野いちご源氏物語 五三 手習(てならい)

姫君(ひめぎみ)のお世話をさせていただきたいのです。『もうご出家(しゅっけ)なさったのですから、私の話を安心して聞いてくださってもよろしいのでは』とお伝えください。亡き妻のことが忘れられなくてこのお屋敷をお訪ねしておりましたが、姫君のお世話をさせていただけるなら、義母君(ははぎみ)とのご(えん)もいっそう深くなりましょう」

「私も姫君のご将来を心配しておりますから、あなた様がお世話してくださればありがたく存じます。私が死んだらどうなってしまわれるのかと不安で」
尼君(あまぎみ)はお泣きになる。
<たしか女房(にょうぼう)は、姫君は義母君のご親戚(しんせき)らしいと言っていた。どのようなご関係なのだろう>
その点もまた、中将様は()に落ちない。

「私の命だってどうなるか分かりませんが、こうしてお願いしたのですから生きている限りは必ずお世話いたします。ひとつお尋ねしますが、姫君を探している方は本当にいらっしゃらないのでしょうか。ご両親やご兄弟、もしかすると夫君(おっとぎみ)のことがあとから分かっても、お世話しようという私の気持ちはもちろん変わりませんが、義母君がご存じならやはり先にお教えいただきたいのです」
「まったくそういうお話はないのですよ。もしご家族がここを訪ねておいでになったとしても、ふつうの姿で暮らしているなら連れ戻そうとするでしょうが、もう尼姿(あますがた)でいらっしゃいますからね。ご本人も尼としてここで生きていくご覚悟のようです」
尼君は中将様を安心させなさる。

中将様は女房を通じて浮舟(うきふね)(きみ)にも声をおかけになった。
「私とのことがなくても出家なさったでしょうが、さぁこれで中将も近づけないだろうとお考えになるのはつらいのです。私を兄と思ってください。ちょっとした世間話などをして、ご退屈(たいくつ)をお(なぐさ)めいたしましょう」
「どのようなお話をうかがっても、何も理解できない私でございますから」
と、浮舟の君はお返事をお伝えさせる。
中将様を近づけない、という部分はあえて否定しない。