野いちご源氏物語 五三 手習(てならい)

さて、(おんな)(いち)(みや)様のご病気は、僧都(そうづ)がお祈りを始めるとまもなく治った。
あの弟子(でし)が言っていたとおりね。
世間ではますます僧都の評価が高まる。
中宮(ちゅうぐう)様はご病気がぶり返すことを心配して、お祈りの期間を延長させなさった。
僧都は比叡(ひえい)(ざん)に戻れないまま、内裏(だいり)にいらしゃる。

静かな雨の夜、中宮様は僧都にご病室近くでのお祈りをお命じになった。
看病(かんびょう)続きで疲れきった女房(にょうぼう)たちは、離れた部屋に下がって休んでいる。
ご病室に女一の宮様と中宮様がいらっしゃって、近くには人が少ない。
「ありがたいお祈りでした。以前からあなたのことは信頼していたけれど、来世(らいせ)もぜひあなたを仏教の()として頼りにしたいものです」
と中宮様がおっしゃる。

「『今年か来年にはそなたは死ぬだろう』と仏様のお()げがありましたので、それまでできる限り修行(しゅぎょう)しようと山に(こも)っておりました。それで一度目のご依頼はお断りしてしまいましたが、恐れ多くも中宮様からお手紙を頂戴(ちょうだい)いたしまして、山を下りた次第(しだい)でございます」
僧都はかしこまってお返事なさる。