子どもたちのパラダイス

天気……暖かい春風が大地をそっとなでるように優しく通り過ぎていった。うららかな青天が空高く広がり、翠湖公園のなかには、うっすらと、かすみがかかっていた。

ぼくが思っていたとおりに、サーカスは大盛況だった。どの演目も子どもたちの目を引いていて、きゃあきゃあと歓声があがったり、うっとりと酔わせていた。すべての演目が終わったあと、杜真子が馬小跳たちといっしょに楽屋裏にやってきた。妻猫もやってきた。
「今日のサーカスはとても楽しかったです。ありがとうございます」
杜真子がスイカ―にお礼を言っていた。杜真子はそのあと、ぼくをいとおしそうに抱きあげてから
「おまえの笑顔で、子どもたちの心をしあわせにすることができたよ。笑い猫、ありがとう」
と言ってくれた。ぼくはそれを聞いて、にっこりと笑みを浮かべた。スイカ―がそれを見て、杜真子に
「君たちは、どうしてこの猫のことを知っているのか?」
と聞いていた。
「以前、わたしのうちで飼っていた猫だからです」
杜真子がそう答えていた。馬小跳が
「ぼくのうちでも、しばらく飼っていたことがあります」
と言っていた。
「この猫たちは今はこの公園のなかで暮らしているので、ぼくたちは時々、食べ物や飲み物を持っていっています」
唐飛がそう答えていた。スイカ―が
「この猫はいつから笑えるようになったのか」
と聞いていた。
「わたしのうちに来たばかりのときは、まだ生まれたばかりだったから、笑うことはできませんでした。わたしの笑い顔を見て、笑い方をだんだん覚えていきました」
杜真子がそう答えていた。それを聞いてスイカ―が
「微笑みは、この世のなかで一番美しいコミュニケーションだと、わしは思っている。言葉が通じなくても、微笑みは『あなたが好きです』という意思を伝えることができるからだ」
と言った。それを聞いて毛超が
「この猫は笑えるだけでなくて、人の言葉を理解したり、他の動物の言葉を話すこともできます」
と言っていた。それを聞いて、スイカ―が感心したような顔をしながら、ぼくのほうを見ていた。杜真子がそのあと馬小跳たちに
「笑い猫や、笑い猫の子どもたちが、私たちを楽しませてくれたから、お礼に、これからうちへ連れていって、何かおいしいものでも食べさせませんか」
と提案していた。それを聞いて馬小跳が
「誰のうちへ連れていくのだ?」
と聞いていた。
「わたしが提案したのだから、わたしのうちに連れていくわ」
杜真子がそう答えていた。それを聞いて馬小跳が、険しい顔をしながら
「おばさんは笑い猫のことを嫌っているではないか。笑い猫を、おまえのうちから追い出したのは、おばさんだったではないか」
と言っていた。杜真子のお母さんと馬小跳のお母さんは、きょうだいだから、馬小跳は杜真子のお母さんのことを、おばさんと呼んでいた。
「お母さんに見つからないように、わたしの部屋のなかに、こっそりと連れていくわ」
と杜真子が答えていた。すると馬小跳が
「気づかれたらどうするのだ?」
と聞いていた。
「そのときは、そのときで考えるわ」
杜真子がそう答えていた。
「気づかれたときは猫たちを大きな袋にいっしょに入れて馬小跳のうちへ連れていけよ。馬小跳のお母さんは杜真子のお母さんとは違って笑い猫を嫌っていないではないか」
と、唐飛が提案していた。
「分かったわ。そうするわ」
杜真子がそう答えていた。
ぼくたちは、それからまもなく子どもたちに抱かれて、杜真子のうちへ向かっていった。馬小跳は、ぼくを抱いてくれた。杜真子は、妻猫を抱いてくれた。唐飛は、パントーを抱いてくれた。毛超はアーヤーを抱いてくれた。張達はサンパオを抱いてくれた。子どもたちの温かい胸に抱かれながら、ぼくたちはしあわせな気持ちに浸っていた。途中にあるスーパーの前を通りかかったときに、唐飛が
「魚皮餃を買ってくる」
と言って、抱いているパントーを張達に預けてから、店のなかに入っていった。魚皮餃と言うのは、皮が魚のすり身と浮き粉で作られていて透き通ったようなギョーザのことで、ぼくたちが大好きな食べ物の一つだった。ぼくたちに食べさせようと思って気遣ってくれた唐飛の気持ちが、ぼくはとてもうれしく思った。店の前でしばらく待っていると、唐飛が袋をさげて店のなかから出てくるのが見えた。袋のなかから、おいしそうなにおいがぷんぷんしていたので、子どもたちは、はやく食べたくて、おなかをぐうぐういわせていた。
それからもまなく、ぼくたちは杜真子のうちの前に着いた。玄関の前で、馬小跳たちは、ぼくたちを下におろすとすぐに帰っていった。杜真子が玄関のドアを開けて、家のなかをそっとのぞくと、台所のほうから、料理のおいしそうなにおいが漂ってきた。杜真子のお母さんが夕ご飯の準備をしている姿が見えた。そのすきに杜真子は、お母さんに気づかれないように、ぼくと妻猫と子どもたちや、途中で買ってきたギョーザを、自分の部屋のなかに、そっと入れていた。そのあと杜真子は部屋のドアを閉めてから、台所に行って
「お母さん、ただいま」
と言って、帰ってきたことを告げていた。
「どこへ行っていたの」
杜真子のお母さんが聞いていた。
「翠湖公園にサーカスを見に行っていた」
杜真子がそう答えていた。それを聞いて、杜真子のお母さんが、けげんそうな顔をしながら
「サーカス?」
と聞き返していた。杜真子がうなずいていた。
「おまえはサーカスに興味がなかったのではないの?」
お母さんがそう言った。すると杜真子が
「そんなことはないわ」
と答えていた。
「でも、この前、母さんが見に連れていったとき、あまり面白そうな顔をしていなかったではないの」
と、杜真子のお母さんが言っていた。すると杜真子が
「あれはサーカスのうちには入らないわ。かたくて大人向けのプログラムばかりだったから、見ていて少しも、わくわくしなかったから」
と答えていた。
「でもテレビや新聞では、芸術性が高くて優れたサーカスだと言っていたではないの」
と言って、杜真子のお母さんが反論していた。
「いくら質が高くても、子どものレベルに合っていないものを見せられては退屈するだけだわ」
杜真子が不満そうに、そう答えていた。
「では今日はどんなものを見てきたの?」
杜真子のお母さんが聞いていた。
「いろいろな動物が出てきて、いろいろな芸を見せてくれた。うちで以前、飼っていた猫も出てきたので、びっくりしたわ」
杜真子がそう答えていた。それを聞いて杜真子のお母さんが
「あの、笑うことができる化け猫のことを言っているの?」
と聞いていた。それを聞いて杜真子が不愉快そうな顔をしながら
「化け猫ではないわ。スーパーキャットよ」
と言っていた。普通の猫とは違ったすごい猫という意味で、杜真子は、ぼくのことをよくそう呼んでいた。
「笑い猫は子どもたちに、いろいろな笑いをうかべてみせて、楽しい気持ちにしてくれたわ」
杜真子がそう答えていた。それを聞いて杜真市のお母さんが、口をへの字に曲げながら
「あの猫は、うちにいたころ、泥足であちこち歩き回ったり、家具に、ひっかき傷をつけたり、抜け毛をあちこちに散らして悪いことばかりしていた」
と不機嫌そうに言っていた。それを聞いて、ぼくは、杜真子のお母さんは今でも、ぼくのことをよく思っていないことが分かった。確かに、あのころは、ぼくはまだ子どもだったから分別がつかないで悪いことばかりしていた。今は、そんな悪いことはしない猫になっていたが、悪い猫だと決めつけているお母さんの先入観を変えることは永遠にできないだろうなあと、ぼくは思った。
杜真子はお母さんといっしょに夕ご飯を食べると、自分の部屋に戻ってきた。
「おなかが、すいているでしょう。さあ、食べなさい」
杜真子がそう言って、唐飛が買ってくれたギョーザの袋を開けて、ぼくたちに食べさせてくれた。妻猫と、ぼくの子どもたちは、杜真子のうちに来るのは、これが初めてだったので、食べながら、部屋のあちこちを珍しそうに見ていた。机の上に写真立てがあって、ぼくの写真が飾られているのに気がついた妻猫が
「あれっ、この写真は、お父さんですよね」
と言った。
「そうだよ。杜真子は、ぼくのことを今でも懐かしく思っていてくれているのだね。とてもうれしい」
ぼくは妻猫にそう答えた。部屋のなかがとてもきれいだったから、妻猫も子どもたちも、杜真子の部屋がとても気に入ったようだった。でも杜真子のお母さんが、ぼくのことを今でも好きでないから、この部屋にいるところを見つかったら、よくないことを妻猫に話した。すると、妻猫が
「そうだったの。杜真子は、わたしたちにとてもよくしてくれるのに、親子でもずいぶん違うのね」
と言って、複雑な顔をしていた。
それからまもなく、ぼくたちは杜真子のうちを出て、翠湖公園に帰っていくことにした。杜真子のお母さんがリビングでテレビを見ているときに、杜真子が玄関のドアをそっと開けて、ぼくたちを外に出してくれた。