天気……今日は春節。この国で一番大きな祝祭日だ。春節とは言うものの、春はまだ浅いので、吹く風にまだ冷たさを感じる。しかし骨身にしみるような、ぴりぴりした寒さはもう感じられないので、春の足音が遠くからかすかに聞こえてきたように思える。
この国で一番大きな祝祭日である春節は新しい年が始まるときであり、大人も子どもも家族といっしょに新年を祝い、健康で新しい年を迎えられたことを喜び、今年一年の幸せを願う習慣となって、この国のなかですっかり定着している。お年寄りがいる家庭では、お年寄りを囲んで、一家団欒の楽しいひとときを過ごし、お年寄りがいない家庭では両親が子どもたちにきれいな服を着せたり、おせち料理を作って子どもたちを喜ばせてくれる。子どもたちは、おじいちゃんやおばあちゃんや、おじさんやおばさん、それに両親からお年玉をもらう。お年玉は赤い祝儀袋に入っているので『紅包』と呼ばれている。『紅包』をもらうことは、春節のときに子どもたちが一番楽しみにしていることの一つだ。
ぼくは以前、杜真子や馬小跳のうちに住んでいたから、春節のころの思い出を今でもよく覚えている。杜真子のお母さんと馬小跳のお母さんはきょうだいだから、春節のときは、必ず、どちらかの家が相手の家にあいさつに行っていた。杜真子は、馬小跳のお母さんから『紅包』をもらい、馬小跳は杜真子のお母さんから『紅包』をもらっていた。おじいさんとおばあさんもまだ元気だから『紅包』をくれるし、お父さんとお母さんも『紅包』をくれるので、杜真子も馬小跳も、春節のときはお金が豊かになって、毎年、ほくほくしていた。杜真子と馬小跳は、いつもはちょっとしたことでよく言い争いをするが、春節のときはどちらも気持ちが高揚しているので、いさかいをしているところを見たことがない。杜真子も馬小跳も顔を輝かせながら、ぼくにも「新年好!(あけましておめでとう!)」と言って特別なプレゼントをくれたので、春節はぼくにとっても、うれしくて忘れられない思い出の一つだった。
ぼくが妻猫と結婚して所帯を持って、翠湖公園のなかで暮らすようになってからも、杜真子や馬小跳は春節のときには、かならず、特別なおせち料理を持って訪ねてきてくれた。ぼくは妻猫や子どもたちといっしょに、おいしい料理をいただきながら一年の健康としあわせを願っていた。ぼくの親友である老いらくさんも、春節のときはよく、うちの前までやってきて
「これはわしから、おまえの子どもたちに贈るプレゼントだ」
と言って、赤い袋に入れたおもちゃを渡してくれた。老いらくさんの心遣いが身にしみてうれしかった。みんなの温かい思いやりを心に感じながら、ぼくはこれまでずっと、妻猫や子どもたちといっしょに楽しい春節の日々を過ごしてきた。
そんなことを思いながら、いつものように、けさ早く散歩に出かけると、向こうから老いらくさんがやってくるのが見えた。
「明けましておめでとうございます」
ぼくはにこやかな笑顔を浮かべながら老いらくさんに新年のあいさつをした。
「笑い猫、おめでとう。今年もよろしく」
老いらくさんがそう答えた。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
ぼくは老いらくさんにそう言った。
「笑い猫、この公園のなかで今、サーカス小屋の設営が始まったのを知っているか」
老いらくさんが聞いた。
「サーカス小屋?」
聞きなれない言葉だったので、ぼくは老いらくさんに聞き返した。
「サーカス小屋というのは動物にいろいろな芸をさせたり、人が軽業を演じて、観客を楽しませるための小屋のことだ」
老いらくさんがそう説明した。
「そうですか。面白そうですね」
ぼくは目を輝かせながらそう答えた。
「公園のなかのどのあたりでおこなわれるのですか」
ぼくは興味しんしんとしながら、老いらくさんに聞いた。
「梅園の近くにある広場で今、小屋の設営が始まっている」
老いらくさんがそう答えた。
「そうですか。設営中のところを見てみたいです」
ぼくは老いらくさんにそう言った。
「そうか、だったら、わしがこれから案内するから、いっしょに見にいかないか」
老いらくさんがぼくを誘った。
「いいですよ、いきましょう」
ぼくはそう答えた。それからまもなく、ぼくは老いらくさんのあとからついて、梅園のほうに向かっていった。梅園の近くまでくると、老いらくさんが
「あそこだ。あそこで今、サーカス小屋が作られている」
と言った。老いらくさんが指さしたほうを見ると、大きなトラックが一台停まっていて、荷台の上と下に人がいて、小屋を組み立てるための資材が次々と荷台から降ろされているのが目に入った。広場のなかには大きな天幕が張られていて、倒れないように、しっかりと杭で固定する作業がおこなわれていた。
作業がおこなわれているところを、ぼくと老いらくさんは、少し離れたところから興味深そうに見ていた。
「老いらくさんはサーカスを見たことがあるのですか」
ぼくは老いらくさんに聞いた。
「最近はあまり見ていないが、若いころはよく見ていた。いろいろな演目があって、面白くて、わくわくしながら見たり、はらはらどきどきしながら見ていた」
老いらくさんがそう言った。
「どんな演目があったのですか」
ぼくは老いらくさんに聞いた。
「空中ブランコや綱渡りや、動物による火の輪くぐりや自転車乗りなどがあった。ピエロによるズッコケや手品なども面白かった」
老いらくさんがそう答えた。老いらくさんの話を聞きながら想像を膨らませていると、サーカスをこれまで見たことがないぼくにも楽しい気分が伝わってきた。
サーカス小屋の設営をおこなっていたのは屈強な身体をした若者たちだった。筋骨隆々とした若者たちが数人で資材を抱えて運んだり組み立てたりしていた。その若者たちに指示を出していたのは、意外にも初老の男の人だった。髪の色はロマンスグレーで、声はいぶし銀を思わせるような深みのある声だった。けっして若くはなかったが、顔の色はつやつやしていて肌にはりがあって、とても若々しく見える人だった。
「あの人は何歳ぐらいに見えますか」
ぼくは老いらくさんに聞いた。
「さあ、何歳ぐらいだろうか。わしにもよく分からん」
老いらくさんがそう答えた。
「それほど若くはないと思いますが、もしかしたら心が子どものように純真な人かもしれませんね」
ぼくは老いらくさんにそう言った。
「そうだな。わしもそう思う。あのような人を『鶴髪童顔』というのだよ」
老いらくさんがそう言った。聞きなれない言葉だったから、ぼくは
「『鶴髪童顔』?」
と言って老いらくさんに聞き返した。すると老いらくさんがうなずいた。
「年を取って髪の毛は鶴のように白くなっても、顔は、かくしゃくとしているように見える人のことを、そういうのだ」
老いらくさんがそう説明してくれた。
「そうですか。ぼくは今、初めて、その言葉を知りました。あの人がどんな人なのかよく分かりませんが、若者から一目置かれているように見えるのは『鶴髪童顔』のためかもしれませんね」
ぼくはそう答えた。
「そうだな。わしもそう思う。いずれにせよ、これからまもなく、この翠湖公園でサーカスの興行が始まるので楽しみだな」
老いらくさんがそう言った。
「サーカスは誰が見ても楽しいでしょうが、特に子どもたちが見たら、楽しくてたまらないでしょうね」
ぼくはそう言った。すると老いらくさんが
「サーカスは子どもたちのパラダイスだよ」
と言った。
それを聞いて、ぼくはサーカスの興行が近々あることを、ぼくの子どもたちにもはやく話してやりたいという気持ちに駆られていた。パントーもアーヤーもサンパオも、この冬の間、うちからあまり出ないで、うちのなかで、じっとしていることが多かったから、楽しいサーカスがまもなく、この公園のなかでおこなわれることを知ったら、心が浮き浮きして思わず歓声をあげるかもしれない。子どもたちの喜ぶ顔を思い浮かべると、ぼくも楽しくなってきた。心躍るような情報をもたらしてくれた老いらくさんに感謝の言葉を述べてから、ぼくは老いらくさんと別れて、うちへ帰っていった。
うちへ着くと、パントーもアーヤーもサンパオもまだ寝ていた。
「おい、早く起きろ。もうすぐお昼だぞ」
ぼくはそう言って、ベッドのなかでまどろんでいる子どもたちに声をかけた。
するとサンパオが、けだるそうに寝返りを打ちながら
「外はまだ寒いでしょうから、もうしばらく寝ていたい」
と眠そうな声で言った。
アーヤーは、あくびをしながら
「草花はまだ咲いていないし、木々に緑の葉っぱもついていないから、早く起きても楽しくない」
と言った。
パントーはふとんをかぶったまま
「寝る子は育つというから、ぼくはもう少し寝ていることにするよ」
と答えた。
子どもたちが、ぼくの起床の呼びかけに誰一人応じなかったから、ぼくは機転を利かせて
「もうすぐ、この公園で楽しいことがあることが分かった。話して聞かせようと思っていたのに、起きなかったら話さない。何があるのか、おまえたちは知りたくないのか」
と言った。するとそれを聞いて、子どもたちは、がばっと体を起こして、異口同音に
「知りたい」
と答えた。それからまもなく子どもたちはベッドから出て、ぼくの前にきちんと行儀よく座ってから、ぼくのほうに耳を傾けていた。ぼくは子どもたちに、老いらくさんから聞いたサーカスの話をしてあげた。すると子どもたちは目を輝かせながら、ぼくの話に興味しんしんと聞き入っていた。子どもたちのなかでも一番関心を寄せていたのは、サンパオだった。
「どこでおこなわれるの。早く見たい」
サンパオは気もそぞろだった。
「慌てなくてもいいよ。今はまだ準備中だから、準備が整って興行が始まったら、すぐに見に連れていってやるよ」
ぼくはサンパオにそう言った。
「準備はどこでおこなっているの?」
サンパオが聞いた。
「梅園の近くにある広場でサーカスがあるので、そこで今、開演にむけての準備がおこなわれているそうだ」
ぼくはサンパオにそう答えた。
「分かった。ぼくはこれから準備の様子を見にいってくる」
サンパオがそう答えた。
「ぼくも行く」
「わたしも行く」
パントーとアーヤーもそう答えて、それからまもなく、子どもたちは勢いよく、うちを飛び出していった。
この国で一番大きな祝祭日である春節は新しい年が始まるときであり、大人も子どもも家族といっしょに新年を祝い、健康で新しい年を迎えられたことを喜び、今年一年の幸せを願う習慣となって、この国のなかですっかり定着している。お年寄りがいる家庭では、お年寄りを囲んで、一家団欒の楽しいひとときを過ごし、お年寄りがいない家庭では両親が子どもたちにきれいな服を着せたり、おせち料理を作って子どもたちを喜ばせてくれる。子どもたちは、おじいちゃんやおばあちゃんや、おじさんやおばさん、それに両親からお年玉をもらう。お年玉は赤い祝儀袋に入っているので『紅包』と呼ばれている。『紅包』をもらうことは、春節のときに子どもたちが一番楽しみにしていることの一つだ。
ぼくは以前、杜真子や馬小跳のうちに住んでいたから、春節のころの思い出を今でもよく覚えている。杜真子のお母さんと馬小跳のお母さんはきょうだいだから、春節のときは、必ず、どちらかの家が相手の家にあいさつに行っていた。杜真子は、馬小跳のお母さんから『紅包』をもらい、馬小跳は杜真子のお母さんから『紅包』をもらっていた。おじいさんとおばあさんもまだ元気だから『紅包』をくれるし、お父さんとお母さんも『紅包』をくれるので、杜真子も馬小跳も、春節のときはお金が豊かになって、毎年、ほくほくしていた。杜真子と馬小跳は、いつもはちょっとしたことでよく言い争いをするが、春節のときはどちらも気持ちが高揚しているので、いさかいをしているところを見たことがない。杜真子も馬小跳も顔を輝かせながら、ぼくにも「新年好!(あけましておめでとう!)」と言って特別なプレゼントをくれたので、春節はぼくにとっても、うれしくて忘れられない思い出の一つだった。
ぼくが妻猫と結婚して所帯を持って、翠湖公園のなかで暮らすようになってからも、杜真子や馬小跳は春節のときには、かならず、特別なおせち料理を持って訪ねてきてくれた。ぼくは妻猫や子どもたちといっしょに、おいしい料理をいただきながら一年の健康としあわせを願っていた。ぼくの親友である老いらくさんも、春節のときはよく、うちの前までやってきて
「これはわしから、おまえの子どもたちに贈るプレゼントだ」
と言って、赤い袋に入れたおもちゃを渡してくれた。老いらくさんの心遣いが身にしみてうれしかった。みんなの温かい思いやりを心に感じながら、ぼくはこれまでずっと、妻猫や子どもたちといっしょに楽しい春節の日々を過ごしてきた。
そんなことを思いながら、いつものように、けさ早く散歩に出かけると、向こうから老いらくさんがやってくるのが見えた。
「明けましておめでとうございます」
ぼくはにこやかな笑顔を浮かべながら老いらくさんに新年のあいさつをした。
「笑い猫、おめでとう。今年もよろしく」
老いらくさんがそう答えた。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
ぼくは老いらくさんにそう言った。
「笑い猫、この公園のなかで今、サーカス小屋の設営が始まったのを知っているか」
老いらくさんが聞いた。
「サーカス小屋?」
聞きなれない言葉だったので、ぼくは老いらくさんに聞き返した。
「サーカス小屋というのは動物にいろいろな芸をさせたり、人が軽業を演じて、観客を楽しませるための小屋のことだ」
老いらくさんがそう説明した。
「そうですか。面白そうですね」
ぼくは目を輝かせながらそう答えた。
「公園のなかのどのあたりでおこなわれるのですか」
ぼくは興味しんしんとしながら、老いらくさんに聞いた。
「梅園の近くにある広場で今、小屋の設営が始まっている」
老いらくさんがそう答えた。
「そうですか。設営中のところを見てみたいです」
ぼくは老いらくさんにそう言った。
「そうか、だったら、わしがこれから案内するから、いっしょに見にいかないか」
老いらくさんがぼくを誘った。
「いいですよ、いきましょう」
ぼくはそう答えた。それからまもなく、ぼくは老いらくさんのあとからついて、梅園のほうに向かっていった。梅園の近くまでくると、老いらくさんが
「あそこだ。あそこで今、サーカス小屋が作られている」
と言った。老いらくさんが指さしたほうを見ると、大きなトラックが一台停まっていて、荷台の上と下に人がいて、小屋を組み立てるための資材が次々と荷台から降ろされているのが目に入った。広場のなかには大きな天幕が張られていて、倒れないように、しっかりと杭で固定する作業がおこなわれていた。
作業がおこなわれているところを、ぼくと老いらくさんは、少し離れたところから興味深そうに見ていた。
「老いらくさんはサーカスを見たことがあるのですか」
ぼくは老いらくさんに聞いた。
「最近はあまり見ていないが、若いころはよく見ていた。いろいろな演目があって、面白くて、わくわくしながら見たり、はらはらどきどきしながら見ていた」
老いらくさんがそう言った。
「どんな演目があったのですか」
ぼくは老いらくさんに聞いた。
「空中ブランコや綱渡りや、動物による火の輪くぐりや自転車乗りなどがあった。ピエロによるズッコケや手品なども面白かった」
老いらくさんがそう答えた。老いらくさんの話を聞きながら想像を膨らませていると、サーカスをこれまで見たことがないぼくにも楽しい気分が伝わってきた。
サーカス小屋の設営をおこなっていたのは屈強な身体をした若者たちだった。筋骨隆々とした若者たちが数人で資材を抱えて運んだり組み立てたりしていた。その若者たちに指示を出していたのは、意外にも初老の男の人だった。髪の色はロマンスグレーで、声はいぶし銀を思わせるような深みのある声だった。けっして若くはなかったが、顔の色はつやつやしていて肌にはりがあって、とても若々しく見える人だった。
「あの人は何歳ぐらいに見えますか」
ぼくは老いらくさんに聞いた。
「さあ、何歳ぐらいだろうか。わしにもよく分からん」
老いらくさんがそう答えた。
「それほど若くはないと思いますが、もしかしたら心が子どものように純真な人かもしれませんね」
ぼくは老いらくさんにそう言った。
「そうだな。わしもそう思う。あのような人を『鶴髪童顔』というのだよ」
老いらくさんがそう言った。聞きなれない言葉だったから、ぼくは
「『鶴髪童顔』?」
と言って老いらくさんに聞き返した。すると老いらくさんがうなずいた。
「年を取って髪の毛は鶴のように白くなっても、顔は、かくしゃくとしているように見える人のことを、そういうのだ」
老いらくさんがそう説明してくれた。
「そうですか。ぼくは今、初めて、その言葉を知りました。あの人がどんな人なのかよく分かりませんが、若者から一目置かれているように見えるのは『鶴髪童顔』のためかもしれませんね」
ぼくはそう答えた。
「そうだな。わしもそう思う。いずれにせよ、これからまもなく、この翠湖公園でサーカスの興行が始まるので楽しみだな」
老いらくさんがそう言った。
「サーカスは誰が見ても楽しいでしょうが、特に子どもたちが見たら、楽しくてたまらないでしょうね」
ぼくはそう言った。すると老いらくさんが
「サーカスは子どもたちのパラダイスだよ」
と言った。
それを聞いて、ぼくはサーカスの興行が近々あることを、ぼくの子どもたちにもはやく話してやりたいという気持ちに駆られていた。パントーもアーヤーもサンパオも、この冬の間、うちからあまり出ないで、うちのなかで、じっとしていることが多かったから、楽しいサーカスがまもなく、この公園のなかでおこなわれることを知ったら、心が浮き浮きして思わず歓声をあげるかもしれない。子どもたちの喜ぶ顔を思い浮かべると、ぼくも楽しくなってきた。心躍るような情報をもたらしてくれた老いらくさんに感謝の言葉を述べてから、ぼくは老いらくさんと別れて、うちへ帰っていった。
うちへ着くと、パントーもアーヤーもサンパオもまだ寝ていた。
「おい、早く起きろ。もうすぐお昼だぞ」
ぼくはそう言って、ベッドのなかでまどろんでいる子どもたちに声をかけた。
するとサンパオが、けだるそうに寝返りを打ちながら
「外はまだ寒いでしょうから、もうしばらく寝ていたい」
と眠そうな声で言った。
アーヤーは、あくびをしながら
「草花はまだ咲いていないし、木々に緑の葉っぱもついていないから、早く起きても楽しくない」
と言った。
パントーはふとんをかぶったまま
「寝る子は育つというから、ぼくはもう少し寝ていることにするよ」
と答えた。
子どもたちが、ぼくの起床の呼びかけに誰一人応じなかったから、ぼくは機転を利かせて
「もうすぐ、この公園で楽しいことがあることが分かった。話して聞かせようと思っていたのに、起きなかったら話さない。何があるのか、おまえたちは知りたくないのか」
と言った。するとそれを聞いて、子どもたちは、がばっと体を起こして、異口同音に
「知りたい」
と答えた。それからまもなく子どもたちはベッドから出て、ぼくの前にきちんと行儀よく座ってから、ぼくのほうに耳を傾けていた。ぼくは子どもたちに、老いらくさんから聞いたサーカスの話をしてあげた。すると子どもたちは目を輝かせながら、ぼくの話に興味しんしんと聞き入っていた。子どもたちのなかでも一番関心を寄せていたのは、サンパオだった。
「どこでおこなわれるの。早く見たい」
サンパオは気もそぞろだった。
「慌てなくてもいいよ。今はまだ準備中だから、準備が整って興行が始まったら、すぐに見に連れていってやるよ」
ぼくはサンパオにそう言った。
「準備はどこでおこなっているの?」
サンパオが聞いた。
「梅園の近くにある広場でサーカスがあるので、そこで今、開演にむけての準備がおこなわれているそうだ」
ぼくはサンパオにそう答えた。
「分かった。ぼくはこれから準備の様子を見にいってくる」
サンパオがそう答えた。
「ぼくも行く」
「わたしも行く」
パントーとアーヤーもそう答えて、それからまもなく、子どもたちは勢いよく、うちを飛び出していった。

