子どもたちのパラダイス

天気……今日は二十四節気のなかの『雨水』。雪は雨に変わり、氷は水に解けて水となるころだ。ぼくたちが住んでいるこの町は、この国の南方にあるから、雪や氷はあまり見られないが、雨はよく降る。立春を過ぎてから降る雨には慈雨のような温かさが感じられるので、雨にぬれても少しも苦にならない。

ぼくはけさ、小雨が降るなかを、子どもたちを連れてうちを出た。途中で老いらくさんと待ち合わせて、いっしょに楠林のほうへ向かった。老いらくさんはボールのなかに入って、ころころと転がりながらついてきた。途中でプードル犬のフェイナと出会った。
「フェイナ、久しぶりだな。元気か」
ぼくはフェイナにあいさつをした。
「ありがとう。元気よ」
フェイナがそう答えた。ぼくのそばに子どもたちがいるのを見てフェイナが
「あれっ、どうしたの、子どもたちを連れてどこへ行くの?」
と聞いてきた。
「楠林へ行く」
ぼくはそう答えた。
「楠林?」
フェイナがけげんそうな顔をしていた。
「楠林のなかに何かあるの?」
フェイナが聞き返してきた。
「楠林のなかにピエロがいるので、子どもたちに芸を教えてもらいたいと思って」
ぼくはフェイナにそう答えた。それを聞いてフェイナが、好奇心に目を輝かせながら
「楽しそうね。わたしも見にいっていいかしら」
と言った。
「いいよ、いっしょに行こう」
ぼくはそう言って、フェイナを誘った。
それからまもなく、ぼくたちは楠林に着いた。木のうろのなかにスイカ―がいるのが見えた。スイカ―はぼくたちの姿に気がついて、うろのなかから出てきた。ぼくはスイカ―に、にっこりと笑って見せた。するとスイカ―がびっくりして目を丸くしていた。
「えっ、うそだろう。笑う猫を初めて見た」
スイカ―がそう言っているのが聞こえた。そのあと老いらくさんが自分にも注視してもらいたいと思って、スイカ―の前にころころと転がっていってから、ぴょんぴょんと弾んでいた。それを見てスイカ―が
「このボールはまるで生きているみたいだ」
と言っていた。ボールのなかにネズミが入っているとは、スイカ―は少しも思っていないようだった。弾んでいるボールを見て、ぼくはサンパオに
「ボールに跳び乗りなさい」
と言った。それを聞いて、サンパオはうなずいてから、ボールが地面に着いた瞬間にボールの上に跳び乗って、そのあと、後ろ足で立ち上がって、両手を横に広げてバランスを取ろうとしていた。でもうまくいかなくて失敗して、下に落ちていた。ぼくはそのあと今度はパントーとアーヤーに、落ちてきたボールをジャンプしながら頭でパスするように言った。パントーとアーヤーは協力しながら試みていたが、これもうまくいかなくて失敗に終わっていた。ぼくの子どもたちは、けっして運動神経が鈍い猫ではないが、最初はやはりうまくいかないのだなと思いながら見ていた。子どもたちは、度重なる失敗にもめげないで、何度も練習を繰り返しながら、コツをつかもうとしていた。それを見て、スイカ―が目を細めながら温かい拍手を送っていた。
子どもたちの練習を見ながら、ぼくはボールのなかに入っている老いらくさんのことを、とても気がかりに思っていた。老体にもかかわらず、跳んだりはねたりして、子どもたちの練習に協力してくれている老いらくさんは、体に相当なダメージを受けているのではないかと思ったからだ。はやく休ませてあげなければと思って、ぼくはその機会をうかがっていた。するとそのとき、パントーが受けそこなったボールがスイカ―の前に、ころころと転がっていくのが見えた。スイカ―はボールを拾ってから
「おまえたち、疲れただろう。練習は、それくらいにしておきなさい」
と言って、ボールを足元に置いたまま返さなかった。
スイカ―はそのあと、子どもたちに
「わしはこれまで、動物たちに玉乗りや、ジャンピング・ヘディングパスを教えてきたから、おまえたちにも教えてあげよう。これから毎日、ここへ練習に来なさい」
と言っていた。スイカ―が言ったことを、ぼくは子どもたちに伝えた。するとパントーもアーヤーもサンパオも、うれしそうな顔をしていた。
ぼくはそのあと、スイカ―の足元にあるボールを木の陰までゆっくりと転がしていってから、ボールのなかに入っている老いらくさんに
「大丈夫ですか」
と、声をかけた。するとボールのなかから
「めまいがする……吐き気もする……」
と、苦しそうな声が聞こえてきた。それを聞いて、ぼくは老いらくさんに
「吐きたいなら、吐いてください。そのほうがすっきりしますから」
と言った。すると老いらくさんが
「けさは栄養のあるものをたくさん食べてきたから、吐いたら、もったいないではないか」
と言った。それを聞いて、ぼくは老いらくさんに
「今はそんなことを言っている場合ではないでしょうが」
と言って戒めた。すると老いらくさんが
「分かっている。でもわしは、やはり吐かないで我慢する」
と答えていた。
ぼくはそのあと老いらくさんに
「子どもたちは練習するのをやめましたから、もう大丈夫です。あがった息を整えてください」
と言った。すると老いらくさんが
「ありがとう」
と言った。ぼくはそのあと老いらくさんに
「子どもたちに協力してくださってありがとうございます」
とお礼を言った。すると老いらくさんが
「わしは自分にできることをしただけだ。おまえの子どもたちのために、わしにできることは何でもする。たとえそのために命を落としてもかまわない」
と言った。それを聞いて、ぼくはびっくりして
「何を言っているのですか。老いらくさんは、ぼくにとって無二の親友ですから死んでもらっては困ります」
と言った。それを聞いて老いらくさんが
「分かった。わしにとっても、おまえは無二の親友だから、あまり無理をしないことにするよ」
老いらくさんがそう答えていた。
ぼくはそのあとフェイナに
「おまえも何かしてみないか」
と言った。すると
「わたしはダンスができるから、ちょっと踊ってみようかしら」
と言った。それを聞いて、ぼくは
「いいねえ。ぜひ踊って」
と言った。
「分かったわ。では踊ってみる」
フェイナはそう言って、バレリーナのように優雅に踊り始めた。すると、そのとき、楠の木にとまっていたオウムがフェイナの姿を見ながら、三拍子の軽快なワルツを歌い始めた。フェイナの踊りとオウムの歌がぴったり合っていて、とても美しく見えた。スイカ―は初めのうちはフェイナのダンスをじっと見ていたが、それからまもなくフェイナの手を取って、軽やかなステップを踏みながら、いっしょに踊り始めた。人と犬が仲良く手を取り合って踊っている光景を、ぼくは初めて見た。とても感動的な光景だったので、ぼくはとても酔いしれていた。ぼくの子どもたちも、まぶしそうな顔をしながらフェイナとスイカ―の踊りを見ていた。踊りが終わったときに、ぼくはフェイナに
「おまえがこんなにダンスが上手だとは思ってもいなかったよ。たいしたものだ」
と言った。するとフェイナが
「ありがとう、ほめてもらえてうれしいわ」
と言った。スイカ―がフェイナに
「おまえにはバレエを踊る天賦の才がある。わしはこれからおまえにバレエの基本的なステップの踏み方や回転の仕方などを教えたいと思っている。これから、毎日練習に来なさい」
と言っていた。フェイナにはスイカ―の言った言葉の意味が分からないから、ぼくがフェイナに伝えた。するとフェイナは幸福感に満たされたような顔をしていた。フェイナがそのあと
「人と踊るのも楽しいけど、わたしはやはり犬同士で踊ってみたいわ」
と言った。それを聞いて、ぼくはフェイナに
「だったらシャオパイと踊ったらいいではないか。どちらもプードル犬同士だし、気が合って楽しく踊れるのではないか」
と言った。フェイナはそれを聞いて
「そうね。わたしもそう思うわ。これからシャオパイを誘いにいってみようかしら」
と言った。
「シャオパイとおまえは、お似合いのカップルだよ。チン犬の地包天はシャオパイのことが大好きだから、おまえがシャオパイと仲良く踊っていたら、やきもちを焼くかもしれないけどね」
ぼくはフェイナにそう言った。それを聞いて、フェイナが、おかしそうな顔をしていた。
それからまもなく、ぼくたちはスイカ―やオウムと別れて、楠林のなかから出ていった。