しばらくすると山のお寺から僧都の弟子たちがやって来た。
「今日、僧都様が下山なさいます」
と言う。
「どうして突然」
と尋ねた女房に、弟子は得意顔で答えた。
「女一の宮様がご病気なので、都までお祈りにいかれるのです。今も比叡山で一番お偉い方がお祈りなさっていますが、やはり僧都様がいらっしゃらないと駄目だということになりましてね。昨夜ご催促があったのです。
夕霧大臣様のご子息が、中宮様からのお手紙を持っていらっしゃったのですよ。中宮様から名指しのご依頼では、さすがの僧都様も断ることなどおできになりませんからね」
大尼君のお部屋で聞き耳を立てていた浮舟の君は、はっとする。
<僧都様はきっとこの家にお立ち寄りになる。お目にかかって尼にしていただこう。尼君がお留守の今ならちょうどよい>
そう決めると、大尼君に伝言をお願いした。
「体調がずいぶん悪いものですから、僧都様がお越しになったら、出家の儀式をしていただきたいのです。大尼君からそのようにお伝えください」
と言うと、聞こえているのかいないのか、大尼君はにこにことうなずかれた。
とりあえず浮舟の君は自分の部屋に戻る。
長い髪を触りながら、
<もうすぐばっさりと切っていただくのだ。その前にもう一度、この姿を母君にお見せしたかった。もしいつかお会いできたとしても、私は尼姿なのか>
と悲しい。
長い間ひどい病気だったので、髪の量が減ったような気がするけれど、まったくそんなことはない。
あいかわらず豊かで、長い髪の毛先はとても美しくて乱れてもいない。
「母君はよく私の髪を撫でてくださった。その髪をばっさり切って尼になるのだ。母君のご愛情を裏切ってしまう」
とひとりでつぶやいた。
夕暮れ頃に僧都はお越しになった。
母親である大尼君にご挨拶なさる。
「近ごろお具合はいかがですか。妹は長谷寺へお参りに出かけたそうですね。宇治の院で助けた女性はどうなりました。今もこちらにいらっしゃるのですか」
「ええ、こちらにおいでですよ。体調が悪いから、あなたの手で出家させてほしいとおっしゃっていました」
大尼君は浮舟の君からの伝言をきちんと伝えてくださった。
「今日、僧都様が下山なさいます」
と言う。
「どうして突然」
と尋ねた女房に、弟子は得意顔で答えた。
「女一の宮様がご病気なので、都までお祈りにいかれるのです。今も比叡山で一番お偉い方がお祈りなさっていますが、やはり僧都様がいらっしゃらないと駄目だということになりましてね。昨夜ご催促があったのです。
夕霧大臣様のご子息が、中宮様からのお手紙を持っていらっしゃったのですよ。中宮様から名指しのご依頼では、さすがの僧都様も断ることなどおできになりませんからね」
大尼君のお部屋で聞き耳を立てていた浮舟の君は、はっとする。
<僧都様はきっとこの家にお立ち寄りになる。お目にかかって尼にしていただこう。尼君がお留守の今ならちょうどよい>
そう決めると、大尼君に伝言をお願いした。
「体調がずいぶん悪いものですから、僧都様がお越しになったら、出家の儀式をしていただきたいのです。大尼君からそのようにお伝えください」
と言うと、聞こえているのかいないのか、大尼君はにこにことうなずかれた。
とりあえず浮舟の君は自分の部屋に戻る。
長い髪を触りながら、
<もうすぐばっさりと切っていただくのだ。その前にもう一度、この姿を母君にお見せしたかった。もしいつかお会いできたとしても、私は尼姿なのか>
と悲しい。
長い間ひどい病気だったので、髪の量が減ったような気がするけれど、まったくそんなことはない。
あいかわらず豊かで、長い髪の毛先はとても美しくて乱れてもいない。
「母君はよく私の髪を撫でてくださった。その髪をばっさり切って尼になるのだ。母君のご愛情を裏切ってしまう」
とひとりでつぶやいた。
夕暮れ頃に僧都はお越しになった。
母親である大尼君にご挨拶なさる。
「近ごろお具合はいかがですか。妹は長谷寺へお参りに出かけたそうですね。宇治の院で助けた女性はどうなりました。今もこちらにいらっしゃるのですか」
「ええ、こちらにおいでですよ。体調が悪いから、あなたの手で出家させてほしいとおっしゃっていました」
大尼君は浮舟の君からの伝言をきちんと伝えてくださった。



