僧都は女君の部屋の近くへ行って、
「こちらにいらっしゃいますか」
と声をおかけになる。
男性と話すのは気が引けるけれど、ここはきちんとお願いしなければいけない。
ついたて越しにお返事すると、僧都は挨拶なさった。
「あなたのお世話を母や妹に任せて山に戻りましたが、ずっとあなたのためのお祈りは続けておりましたよ。我々が巡りあったのも何かの縁でしょうからね。とはいえ、たいした用事もないのに僧侶が俗世間と関わってはいけませんから、お手紙も差し上げずにおりました。
あれからいかがお過ごしですか。こんな寂しいところで年老いた尼たちに囲まれて」
「死ねずに生きながらえていることはつらいのですが、僧都様のご親切には感謝しております。それでもやはり、私はこの世で生きることに向いておらず、きっと命は短いと思うのです。どうか尼にしてくださいませ。このまま俗世間におりましても、人並みに結婚して長生きする未来などございませんから」
「まだお若いのにどうしてそこまで思いつめなさるのです。この先の人生、尼としての寂しい暮らしに耐えられますか。俗世間に未練が残っていて修行に集中できないとなれば、かえって罰当たりです。今は固い決心だと思っておられるかもしれませんが、年月が経てばどうでしょう。特に女性は後悔したり問題を起こしたりしがちなのですよ」
「この思いつめてしまう性格は生まれつきなのです。親も『尼にした方がよいのだろうか』と困っておりました。大人になってこの世のつらさが分かるようになりますと、もう結婚などは望まないから来世の幸せを祈りたいと思うようになりました。近ごろは命の終わりが近づいているのでしょうか、気持ちが弱っていくばかりです。これほどの状態ですから、どうか出家させてくださいませ」
浮舟の君は泣きながらお願いする。
<こんなに美しい人なのに、どうして死にたいなどと思うようになったのだ。この人に憑りついていた妖怪も、自殺願望があったから憑りついたというようなことを言っていた。何か深い理由があって、死ねないのならせめて出家したいと思っているのだろう。
宇治の院で我々が助けなければ、とっくに死んでいた人なのだ。一度妖怪に見つかってしまったのだから、もしかしたらまた狙われるかもしれない>
出家させてやろうかと僧都はお思いになる。
「何はともあれ、出家を決心なさったのは立派なことです。仏様もおほめになりましょう。僧侶の分際で反対できることではありません。出家の儀式自体はすぐにできるものですが、私は女一の宮様のお祈りのために下山したところなのです。今夜参内して、明日から七日間のお祈りを始めます。それが済んで戻ってきたときに儀式をしてあげましょう」
浮舟の君はそれを待つわけにはいかない。
<そのころには尼君がお帰りになっている。きっと反対されてしまう>
どうしても今日でなければと、僧都を引きとめる。
「妖怪が憑りついていたときと同じような心地がするのです。今もとても苦しいのですが、もっとひどくなって正気を失えば、出家させていただいたかどうかも分からなくなってしまいます。今日僧都様にお目にかかれたことが、本当にうれしくありがたいと思っておりましたのに」
と言ってひどく泣くので、僧都は同情なさる。
「すっかり夜も更けましたな。都までの道のりなど昔はどうともなかったが、年を取るほどつらくなってまいりましてね。山を下りたところで一休みするために立ち寄ったのだが、それほどお急ぎなら、これから儀式をいたしましょう」
「こちらにいらっしゃいますか」
と声をおかけになる。
男性と話すのは気が引けるけれど、ここはきちんとお願いしなければいけない。
ついたて越しにお返事すると、僧都は挨拶なさった。
「あなたのお世話を母や妹に任せて山に戻りましたが、ずっとあなたのためのお祈りは続けておりましたよ。我々が巡りあったのも何かの縁でしょうからね。とはいえ、たいした用事もないのに僧侶が俗世間と関わってはいけませんから、お手紙も差し上げずにおりました。
あれからいかがお過ごしですか。こんな寂しいところで年老いた尼たちに囲まれて」
「死ねずに生きながらえていることはつらいのですが、僧都様のご親切には感謝しております。それでもやはり、私はこの世で生きることに向いておらず、きっと命は短いと思うのです。どうか尼にしてくださいませ。このまま俗世間におりましても、人並みに結婚して長生きする未来などございませんから」
「まだお若いのにどうしてそこまで思いつめなさるのです。この先の人生、尼としての寂しい暮らしに耐えられますか。俗世間に未練が残っていて修行に集中できないとなれば、かえって罰当たりです。今は固い決心だと思っておられるかもしれませんが、年月が経てばどうでしょう。特に女性は後悔したり問題を起こしたりしがちなのですよ」
「この思いつめてしまう性格は生まれつきなのです。親も『尼にした方がよいのだろうか』と困っておりました。大人になってこの世のつらさが分かるようになりますと、もう結婚などは望まないから来世の幸せを祈りたいと思うようになりました。近ごろは命の終わりが近づいているのでしょうか、気持ちが弱っていくばかりです。これほどの状態ですから、どうか出家させてくださいませ」
浮舟の君は泣きながらお願いする。
<こんなに美しい人なのに、どうして死にたいなどと思うようになったのだ。この人に憑りついていた妖怪も、自殺願望があったから憑りついたというようなことを言っていた。何か深い理由があって、死ねないのならせめて出家したいと思っているのだろう。
宇治の院で我々が助けなければ、とっくに死んでいた人なのだ。一度妖怪に見つかってしまったのだから、もしかしたらまた狙われるかもしれない>
出家させてやろうかと僧都はお思いになる。
「何はともあれ、出家を決心なさったのは立派なことです。仏様もおほめになりましょう。僧侶の分際で反対できることではありません。出家の儀式自体はすぐにできるものですが、私は女一の宮様のお祈りのために下山したところなのです。今夜参内して、明日から七日間のお祈りを始めます。それが済んで戻ってきたときに儀式をしてあげましょう」
浮舟の君はそれを待つわけにはいかない。
<そのころには尼君がお帰りになっている。きっと反対されてしまう>
どうしても今日でなければと、僧都を引きとめる。
「妖怪が憑りついていたときと同じような心地がするのです。今もとても苦しいのですが、もっとひどくなって正気を失えば、出家させていただいたかどうかも分からなくなってしまいます。今日僧都様にお目にかかれたことが、本当にうれしくありがたいと思っておりましたのに」
と言ってひどく泣くので、僧都は同情なさる。
「すっかり夜も更けましたな。都までの道のりなど昔はどうともなかったが、年を取るほどつらくなってまいりましてね。山を下りたところで一休みするために立ち寄ったのだが、それほどお急ぎなら、これから儀式をいたしましょう」



