女一の宮様のご体調はすっかりよくなった。
僧都は比叡山に戻る途中で小野の家にお寄りになる。
尼君はかんかんに腹を立てていらっしゃる。
「若い女性が尼などになっては、かえって生きにくいのですよ。出家を後悔なさったら罰当たりです。どうして私に相談してくださらなかったのですか」
と兄僧都をお責めになるけれど、もはやどうしようもない。
僧都は浮舟の君におっしゃった。
「今はただお経をお読みなさい。年寄りだろうと若者だろうと、将来のことなど何も分かりません。妹はああ言っていますが、あなたは恐ろしい目にお遭いになった。あれほどしつこい妖怪に憑りつかれては、出家したいと願うのも当然ですよ」
正気を失った状態で僧都に見つけられたことを思い出して、浮舟の君は恥ずかしい。
「これで尼用の着物をお作りなさい」
と、中宮様からご褒美として頂戴なさった布地をおあげになる。
「私が生きているうちはお世話いたしましょう。何も心配はいりません。俗世間に比べてここはよいところですよ。出世だとか立派な結婚だとか、そんなものに執着して苦しむ必要はない。この山里の家で静かに修行をなさっていれば、悪い感情など生まれません。そうしているうちに、想像しているよりもあっという間に命は尽きてしまいます」
と、出家生活の心構えをお教えになる。
ありがたい仏教の師だと浮舟の君は感激している。
心細い風が一日中吹いている日で、
「こんな日には山で修行している者も泣きたくなるのですよ」
と僧都はおっしゃった。
<私も今は山の修行者なのだろう。道理で涙が止まらない>
浮舟の君は涙を袖でぬぐいながら、ふと外を見る。
家の前の道に貴族の一行が来ている。
近くに登山口があるけれど、このあたりを通る人はあまりいない。
しかも僧侶ではなく貴族だなんてめずらしいと思っていると、この一行の主は中将様だった。
出家してしまった浮舟の君に恨み言を言おうとやって来たものの、紅葉が美しくて、早くもつらくなっていらっしゃる。
<たしかにこういう風情ある山里に、明るくて積極的な女性は似合わないな>
とご自分を納得させながら、尼君をお訪ねになった。
「少し暇ができましたから、小野の紅葉は見ごろだろうかと思ってやってまいりました。妻が生きていたころのように、こちらにも泊めていただきたいものですが」
中将様が挨拶なさると、尼君はいつものようにお泣きになった。
「姫君が出家してしまわれた今となっては、あなた様にお泊まりいただく理由もございません」
「ご出家のことはお聞きしました。私を待っている人などいないのは分かっておりますが、どうしても素通りできなかったのです」
悲しそうに中将様はおっしゃる。
僧都は比叡山に戻る途中で小野の家にお寄りになる。
尼君はかんかんに腹を立てていらっしゃる。
「若い女性が尼などになっては、かえって生きにくいのですよ。出家を後悔なさったら罰当たりです。どうして私に相談してくださらなかったのですか」
と兄僧都をお責めになるけれど、もはやどうしようもない。
僧都は浮舟の君におっしゃった。
「今はただお経をお読みなさい。年寄りだろうと若者だろうと、将来のことなど何も分かりません。妹はああ言っていますが、あなたは恐ろしい目にお遭いになった。あれほどしつこい妖怪に憑りつかれては、出家したいと願うのも当然ですよ」
正気を失った状態で僧都に見つけられたことを思い出して、浮舟の君は恥ずかしい。
「これで尼用の着物をお作りなさい」
と、中宮様からご褒美として頂戴なさった布地をおあげになる。
「私が生きているうちはお世話いたしましょう。何も心配はいりません。俗世間に比べてここはよいところですよ。出世だとか立派な結婚だとか、そんなものに執着して苦しむ必要はない。この山里の家で静かに修行をなさっていれば、悪い感情など生まれません。そうしているうちに、想像しているよりもあっという間に命は尽きてしまいます」
と、出家生活の心構えをお教えになる。
ありがたい仏教の師だと浮舟の君は感激している。
心細い風が一日中吹いている日で、
「こんな日には山で修行している者も泣きたくなるのですよ」
と僧都はおっしゃった。
<私も今は山の修行者なのだろう。道理で涙が止まらない>
浮舟の君は涙を袖でぬぐいながら、ふと外を見る。
家の前の道に貴族の一行が来ている。
近くに登山口があるけれど、このあたりを通る人はあまりいない。
しかも僧侶ではなく貴族だなんてめずらしいと思っていると、この一行の主は中将様だった。
出家してしまった浮舟の君に恨み言を言おうとやって来たものの、紅葉が美しくて、早くもつらくなっていらっしゃる。
<たしかにこういう風情ある山里に、明るくて積極的な女性は似合わないな>
とご自分を納得させながら、尼君をお訪ねになった。
「少し暇ができましたから、小野の紅葉は見ごろだろうかと思ってやってまいりました。妻が生きていたころのように、こちらにも泊めていただきたいものですが」
中将様が挨拶なさると、尼君はいつものようにお泣きになった。
「姫君が出家してしまわれた今となっては、あなた様にお泊まりいただく理由もございません」
「ご出家のことはお聞きしました。私を待っている人などいないのは分かっておりますが、どうしても素通りできなかったのです」
悲しそうに中将様はおっしゃる。



