野いちご源氏物語 五三 手習(てならい)

「これは間違いなく人間だ。死にそうになっているのに見捨ててはいけない」
僧都(そうづ)弟子(でし)たちをお止めになる。
「殺されそうになっている魚や鹿(しか)を見て、助けずに見捨てればつらいだろう。それと同じだ。命は(はかな)いものだが、最後の一日まで大切にしなくてはならない。
どんな災難(さいなん)()ったのか分からないが、まだ生きられたはずの若い人が死んでいくのだ。仏様は必ずお救いくださるだろう。それまで私たちが世話してあげようではないか。看病(かんびょう)甲斐(かい)なく死んでしまったら、それはもう仕方のないことだ」
お供に命じて女を建物のなかに入れておやりになる。
下働きの者たちに(さわ)がれないように、人目(ひとめ)の少ない場所に寝かせておかれる。

弟子たちは僧都の慈悲(じひ)深さにあれこれ言う。
厄介(やっかい)なことになった。ひどいご病気の(おお)尼君(あまぎみ)がもうすぐ到着なさるというのに、得体(えたい)の知れないものがいたら、きっと悪化してしまわれるだろう」
「いやいや、(きつね)だろうと人間だろうと、生きている者をこんな雨のなか放っておいて死なせるのは(ばち)当たりだ」
それぞれ考えがあるのよね。