不吉を呼ぶ姫は愛されないはずだった


「あ……え……っと、その……」

アリスは真っ赤な顔のまま、握られた手を見つめて固まっていた。

ウィルはそんなアリスをしばらく見つめていたが、やがて口を開く。

「気に入っていただけましたか」

その言葉に、アリスははっと顔を上げた。

「……あの」

ネックレスは、鈴蘭の飾りが可愛らしくて目を奪われる。

「可愛くて……本当に、いただいても……その……」

うまく言葉にならない。

ウィルはそんな様子を見ながら頷く。

「ええ」

優しげな笑みが向けられる。

その表情に胸が大きく跳ね、アリスは慌てて視線を逸らした。

心臓の音がおかしい。

きっと聞こえてしまうのではないかと思うほど激しく鳴っている。

「あの、手を……」

恐る恐る口にすると、

「まだ返事をいただいていません」

そう言われて、少しだけ手を握る力が強くなった。

アリスは思わず息を呑んだ。

返事をするまで逃がしてもらえそうになかった。

「……私で、いいのですか?」

かろうじて出た声は小さかった。

「その……噂のことも……」

最後まで言えずに俯く。

“不吉を呼ぶ姫”。

そんな噂を持つ自分なんかを、どうして。

ウィルは迷うことなく答えた。

「貴方以外ありえません」

あまりにも真っ直ぐな言葉に、アリスは瞬きを繰り返す。

信じられなくて、まるで夢の中にいるようだった。

「私と正式に婚約するのは、お嫌ですか」

その問いかけに、アリスは慌てて首を横に振る。

「嫌だなんて……!」

思わず大きな声が出る。

「あ、その……」

慌てて視線をさまよわせる。

「とても……嬉しいです」

ささやくような声だった。

それでも、今のアリスにとっては精一杯の言葉だった。

ウィルはそんな姿を見て、ふっと表情を和らげる。

「それを、返事と受け取ります」

「……はい」

アリスは顔を真っ赤にしたまま、コクコクと何度も頷いた。

どこか可愛らしい反応に、ウィルは思わず笑みをこぼした。

そのときだった。

「失礼いたします」

扉がノックされ、クララの声が響く。

アリスはびくりと肩を震わせた。

開いた扉の向こうには、いつも通り落ち着いた表情のクララが立っていた。

その瞬間、アリスは自分の手がまだウィルに握られたままだったことを思い出す。

「――っ」

慌てて手を引こうとする。

けれど、ウィルがしっかりと握っているため離れない。

「……あの」

アリスは握られている手とウィルの顔を交互に見た。

オロオロするばかりで、どうしていいのか分からなかった。

その様子を見つめながら、ウィルはもう少しだけその手を離さなかった。

それからクララへ視線を向けた。

「これを姫につけてくれるか」

そう言ってネックレスへと視線を向け、自然に手を離す。

クララは二人を見比べるように視線を向けたあと、ふっと目を細めた。

「かしこまりました」

そしてアリスへ向き直る。

「アリス様、ネックレスをおつけしましょうか」

「あ、はい」

アリスは動揺したままネックレスを差し出した。

指先まで熱い。

「では、私は着替えてきます」

ウィルはそう告げると部屋を後にした。

扉が閉まる音が響いた途端、アリスは深く息を吐いた。

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夕食の席では、珍しくウィルの方から話題を向けることが多かった。

内容は何気ないものばかりだったが、そのたびにアリスはぎこちない返事をする。

そして、ウィルと目が合うたびに頬を赤くし、慌てて視線を食事へ落としていた。

「昼頃の迎えと言いましたが、帰りは私も同行します」

その言葉に、アリスは持っていたフォークを危うく落としかけた。

「姫?」

「い、いえ! あの、お願いします」

やっぱり様子がおかしい。

リリスは内心で首を傾げた。

先ほど、少しの間だけアリスとウィルは二人きりになっていた。

あの後からというもの、アリスは明らかに挙動不審だった。

――あの時、きっと何かあったのだわ。

そう思いながら、リリスは給仕をしていたクララへ視線を向ける。

クララはそんな視線に気づくと、何も言わずにただ微笑んだ。

その笑みだけで十分だった。

ソワソワと落ち着かない様子のアリスへ、ウィルは時折優しい表情を浮かべていた。

――まさか、アリス様がこんな日を迎えられるなんて。

リリスの胸に嬉しさがこみ上げる。

――後で絶対にお聞きしなきゃ。

今すぐ聞きたい気持ちをどうにか抑えながら、リリスは食事の時間が終わるのを待った。

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「リリス、自分で髪を拭けるから、貴方も早く休んだ方がいいわ。明日は色々忙しいのだし」

入浴後に髪を拭いていると、アリスはそう言ってタオルへ手を伸ばす。

「いいえ、ちゃんと乾かして寝ていただかないと、風邪でも引いたら大変ですから」

リリスはそう言ってから、とうとう我慢できずに聞く。

「それよりも、アリス様。ウィル殿下と何かありましたね」

「えっ、あ、」

アリスの顔が面白いように赤くなっていく。

リリスは黙って続きを待つ。

「正式に婚約してくださるって……」

それ以上、うまく言葉にならなかった。

「本当に、良かったですね、アリス様」

アリスは俯いたまま何度も頷いた。

その肩はかすかに震えていた。