天気……ここ数日、どんよりした空模様が続いていたが、今日は久しぶりにいい天気になった。春はまだ始まったばかりだが、これから季節がだんだん暖かくなっていくので、柔らかく降り注ぐ太陽の光を浴びていると、心がだんだん優しくなっていくように感じられる。
ぼくはいつものように朝早く目が覚めると、うちを出て湖畔にそって散策をしていた。すると向こうから老いらくさんがやってくるのが見えた。
「笑い猫、おはよう。今日はいい天気になったな」
老いらくさんが、そう言った。
「そうですね。すがすがしい朝の空気をいっぱい吸うのはとても気持ちがいいです」
ぼくはそう答えた。
「昨夜、わしはずっとサーカスのことについて考えていた。ピエロはいたのに、どうしてステージの上に出てこなかったのだろうと思って、理由をいろいろ考えていた」
老いらくさんがそう言った。
「ぼくも同じです。退屈して途中で出てきた子どもたちに『ごめん、ごめん』と言って謝っていたのも気になります」
ぼくはそう答えた。
「ピエロがステージの上に出てこなかったのは、もしかしたら自分の意思ではなくて、出ることを禁止されていたからではないだろうか」
老いらくさんがそう言った。
「そうかもしれませんね。自分では出演して、観客を楽しませようと思っていたのに、何か理由があって出ることを禁止されていたから、仕方なく出口のところで『ごめん、ごめん』と言って謝っていたのかもしれません」
ぼくは老いらくさんにそう言った。
「わしもそう思う」
老いらくさんがそう答えた。
「事の真相について、ぼくはとても知りたく思っています」
ぼくは老いらくさんにそう言った。すると老いらくさんが
「わしも同じだ」
と答えた。
ぼくと老いらくさんは意気投合したので、今日の午前中に再び、あのサーカス小屋に行って真相を探ることにした。朝食を取るためにいったん別れてから、うちへ帰り、十時ごろ梅園の出入り口で再び老いらくさんと落ち合って、サーカスがおこなわれている会場に行った。するとサーカス小屋のなかから、議論が飛び交っている声が聞こえてきた。ぼくと老いらくさんはサーカス小屋の入口のところから、なかの様子をじっと見ていた。観客席のいすの上に十人ほどの団員が座っていて、意気軒昂としながら、真剣な顔で熱弁をふるっていた。サーカスの在り方について話しているように聞こえた。団長が厳粛な声で
「みんなも分かっているように、昨日の初演は子どもには不評だった。途中で席を立って帰っていく子どももいて、見ていて忍びなかった。このような公演でいいのだろうか」
と問いかけていた。それを聞いて団員の一人が
「団長、気にすることはないと思います。従来のサーカスとは違って芸術性の高いものを見せようとしているのですから、子どもには少々退屈に思えるのは、あらかじめ分かっていましたから」
と答えていた。
「そうですよ、美しいものを見せることによって観客の感性を高めたり、心を啓発することを目的としておこなっているのですから、これでいいと思っています」
別の団員がそう答えていた。
「でもサーカスは従来、観客を楽しませるためにおこなうのだから、観客のニーズやレベルに合わせておこなうべきではないだろうか」
団長がそう言って疑問を呈していた。
「わたしはそうは思いません。これまでのサーカスは観客の受けをねらって、動物に芸をやらせたり、はらはらどきどきさせる芸ばかりやってきましたが、それではただ面白いだけであって、見ても人格の陶冶には何の役にも立ちません。わたしたちがおこなっているサーカスは前衛的なものだから、普通の人たちや、子どもたちには、なかなか受け入れられないかもしれませんが、間違ったことをしているとは思いません」
若い女性の団員がそう答えて反論していた。
「ぼくもそう思います。これからのサーカスの在り方に一石を投じるこのサーカスに魅力を感じて、ぼくは別のサーカス団から、このサーカス団に移ってきました」
若い男性の団員がそう答えて女性の団員に同調していた。
「でもこんな演目ばかりやっていると、そのうちに子どもだけではなくて大人もだんだん離れていって採算が取れなくなるかもしれないぞ」
団長が顔の表情を曇らせながらそう話していた。
「おれもそう思う。理想は理想として、もっと地に足のついた考え方をすべきではないのか。もし観客が集まらなくて興行が続けられなくなったら、高尚な理想も頓挫をきたして追求できなくなるのではないのか」
そう答えて団長を援護する団員もいた。
「興行が行き詰まりそうになったら、そのときはそのときで考えましょうよ。それまでは今のままの興行を続けましょうよ」
女性の団員がそう答えていた。
団長がそのあと採決を取っていた。採決の結果、今のままの興行を続けることに賛成する団員のほうが多かったので、現状維持となった。団員のなかにスイカ―もいたが、スイカ―は自分の意見を述べることなく、ほかの団員の意見に静かに耳を傾けていた。採決のときにはスイカ―は手を挙げなかったので、今の在り方に賛成ではないのだろうなあと、ぼくは思った。
団長がそのあと
「この興行に人をたくさん集めるためにはどうしたらいいだろうか。誰かいい知恵を出してくれないか」
と聞いていた。それを聞いて団員たちが考えを巡らしていた。
「テレビや新聞に取り上げてもらったらどうだろうか」
という団員がいた。
「それはいい考えですね。テレビや新聞による宣伝効果は抜群に高いから、取り上げてもらったら、お客さんがたくさん見にくるはずです」
女性の団員がそう答えていた。
「宣伝用のパンフレットも立派なものを用意しましょう。有名人に推薦文を書いてもらって、このサーカスが、どれほど美しくて感動的なものなのか多くの人に知らせましょう」
女性の団員がそう言っていた。
「スイカ―の力を借りなくても、もっと多くの人を呼び込むことができるようになったら、スイカ―はお役御免だね」
男性の団員がそう言っていた。
「スイカ―は目立ちすぎるし、滑稽な仕草をして笑いをとる道化師だから、子どもたちに人気があるが、美しさのかけらもない。だから、客寄せに使うだけで、ステージにあげなかったのだ。もうこれからはスイカ―の出番は、ますますなくなる」
団長がそう言っていた。ぼくはそれを聞いて、スイカ―が昨日、サーカスのステージの上に姿を現さなかった理由をようやく理解することができた。客寄せに使われることもなくなったら、スイカ―はこれからどうなるのだろう。もしかしたら、もうこのサーカス団から追い出されるかもしれない。ぼくはスイカ―のことが心配でたまらなくなった。
団長が言ったことを、ぼくは老いらくさんに伝えた。すると老いらくさんが
「なるほどそういうわけだったのか。スイカ―が窮地に立たされているとは思ってもいなかった」
と言った。
ぼくと老いらくさんは、お昼近くまで、サーカス小屋の近くにいて、小屋のなかでおこなわれている練習の様子を見学して、そのあと昼ご飯を食べるために、うちへ帰っていった。するとそれからまもなくしてから、馬小跳が親友の唐飛たちといっしょに、ぼくのうちへ食料を持ってやってきた。馬小跳は背中に大きなリュックを背負っていたし、唐飛と毛超と張達は手に、大きな袋を提げていた。馬小跳たちの思いやりに、ぼくも妻猫も子どもたちも、いつも深く感謝している。馬小跳たちは、ぼくたちに食料を届けると、すぐにはうちには帰らないで、梅園のほうに向かっていた。それを見て、ぼくはあとからついていった。ぼくの子どもたちもついてきた。馬小跳たちは梅園の近くにあるサーカス小屋の前までやってきて、看板のなかに貼ってある女優の写真をしげしげと眺めていた。
「これのどこがサーカスなのだ。京劇ではないか」
唐飛がけげんそうな顔をしながら、そう言っていた。
「そうだよな。サーカスの看板には、そのサーカスの顔であるピエロやトラやライオンや、綱渡りをしている人の写真が貼ってあるものとばかり思っていた」
毛超がそう言っていた。
「そうだよな。ぼくもそう思っていた。ここで本当にサーカスをおこなっているのだろうか?」
馬小跳はそう言っていた。
「こ、こ、これは、ま、まやかしかも、し、しれない」
どもりの張達は、声をつまらせながら、そう言っていた。
ぼくはいつものように朝早く目が覚めると、うちを出て湖畔にそって散策をしていた。すると向こうから老いらくさんがやってくるのが見えた。
「笑い猫、おはよう。今日はいい天気になったな」
老いらくさんが、そう言った。
「そうですね。すがすがしい朝の空気をいっぱい吸うのはとても気持ちがいいです」
ぼくはそう答えた。
「昨夜、わしはずっとサーカスのことについて考えていた。ピエロはいたのに、どうしてステージの上に出てこなかったのだろうと思って、理由をいろいろ考えていた」
老いらくさんがそう言った。
「ぼくも同じです。退屈して途中で出てきた子どもたちに『ごめん、ごめん』と言って謝っていたのも気になります」
ぼくはそう答えた。
「ピエロがステージの上に出てこなかったのは、もしかしたら自分の意思ではなくて、出ることを禁止されていたからではないだろうか」
老いらくさんがそう言った。
「そうかもしれませんね。自分では出演して、観客を楽しませようと思っていたのに、何か理由があって出ることを禁止されていたから、仕方なく出口のところで『ごめん、ごめん』と言って謝っていたのかもしれません」
ぼくは老いらくさんにそう言った。
「わしもそう思う」
老いらくさんがそう答えた。
「事の真相について、ぼくはとても知りたく思っています」
ぼくは老いらくさんにそう言った。すると老いらくさんが
「わしも同じだ」
と答えた。
ぼくと老いらくさんは意気投合したので、今日の午前中に再び、あのサーカス小屋に行って真相を探ることにした。朝食を取るためにいったん別れてから、うちへ帰り、十時ごろ梅園の出入り口で再び老いらくさんと落ち合って、サーカスがおこなわれている会場に行った。するとサーカス小屋のなかから、議論が飛び交っている声が聞こえてきた。ぼくと老いらくさんはサーカス小屋の入口のところから、なかの様子をじっと見ていた。観客席のいすの上に十人ほどの団員が座っていて、意気軒昂としながら、真剣な顔で熱弁をふるっていた。サーカスの在り方について話しているように聞こえた。団長が厳粛な声で
「みんなも分かっているように、昨日の初演は子どもには不評だった。途中で席を立って帰っていく子どももいて、見ていて忍びなかった。このような公演でいいのだろうか」
と問いかけていた。それを聞いて団員の一人が
「団長、気にすることはないと思います。従来のサーカスとは違って芸術性の高いものを見せようとしているのですから、子どもには少々退屈に思えるのは、あらかじめ分かっていましたから」
と答えていた。
「そうですよ、美しいものを見せることによって観客の感性を高めたり、心を啓発することを目的としておこなっているのですから、これでいいと思っています」
別の団員がそう答えていた。
「でもサーカスは従来、観客を楽しませるためにおこなうのだから、観客のニーズやレベルに合わせておこなうべきではないだろうか」
団長がそう言って疑問を呈していた。
「わたしはそうは思いません。これまでのサーカスは観客の受けをねらって、動物に芸をやらせたり、はらはらどきどきさせる芸ばかりやってきましたが、それではただ面白いだけであって、見ても人格の陶冶には何の役にも立ちません。わたしたちがおこなっているサーカスは前衛的なものだから、普通の人たちや、子どもたちには、なかなか受け入れられないかもしれませんが、間違ったことをしているとは思いません」
若い女性の団員がそう答えて反論していた。
「ぼくもそう思います。これからのサーカスの在り方に一石を投じるこのサーカスに魅力を感じて、ぼくは別のサーカス団から、このサーカス団に移ってきました」
若い男性の団員がそう答えて女性の団員に同調していた。
「でもこんな演目ばかりやっていると、そのうちに子どもだけではなくて大人もだんだん離れていって採算が取れなくなるかもしれないぞ」
団長が顔の表情を曇らせながらそう話していた。
「おれもそう思う。理想は理想として、もっと地に足のついた考え方をすべきではないのか。もし観客が集まらなくて興行が続けられなくなったら、高尚な理想も頓挫をきたして追求できなくなるのではないのか」
そう答えて団長を援護する団員もいた。
「興行が行き詰まりそうになったら、そのときはそのときで考えましょうよ。それまでは今のままの興行を続けましょうよ」
女性の団員がそう答えていた。
団長がそのあと採決を取っていた。採決の結果、今のままの興行を続けることに賛成する団員のほうが多かったので、現状維持となった。団員のなかにスイカ―もいたが、スイカ―は自分の意見を述べることなく、ほかの団員の意見に静かに耳を傾けていた。採決のときにはスイカ―は手を挙げなかったので、今の在り方に賛成ではないのだろうなあと、ぼくは思った。
団長がそのあと
「この興行に人をたくさん集めるためにはどうしたらいいだろうか。誰かいい知恵を出してくれないか」
と聞いていた。それを聞いて団員たちが考えを巡らしていた。
「テレビや新聞に取り上げてもらったらどうだろうか」
という団員がいた。
「それはいい考えですね。テレビや新聞による宣伝効果は抜群に高いから、取り上げてもらったら、お客さんがたくさん見にくるはずです」
女性の団員がそう答えていた。
「宣伝用のパンフレットも立派なものを用意しましょう。有名人に推薦文を書いてもらって、このサーカスが、どれほど美しくて感動的なものなのか多くの人に知らせましょう」
女性の団員がそう言っていた。
「スイカ―の力を借りなくても、もっと多くの人を呼び込むことができるようになったら、スイカ―はお役御免だね」
男性の団員がそう言っていた。
「スイカ―は目立ちすぎるし、滑稽な仕草をして笑いをとる道化師だから、子どもたちに人気があるが、美しさのかけらもない。だから、客寄せに使うだけで、ステージにあげなかったのだ。もうこれからはスイカ―の出番は、ますますなくなる」
団長がそう言っていた。ぼくはそれを聞いて、スイカ―が昨日、サーカスのステージの上に姿を現さなかった理由をようやく理解することができた。客寄せに使われることもなくなったら、スイカ―はこれからどうなるのだろう。もしかしたら、もうこのサーカス団から追い出されるかもしれない。ぼくはスイカ―のことが心配でたまらなくなった。
団長が言ったことを、ぼくは老いらくさんに伝えた。すると老いらくさんが
「なるほどそういうわけだったのか。スイカ―が窮地に立たされているとは思ってもいなかった」
と言った。
ぼくと老いらくさんは、お昼近くまで、サーカス小屋の近くにいて、小屋のなかでおこなわれている練習の様子を見学して、そのあと昼ご飯を食べるために、うちへ帰っていった。するとそれからまもなくしてから、馬小跳が親友の唐飛たちといっしょに、ぼくのうちへ食料を持ってやってきた。馬小跳は背中に大きなリュックを背負っていたし、唐飛と毛超と張達は手に、大きな袋を提げていた。馬小跳たちの思いやりに、ぼくも妻猫も子どもたちも、いつも深く感謝している。馬小跳たちは、ぼくたちに食料を届けると、すぐにはうちには帰らないで、梅園のほうに向かっていた。それを見て、ぼくはあとからついていった。ぼくの子どもたちもついてきた。馬小跳たちは梅園の近くにあるサーカス小屋の前までやってきて、看板のなかに貼ってある女優の写真をしげしげと眺めていた。
「これのどこがサーカスなのだ。京劇ではないか」
唐飛がけげんそうな顔をしながら、そう言っていた。
「そうだよな。サーカスの看板には、そのサーカスの顔であるピエロやトラやライオンや、綱渡りをしている人の写真が貼ってあるものとばかり思っていた」
毛超がそう言っていた。
「そうだよな。ぼくもそう思っていた。ここで本当にサーカスをおこなっているのだろうか?」
馬小跳はそう言っていた。
「こ、こ、これは、ま、まやかしかも、し、しれない」
どもりの張達は、声をつまらせながら、そう言っていた。

