行ってみると、宇治の院はひどく荒れて恐ろしいところだった。
僧都は魔除けのために弟子にお経を読ませなさる。
何か気になることがあったのか、弟子のひとりがお供に灯りを持たせて建物の後ろを見にいった。
めったに人が近づかない場所で、まるで森のような大木がある。
ぞっとしながら弟子があたりを見回すと、大木の根元に白い物が広がっている。
「あれは何だ」
何かが座りこんだような姿が灯りに照らされる。
「狐の妖怪でございましょう。うっとうしい。よく見てまいります」
お供は灯りを持って近づいていく。
「やめておきなさい、危険だ」
止めても聞かないから、弟子はその場で魔除けのおまじないをしながら見守った。
怖いもの知らずのお供は、何も気にせず突き進んでいく。
そばで見てみると妖怪らしきものにはつやつやとした長い髪があった。
木の根元に寄りかかってひどく泣いている。
「めずらしいこともあるものだな。僧都様にお知らせしよう」
弟子が呼びにいくと、
「狐が人に化けるというのはよく聞くが、私はまだ見たことがない」
と言いながら僧都は出ていらっしゃった。
下働きの者たちは食事の用意などにかかりきりになっている。
もうすぐ大尼君たちも到着なさるから、急がないといけない。
建物の裏の方はひっそりとしていて、僧都をはじめ四、五人の僧侶だけで妖怪を見つめる。
しばらくそのまま観察していたけれど、とくに変化はない。
夜が明けると僧都はこれは人間だとお悟りになった。
「妖怪ではない。そばへ行って尋ねてみよ。死んではいないようだ。死んだと思ってここに捨てられた人が、生き返ったのかもしれない」
「いくら荒れているとはいえ、ここは恐れ多い宇治の院でございます。死人を捨てるなどということがありましょうか。人間だとしても、狐などが憑りついてどこかから連れてきたのでしょう。困りましたね。こういう不吉なものがいては、大尼君のお具合がよけいに悪くなってしまうのでは」
弟子は心配しながら言うと、とりあえず先ほどの留守番の老人を呼んだ。
食事の支度で大忙しのなか呼び出された老人は、烏帽子がずれたままやって来た。
「この若い女性は宇治の院にお住まいの人か。先ほどからずっとここでうずくまって泣いているのだが」
弟子が尋ねると、老人は慣れた様子で答える。
「あぁ、これは狐の仕業でございますな。この木の根元では、ときどき妙なことが起きるのです。一昨年の秋も、院で働く人の子どもがいなくなって、ここで見つかりました。とくにめずらしいことではございません」
「その子どもは死んでいたのか」
「いいえ、生きておりました。いたずらな狐ですが、たいして悪いことはいたしませんので」
老人はそれよりも台所が気になっている。
「この者の言うとおりかどうか、確かめてまいれ」
僧都は怖いもの知らずのお供にお命じになった。
「鬼か神か狐か、正体が何であろうと、ご立派な僧都様がいらっしゃるのだから隠れることはできないぞ。さぁ、名乗れ、名乗れ」
お供が着物をはぎ取ろうとすると、女は顔を着物に引き入れてますます泣く。
「往生際の悪いやつめ、いつまで隠れようとするのだ」
さすがに気味悪くなってきたけれど、お供は頼りがいのあるところを僧都にお見せしようと、勇気を出して着物を引っ張る。
すると女はうつ伏し、激しく泣いた。
あまりに奇妙すぎる。
正体を突き止めたいけれど、雨が降りはじめた。
「ひどい雨になりそうだ。このままにしておいたら死んでしまうだろう」
「縁起が悪い。いっそ院の敷地の外に出してしまうか」
僧都は魔除けのために弟子にお経を読ませなさる。
何か気になることがあったのか、弟子のひとりがお供に灯りを持たせて建物の後ろを見にいった。
めったに人が近づかない場所で、まるで森のような大木がある。
ぞっとしながら弟子があたりを見回すと、大木の根元に白い物が広がっている。
「あれは何だ」
何かが座りこんだような姿が灯りに照らされる。
「狐の妖怪でございましょう。うっとうしい。よく見てまいります」
お供は灯りを持って近づいていく。
「やめておきなさい、危険だ」
止めても聞かないから、弟子はその場で魔除けのおまじないをしながら見守った。
怖いもの知らずのお供は、何も気にせず突き進んでいく。
そばで見てみると妖怪らしきものにはつやつやとした長い髪があった。
木の根元に寄りかかってひどく泣いている。
「めずらしいこともあるものだな。僧都様にお知らせしよう」
弟子が呼びにいくと、
「狐が人に化けるというのはよく聞くが、私はまだ見たことがない」
と言いながら僧都は出ていらっしゃった。
下働きの者たちは食事の用意などにかかりきりになっている。
もうすぐ大尼君たちも到着なさるから、急がないといけない。
建物の裏の方はひっそりとしていて、僧都をはじめ四、五人の僧侶だけで妖怪を見つめる。
しばらくそのまま観察していたけれど、とくに変化はない。
夜が明けると僧都はこれは人間だとお悟りになった。
「妖怪ではない。そばへ行って尋ねてみよ。死んではいないようだ。死んだと思ってここに捨てられた人が、生き返ったのかもしれない」
「いくら荒れているとはいえ、ここは恐れ多い宇治の院でございます。死人を捨てるなどということがありましょうか。人間だとしても、狐などが憑りついてどこかから連れてきたのでしょう。困りましたね。こういう不吉なものがいては、大尼君のお具合がよけいに悪くなってしまうのでは」
弟子は心配しながら言うと、とりあえず先ほどの留守番の老人を呼んだ。
食事の支度で大忙しのなか呼び出された老人は、烏帽子がずれたままやって来た。
「この若い女性は宇治の院にお住まいの人か。先ほどからずっとここでうずくまって泣いているのだが」
弟子が尋ねると、老人は慣れた様子で答える。
「あぁ、これは狐の仕業でございますな。この木の根元では、ときどき妙なことが起きるのです。一昨年の秋も、院で働く人の子どもがいなくなって、ここで見つかりました。とくにめずらしいことではございません」
「その子どもは死んでいたのか」
「いいえ、生きておりました。いたずらな狐ですが、たいして悪いことはいたしませんので」
老人はそれよりも台所が気になっている。
「この者の言うとおりかどうか、確かめてまいれ」
僧都は怖いもの知らずのお供にお命じになった。
「鬼か神か狐か、正体が何であろうと、ご立派な僧都様がいらっしゃるのだから隠れることはできないぞ。さぁ、名乗れ、名乗れ」
お供が着物をはぎ取ろうとすると、女は顔を着物に引き入れてますます泣く。
「往生際の悪いやつめ、いつまで隠れようとするのだ」
さすがに気味悪くなってきたけれど、お供は頼りがいのあるところを僧都にお見せしようと、勇気を出して着物を引っ張る。
すると女はうつ伏し、激しく泣いた。
あまりに奇妙すぎる。
正体を突き止めたいけれど、雨が降りはじめた。
「ひどい雨になりそうだ。このままにしておいたら死んでしまうだろう」
「縁起が悪い。いっそ院の敷地の外に出してしまうか」



