさんのような人に話しても意味がないから、直接、会って話をしたい」
馬小跳がそう言った。馬小跳は目の前にいるこのお年寄りがスイカ―と呼ばれているピエロだということに、まったく気がついていないようだった。
「分かりました。ではこちらに来てください」
お年寄りはそう言って、馬小跳たちを楽屋裏に連れて行った。ぼくもこっそり、あとからついていった。しばらくしてから、団長が馬小跳たちの前にやってきた。
「おまえたちは、おれに何か話があるそうだが、何を言いたいのか」
団長が馬小跳たちに聞いていた。
「最後まで全部見ましたが、あれのどこがサーカスなのでしょうか。ぼくがイメージしていたサーカスとは全然違っていました」
馬小跳が膨れっ面をしながら、そう言っていた。
「そうだよ、あれはサーカスではない。ぼくらはサーカスを見に来ました。あんなものを見るために、高いお金を払ったのではありません。入場料を返してください」
唐飛がそう言っていた。それを聞いて団長が
「おまえたちの気持ちが分からないでもない。しかし、おまえたちの人格形成に一役買おうと思って、あえてこのような演目をおこなったのだ」
団長がそう答えていた。
「分からないでもありません。しかしお金を取る以上、見る人の多くが楽しめるようなものをおこなうべきではないのですか」
馬小跳が反論していた。
「そうだよ、ぼくたちは頭があまりよくないから、あんなものを見ても楽しいとは感じない。途中で退席していく子どもも何人もいました」
毛超がそう言った。
「お、お金を、か、返してください」
どもりの張達はそう言っていた。
「それはできない。最後まで見た以上、お金を返すわけにはいかない」
団長はそう言って、首を横に振っていた。
「それでは気がおさまりません」
唐飛が口を、への字に曲げながら、そう言っていた。
団長も馬小跳たちも、どちらも一歩も引かずに膠着状態におちいっていって、にらみあっていた。するとそのとき、テレビ局の人が何事だろうと思って近づいてくるのが見えた。それに気がついた団長が
「分かった、分かった。日をあらためて、話そう。明日の午前中にもう一度、ここへ来ることができるか」
と言った。
「できます。今はまだ春節の休暇期間中だから来ることができます」
馬小跳がそう答えていた。
「では明日の朝、十時にここに来なさい。そのときにおまえたちが納得のいくような答を用意しておく」
団長がそう言った。
「分かりました。では明日またここへ来ます」
馬小跳がそう答えていた。それからまもなく馬小跳たちは楽屋裏を出て、観客席のほうにちらっと視線をやった。すると杜真子とお母さんがテレビ局の人から取材を受けているのが見えた。
「お嬢さん、どうでしたか。楽しかったですか」
若い女性のリポーターが杜真子にマイクを向けながら聞いていた。
「……」
杜真子は答に詰まっていた。それを見て杜真子のお母さんが杜真子からマイクをさっと奪い取って
「とても楽しかったです。いままでに見たことがないサーカスだったので、サーカスに対する固定観念が覆されました。こんな美しい演目を見て心が洗われました」
と答えていた。
「そうでしたか。それはよかったです。お嬢様もきっと、同じように感じておられることと思います。そうでしょう?」
リポーターはそう言って、再び杜真子に聞いていた。
「……」
杜真子は何も答えないで複雑な顔をしながら、お母さんの顔をじっと見ていた。
リポーターは再び杜真子のお母さんに
「いままで見たことがないサーカスだったと、おっしゃいましたが、これまでご覧になられたサーカスはどのようなものだったのか、ちょっとお話ししていただけないでしょうか」
と聞いていた。
「分かりました。ではお話しいたします」
杜真子のお母さんはそう言って話し始めた。
「わたしが子どものころに見たサーカスでは空中ブランコや空中綱渡りや動物による曲芸がありました。猿が自転車に乗ったり、子犬が火の輪くぐりをしたりして、見ていて楽しかったです。ピエロも出てきて滑稽な仕草や手品をして楽しませてくれました」
杜真子のお母さんがそう言っていた。
「そうでしたか。今日のショーでは、そういったものはなかったので、物足りなく感じられたのではないでしょうか」
リポーターが聞いていた。
「そんなことはありません。あのころのサーカスは見て楽しませるだけの娯楽性の強いものでしたが、今日見たものは芸術性にあふれていて深い感動を与えるものでした」
杜真子のお母さんがそう答えていた。
「そうでしたか。時代の推移とともにサーカスにも新しい変革が求められるようになってきたのかもしれませんね」
リポーターがそう答えていた。それを聞いて、杜真子のお母さんはうなずいていた。リポーターはそのあと、ほかの親子にもショーの感想を聞いていた。子どものなかには
「あまり楽しくなかった」
と率直な気持ちを述べる子どももいた。それに対して親たちは、判で押したように
「サーカスに対する固定観念が覆されました。こんな美しい演目を見て心が洗われました」
と言っていた。杜真子のお母さんが、さっき話したことと、まったく同じことを言っていたので、ぼくはけげんに思いながら、ほかの親たちの感想を聞いていた。
サーカスの公演は土曜日ごとにおこなわれるので、次の土曜日までの間、団員たちは練習に励み、公演が終わったあとの日曜日は団員たちの休息日に充てられていた。ぼくと老いらくさんは団員たちの練習を見ることにはあまり興味はなかったが、ピエロはどんなことをしているのだろうと思ったので、時々、会場に出かけていった。すると観客席のいすの上に、ぽつんと座って、寂しげな表情をしながら練習の様子を見ている姿が目に入った。スイカ模様のつなぎ服は着ていなかったので、しょぼくれた老人にしか見えなかった。
一週間がたってサーカスの二回目の公演の日がやってきた。朝から空がどんよりと曇っていて、お昼を過ぎたころからは小ぬか雨がしとしと降ってきて路上を静かに濡らしていた。ピエロがお客さんを呼び込んでいる姿を見ようと思って、ぼくと老いらくさんは、いそいそとしながらサーカスの会場の近くまで行った。ところがスイカーの姿は今日はどこにもなかった。先週の土曜日には会場の近くで「いらっしゃい、いらっしゃい、これからサーカスが始まるよ」と言って、お客さんを呼び込むのに一役買っていたのに、今日はどうしたのだろうと、ぼくは思った。今日は天気もよくないし、スイカーの姿も見えなかったから、お客さんの入りが悪いのではないかと思って心配していた。ところがぼくの心配は杞憂にすぎなかった。開演時間が近づくにつれて、お客さんの姿がどんどん増えてきているのが分かったからだ。ほとんどが子ども連れの人ばかりだった。
会場にやってきたお客さんのなかに杜真子とお母さんの姿もあった。ぼくは以前、杜真子のうちで飼われていたので、二人の姿を見て、とても懐かしく思った。杜真子は、ぼくが一番好きな女の子だから、近くまで駆けよっていきたいという衝動に駆られた。でも近くにお母さんがいるので、気持ちを抑えて自重することにした。杜真子のお母さんは、ぼくのことを嫌っているので、ぼくが近づいていったら不愉快な思いをするかもしれないと思ったからだ。それにしても杜真子のお母さんは、どうして杜真子をサーカスの会場に連れてきたのだろうか。杜真子のお母さんは、とても厳しい人だから、サーカスのような娯楽性の強いものを見せるために杜真子を連れてくるような人ではないからだ。うちではテレビのアニメも見せないし、学校での宿題のほかに自分でも宿題を出していたし、塾にも幾つも通わせていた。そんなお母さんがどうして杜真子をサーカスの会場に連れてきたのか、ぼくには皆目、見当がつかないでいた。
杜真子のほかに、馬小跳の姿もあった。馬小跳は友だちといっしょに見にきていた。馬小跳たちは先週、会場の前まできて、宣伝用の看板を見て「これはサーカスではない」と言っていたから、今日またくるとは、思ってもいなかった。どういう風の吹き回しだろうと思いながら、ぼくは馬小跳たちを見ていた。すると老いらくさんが
「笑い猫、わしにも理由がさっぱり分からん。まるで何かにとりつかれたように、人がたくさんやってくる。ピエロに勧誘されて、渋々、見にきたのではなくて、ほとんどの人は自分からすすんで見にきているように思える。なかにはサーカスをよく思っていない人までも、見にきているようだ」
老いらくさんがそう言って、小首をかしげていた。
「ぼくにも理由がよく分かりません」
ぼくもそう答えるよりほかなかった。
会場の入口の前には先週以上に長蛇の列ができていた。ぼくと老いらくさんは今度も混雑に紛れ込んで会場のなかに、そっと入り込んでいった。先週と同じように、会場のなかに空席は一つもなくて立ち見客がたくさんいた。ただ先週と違っているところが一つだけあった。ステージの横にテレビ局のカメラが何台も設置されていたことだ。
それからまもなくトランペットのファンファーレが高らかに鳴って、サーカスの公演が始まった。先週とは違って、テレビ局のアナウンサーが司会を務めていた。演目の内容や順番は先週とまったく同じだった。今回も動物の曲芸や空中綱渡りはなかったし、ピエロも出てこなかった。そのために子どもたちの多くは退屈して、あくびをしたり、演技は見ないでスマートフォンをいじったりしていた。アナウンサーがスマートフォンの電源を切るように言っていたにもかかわらず、子どもたちの多くは電源を切らないで、いじっていた。注意されて席を立って出口のほうに向かう子どももいた。席を立ちかけた子どもの手を強く引っ張って行かせないようにしている親もいた。杜真子も退屈そうに演目を見ていた。途中で席を立ったら、あとでお母さんに怒られるのは分かっていたので、おとなしく座っているように見えた。馬小跳たちは、横を見ながら、ひそひそと私語を交わしていた。すべての演目が終わった直後に馬小跳たちはさっと席を立って出口のほうに向かっていた。ぼくと老いらくさんも馬小跳たちのあとから、ついていった。出口のところに立っていた初老のお年寄りが馬小跳たちに
「どうでしたか。楽しかったですか」
と聞いていた。その質問に馬小跳たちは誰一人答えないで、むすっとしていた。そのあと馬小跳が、とげとげしい声で
「団長と会いたい」
と言っていた。
「会ってどうするのですか」
お年寄りが聞き返していた。
「一言いいたいことがある」
馬小跳がそう答えていた。
「わたしが伝えておきます」
お年寄りがそう言った。
「おじいさんのような人に話しても意味がないから、直接、会って話をしたい」
馬小跳がそう言った。馬小跳は目の前にいるこのお年寄りがスイカ―と呼ばれているピエロだということに、まったく気がついていないようだった。
「分かりました。ではこちらに来てください」
お年寄りはそう言って、馬小跳たちを楽屋裏に連れて行った。ぼくもこっそり、あとからついていった。しばらくしてから、団長が馬小跳たちの前にやってきた。
「おまえたちは、おれに何か話があるそうだが、何を言いたいのか」
団長が馬小跳たちに聞いていた。
「最後まで全部見ましたが、あれのどこがサーカスなのでしょうか。ぼくがイメージしていたサーカスとは全然違っていました」
馬小跳が膨れっ面をしながら、そう言っていた。
「そうだよ、あれはサーカスではない。ぼくらはサーカスを見に来ました。あんなものを見るために、高いお金を払ったのではありません。入場料を返してください」
唐飛がそう言っていた。それを聞いて団長が
「おまえたちの気持ちが分からないでもない。しかし、おまえたちの人格形成に一役買おうと思って、あえてこのような演目をおこなったのだ」
団長がそう答えていた。
「分からないでもありません。しかしお金を取る以上、見る人の多くが楽しめるようなものをおこなうべきではないのですか」
馬小跳が反論していた。
「そうだよ、ぼくたちは頭があまりよくないから、あんなものを見ても楽しいとは感じない。途中で退席していく子どもも何人もいました」
毛超がそう言った。
「お、お金を、か、返してください」
どもりの張達はそう言っていた。
「それはできない。最後まで見た以上、お金を返すわけにはいかない」
団長はそう言って、首を横に振っていた。
「それでは気がおさまりません」
唐飛が口を、への字に曲げながら、そう言っていた。
団長も馬小跳たちも、どちらも一歩も引かずに膠着状態におちいっていって、にらみあっていた。するとそのとき、テレビ局の人が何事だろうと思って近づいてくるのが見えた。それに気がついた団長が
「分かった、分かった。日をあらためて、話そう。明日の午前中にもう一度、ここへ来ることができるか」
と言った。
「できます。今はまだ春節の休暇期間中だから来ることができます」
馬小跳がそう答えていた。
「では明日の朝、十時にここに来なさい。そのときにおまえたちが納得のいくような答を用意しておく」
団長がそう言った。
「分かりました。では明日またここへ来ます」
馬小跳がそう答えていた。それからまもなく馬小跳たちは楽屋裏を出て、観客席のほうにちらっと視線をやった。すると杜真子とお母さんがテレビ局の人から取材を受けているのが見えた。
「お嬢さん、どうでしたか。楽しかったですか」
若い女性のリポーターが杜真子にマイクを向けながら聞いていた。
「……」
杜真子は答に詰まっていた。それを見て杜真子のお母さんが杜真子からマイクをさっと奪い取って
「とても楽しかったです。いままでに見たことがないサーカスだったので、サーカスに対する固定観念が覆されました。こんな美しい演目を見て心が洗われました」
と答えていた。
「そうでしたか。それはよかったです。お嬢様もきっと、同じように感じておられることと思います。そうでしょう?」
リポーターはそう言って、再び杜真子に聞いていた。
「……」
杜真子は何も答えないで複雑な顔をしながら、お母さんの顔をじっと見ていた。
リポーターは再び杜真子のお母さんに
「いままで見たことがないサーカスだったと、おっしゃいましたが、これまでご覧になられたサーカスはどのようなものだったのか、ちょっとお話ししていただけないでしょうか」
と聞いていた。
「分かりました。ではお話しいたします」
杜真子のお母さんはそう言って話し始めた。
「わたしが子どものころに見たサーカスでは空中ブランコや空中綱渡りや動物による曲芸がありました。猿が自転車に乗ったり、子犬が火の輪くぐりをしたりして、見ていて楽しかったです。ピエロも出てきて滑稽な仕草や手品をして楽しませてくれました」
杜真子のお母さんがそう言っていた。
「そうでしたか。今日のショーでは、そういったものはなかったので、物足りなく感じられたのではないでしょうか」
リポーターが聞いていた。
「そんなことはありません。あのころのサーカスは見て楽しませるだけの娯楽性の強いものでしたが、今日見たものは芸術性にあふれていて深い感動を与えるものでした」
杜真子のお母さんがそう答えていた。
「そうでしたか。時代の推移とともにサーカスにも新しい変革が求められるようになってきたのかもしれませんね」
リポーターがそう答えていた。それを聞いて、杜真子のお母さんはうなずいていた。リポーターはそのあと、ほかの親子にもショーの感想を聞いていた。子どものなかには
「あまり楽しくなかった」
と率直な気持ちを述べる子どももいた。それに対して親たちは、判で押したように
「サーカスに対する固定観念が覆されました。こんな美しい演目を見て心が洗われました」
と言っていた。杜真子のお母さんが、さっき話したことと、まったく同じことを言っていたので、ぼくはけげんに思いながら、ほかの親たちの感想を聞いていた。

