子どもたちのパラダイス

天気……そよそよと春風が吹いて、細かい雨も降っている。紫色のモクレンの花が盛りを迎えていた。公園に散策にやってくる人たちの装いも日ごとに春らしくなってきて、明るい色が目立つようになってきた。

ぼくの子どもたちがおこなったパフォーマンスは、たくさんの子どもたちに喜んでもらえたし、そのあと、ぼくの子どもたちは初めて杜真子のうちに行って、おいしいものを食べさせてもらったので、うれしくてたまらないでいた。とても満たされたような顔をしながら、夜になると早々と床に就いていた。楽しい夢を見ているのか、パントーもアーヤーもサンパオも寝顔がとても美しかった。
一夜明けて、けさ早く目を覚ました子どもたちは、みんな、すがすがしい顔をしていた。サーカスの興行は終わったし、今日は練習も休みなので、子どもたちはリラックスしながら外に出て、朝の新鮮な空気をいっぱいに吸っていた。
いつものように家族そろって朝ご飯を食べたあと、ぼくは湖畔にそって散策していた。すると向こうから老いらくさんがやってくるのが見えた。
「おはようございます」
ぼくは老いらくさんにあいさつした。
「おはよう、笑い猫。昨日のサーカスはどうだったか?」
老いらくさんが聞いた。
「おかげさまで大好評でした。ぼくの子どもたちは、みんな失敗することなく、それぞれ身につけた技を披露していました。ぼくもステージの上にあがって笑いを披露しました」
ぼくは老いらくさんにそう答えた。するとそれを聞いて
「わしも見にくればよかったな」
と答えていた。
「どうして来なかったのですか」
ぼくは老いらくさんに聞き返した。
「今回は、わしの出番はなかったからだよ」
老いらくさんがそう答えていた。
「出番はなくても見ているだけで楽しくなるではないですか」
ぼくは老いらくさんにそう言った。
「そうだな。今度またあるときは見にいくことにするよ」
老いらくさんがそう答えた。老いらくさんがそのあと
「前回は、おまえの子どもたちの相棒としてステージの上で跳んだりはねたりして、とても疲れていたが、万年亀のおかげで元気を取り戻すことができた」
と言った。
「そうでしたね。温泉療法に連れていってもらって、元気になって戻ってこられたので、ぼくは、ほっとしました」
ぼくは老いらくさんに、そう言った。すると老いらくさんが
「万年亀は、わしをこの公園に連れて戻ってきたあと、『子どもたちのパラダイスを作るためには、どのようにしたらよいか考えてくる』と、おっしゃったのを覚えているか?」
と聞いた。
「覚えています」
ぼくはそう答えた。
「これからも土曜日ごとに、楠林や、その近くの広場で、子どもたちが楽しめるようなイベントがおこなわれていったら、万年亀が計画しているパラダイス作りの一環にならないだろうか」
老いらくさんがそう言った。ぼくはそれを聞いて
「そうかもしれませんね。土曜日だけでなくて日曜日にも子どもたちが楽しんで楠林のなかにやってくることができるような環境作りができたら、万年亀が計画しているパラダイス作りが、もっと進むのではないかと思っています」
ぼくは老いらくさんにそう答えた。すると老いらくさんが
「わしもそう思う。子どものなかには土曜日は塾やお稽古事があったり、宿題が忙しくて公園に来ることができない子どもがいるかもしれないので、日曜日にも何か面白い体験ができたらいいと思っている。そうすれば万年亀が作ることを目指しているパラダイスを、もっと多くの子どもたちに知ってもらうことができるし、もっと多くの子どもたちを楽しませることができる」
と言った。
「ぼくもそう思います」
ぼくはそう答えた。
老いらくさんは、それからまもなく、うちへ帰っていった。ぼくはもうしばらく湖畔の周りを散策してから、うちへ帰ることにした。すると向こうから地包天がやってくるのが見えた。地包天は、ぼくの友だちのチン犬で、ぼくよりも年下の若いメス犬だ。
「地包天、久しぶりだな。元気にしていたか?」
ぼくは地包天に声をかけた。
「ありがとう。元気だったわ。お兄さんも元気だった?」
地包天がぼくにそう言った。地包天は、ぼくのことをいつも、お兄さんと呼んでくれる。
「ありがとう。ぼくも元気だったよ」
ぼくは地包天に、そう答えた。ぼくはそのあと地包天に
「ここでサーカスがあっているのを知っているか?」
と聞いた。すると地包天が
「サーカスって何?」
と、聞き返してきた。
「曲芸や動物芸や奇術などを演じて楽しませる興行のことだ」
ぼくは地包天に、そう説明した。すると地包天が興味深そうな顔をしていた。
「ぼくや、ぼくの子どもたちもステージの上で芸を披露したよ」
ぼくはそう言ってから、どんな芸を演じたのか地包天に話して聞かせた。それを聞いて地包天が顔の色を輝かせながら
「わたしもいつか芸を習得して子どもたちに見てもらいたいわ」
と言った。ぼくはそのあと地包天に
「シャオパイもフェイナといっしょにダンスを踊って、子どもたちの目を楽しませていた
よ。ワルツもポルカも、とても上手に踊っていた。おまえたち犬は、踊るのが本当に上手だねえ。子どもたちは、みんな、うっとりしたような顔をしながら見ていた」
と言った。すると地包天の顔色が急に変わって,嫉妬したような顔をしていた。
「シャオパイもフェイナもプードル犬だから、踊っている姿が、おしゃれで、きれいに見えたのよ。わたしはチン犬だから上手に踊っても、あまり見栄えがしないと思うわ」
と言った。それを聞いてぼくは地包天に
「おまえは、もしかしたら、フェイナに、やきもちを焼いているのではないのか?」
と聞いた。それを聞いて地包天が仏頂面をしながら
「何を言っているのよ。やきもちなんか焼いていないわよ。事実を言っているだけ」
と言った。
「でも、おまえの顔には、ねたむ気持ちがあふれている」
ぼくは軽い冗談のつもりで、地包天にそう言った。すると地包天が真に受けて
「お兄さん、深読みのしすぎだよ」
と言って、むきになって膨れていた。地包天はそれからまもなく、ぼくと別れて、うちへ帰っていった。
ぼくもそのあと、うちへ帰り、妻猫や子どもたちといっしょに昼ご飯を食べてから、午後の散歩に出かけていった。すると向こうから老いらくさんがやってくるのが見えた。ぼくの姿に気がついて、老いらくさんが、ぼくのほうに駆け寄ってきた。
「笑い猫、さっき、馬小跳たちが楠林のほうへ向かっていくのが見えた。今日はサーカスの興行はない日だろう?」
老いらくさんは、けげんそうな顔をしながら、ぼくに聞いた。
「そうですよ。今日は休みの日のはずですよ」
ぼくは老いらくさんに、そう答えた。
ぼくも老いらくさんも合点がいかなかったから、そのあとすぐに楠林のほうへ向かっていった。すると楠林のなかから馬小跳たちの声が聞こえてきた。ぼくと老いらくさんは楠林の入口の近くにある木の陰に隠れながら、馬小跳たちが何をしているのかを見ていた。全部で七人の子どもたちがいた。馬小跳のほかに、唐飛と毛超と張達という男の子と、杜真子と夏林果と安琪儿という女の子がいた。子どもたちは楠林のなかで、みんなそれぞれ
違ったことをしていた。
馬小跳は『葉っぱ飛行機』を作って飛ばしていた。『葉っぱ飛行機』というのは、葉っぱを飛行機の形に作って飛ばすもので、上手に作ったら五メートルぐらい先まで飛ばすことができる飛行機のことだ。馬小跳は手先が器用なので、飛行機を作るのが上手だし、風の向きを読んで追い風に乗せて飛ばしていたので、それ以上の距離を出していた。唐飛は木の上に登って、ベートーヴェンの『歓喜の歌』を中国語で歌っていた。唐飛は太っているので、声が低くてバスの音域なので、重厚な旋律が楠林のなかを遠くまで響きわたっていた。張達は楠林のなかにいた野ウサギを見つけて、あとを追いかけていた。張達は走るのがとても速いが、野ウサギは張達以上に速く走ることができるので、張達はすぐに野ウサギの姿を見失って追いかけるのをあきらめていた。毛超は『葉っぱ鉄砲』を作っていた。『葉っぱ鉄砲』というのは、手の上に乗せた葉っぱを、もう片方の手で強くたたいて音を出すもので、バーンという音が出て、葉っぱの真ん中に穴があいて、弾が貫通したように見えるので『葉っぱ鉄砲』と呼ばれていた。新緑の季節に見られる柔らかい若葉でないと、いい音は出ないと言われている。毛超が作った『葉っぱ鉄砲』の音はとても大きくて、葉っぱの真ん中に大きな穴が開いていた。
杜真子はスマートフォンを頭上にかざして野鳥のさえずりを動画撮影していた。野鳥は木のなかに隠れていたので、野鳥の姿を撮影することはできなかったようだが、さえずりはしっかり集音できていたので満足そうな顔をしていた。安琪儿はリスを見かけて、デジタルカメラで撮影していた。ぼくはリスを初めて見たが、長いしっぽがふさふさしていて、とてもかわいいと思った。夏林果は楠の葉っぱを丸めて草笛を作っていた。吹き口に吹き込む息が強いと音程が高くなり、弱いと音程が低くなるので、息に強弱をつけながら「カッコー、カッコー」と吹いていた。
子どもたちはみんな、瞳をきらきらと輝かせながら、深い喜びと幸福感に満たされているように見えた。その姿を見ながら、老いらくさんが
「万年亀が作ろうとしている子どもたちのパラダイスを今、目の前で見ているような気がする。そうは思わないか」
と聞いた。ぼくはそれを聞いて、うなずいた。
「ぼくもそう思います。ここがこれからも、ずっと、子どもたちにとって楽しいパラダイスであり続けることを、ぼくは心から願っています」
ぼくがそう言うと、老いらくさんが
「わしもそうあることを願っている」
と答えた。ぼくと老いらくさんは、それからまもなく楠林を離れて、うちへ帰っていった。うちへ帰ったら、ぼくの子どもたちにも今日、楠林のなかで見たことを話して聞かせようと思った。
(ぼくの子どもたちも、きっと興味を示して、あとで楠林のなかにやってきて『葉っぱ鉄砲』や『葉っぱ飛行機』を作ったり、草笛を吹いて楽しむにちがいない)
と、ぼくは思った。