野いちご源氏物語 五三 手習(てならい)

それから女房(にょうぼう)にそっとお命じになる。
「少しでよいから姫君(ひめぎみ)尼姿(あますがた)を見せておくれ。もともとそなたは、そのうち姫君に会わせてくれると言っていたではないか」
どうしようかと女房は浮舟(うきふね)(きみ)の部屋へ入った。
尼姿ではあるけれど、中将様にお見せしたいような美しさに目がくらむ。

小柄(こがら)な体に(あま)らしい落ち着いた色の着物を着ている。
でも今どきの雰囲気は残っていて、短く切った(かみ)も豊か。
繊細(せんさい)な顔立ちの(ほお)には、上手に化粧(けしょう)をしたような赤みがある。
まだ数珠(じゅず)を持ち慣れていないのか、ついたてにひっかけたままで熱心にお(きょう)を読んでいる姿は、絵に描きたいほどかわいらしい。
<私でさえお姿を拝見するたび涙がこぼれるのだから、中将様はさぞや感激なさるだろう>
(のぞ)()できる戸の穴を中将様にお教えすると、女房は浮舟の君の部屋に戻って、覗き見の邪魔(じゃま)になりそうなついたてを移動させた。

<これほどの美人とは思わなかった。私の理想どおりの人だったではないか>
自分が強引に言い寄ったせいで出家させてしまったのだろうかと、中将様はお(くや)しい。
思い乱れる気持ちが部屋のなかまで伝わってしまうような気がして、そっと戸からお離れになった。
<こんな人が家から消えたというのに、誰にも探されていないのはおかしい。だれそれの娘が行方(ゆくえ)不明(ふめい)だとか、嫌なことがあって出家したらしいとか、何らかの(うわさ)になっているはずだ>
()に落ちないこともあるけれど、それでも浮舟の君の美しさにお心が()かれる。
<尼だけれど、この人なら嫌な感じはしない。かえって美しさが引き立っているではないか。こっそりと私のものにしてしまおう>
(ばち)当たりなことを考えて、尼君(あまぎみ)に相談なさる。