<そうはおっしゃっても、あのご様子では>
女房が部屋へ戻ると、浮舟の君の姿が見えない。
なんと、いつもは近づきもしない大尼君のお部屋へ入りこんでいるの。
ほとほと困り果てた女房は、中将様に正直にお話ししてしまった。
中将様も不思議で仕方がない。
「いったいどういうことなのだ。こんな寂しい山里でお暮らしの、それなりに身分の高そうな姫君でいらっしゃるのだろう。恋の甘い雰囲気が通じないわけがない。それとも、何か男に懲りるような経験をなさったのか。世間を恐れていらっしゃるというのもそれが理由か。詳しい事情を知りたい」
そうお尋ねになるけれど、女房としても、「宇治の院で行き倒れになっていらっしゃるところを拾っただけで、ご本人も何もおっしゃいませんから、事情は存じません」とはまさか言えない。
「尼君のご親戚と伺っております。半年ほど前に長谷寺にお参りなさったとき、何年ぶりかで再会なさったとか。他に頼れる人がいらっしゃらないようで、尼君がお引き取りになったのです」
と申し上げた。
大尼君のお部屋で浮舟の君は眠れずにいた。
お年寄りのいびきは恐ろしい。
大尼君のいびきに負けじと、年老いた女房たちまで大きないびきをかいて寝ているの。
<この人たちに食べられてしまうのではないかしら>
浮舟の君は恐ろしくなる。
むしろ死にたいはずなのに、食い殺されると思うと震えてしまう。
女童を連れて大尼君のお部屋に逃げこんだけれど、その子は客席の方へ行ってしまった。
せっかく美しい男性がお越しになったから、近くでお姿を覗き見したいのよね。
<早く戻ってきておくれ>
と浮舟の君は祈っているけれど、なんともまぁ頼りないお供だったこと。
中将様はこれ以上何もおっしゃれなくてお帰りになった。
女房は、
「強情でいらっしゃいますね。お若さもお美しさももったいない」
と女君に文句を言って、大尼君のお部屋で寝てしまう。
夜中、大尼君はご自分の咳で目覚めると、浮舟の君をお見つけになった。
白髪頭に黒い布をかぶって、
「おや、これは誰だ」
と恐ろしい声でおっしゃる。
<あぁ、食べられてしまう>
浮舟の君は思わず身構えるけれど、もちろんそんなことにはならない。
大尼君はすぐにまたいびきをかきはじめなさった。
<妖怪に宇治の院に連れていかれたときは、気を失っていたから恐ろしくはなかった。あのとき死ねたらよかったのに。生き返ったせいで、また昔のことを思い出して苦しんだり、こんな恐ろしい目に遭ったりしている。しかしもし死んでいたら、今ごろは地獄でもっと恐ろしい鬼たちに囲まれていたのだ>
と想像する。
女房が部屋へ戻ると、浮舟の君の姿が見えない。
なんと、いつもは近づきもしない大尼君のお部屋へ入りこんでいるの。
ほとほと困り果てた女房は、中将様に正直にお話ししてしまった。
中将様も不思議で仕方がない。
「いったいどういうことなのだ。こんな寂しい山里でお暮らしの、それなりに身分の高そうな姫君でいらっしゃるのだろう。恋の甘い雰囲気が通じないわけがない。それとも、何か男に懲りるような経験をなさったのか。世間を恐れていらっしゃるというのもそれが理由か。詳しい事情を知りたい」
そうお尋ねになるけれど、女房としても、「宇治の院で行き倒れになっていらっしゃるところを拾っただけで、ご本人も何もおっしゃいませんから、事情は存じません」とはまさか言えない。
「尼君のご親戚と伺っております。半年ほど前に長谷寺にお参りなさったとき、何年ぶりかで再会なさったとか。他に頼れる人がいらっしゃらないようで、尼君がお引き取りになったのです」
と申し上げた。
大尼君のお部屋で浮舟の君は眠れずにいた。
お年寄りのいびきは恐ろしい。
大尼君のいびきに負けじと、年老いた女房たちまで大きないびきをかいて寝ているの。
<この人たちに食べられてしまうのではないかしら>
浮舟の君は恐ろしくなる。
むしろ死にたいはずなのに、食い殺されると思うと震えてしまう。
女童を連れて大尼君のお部屋に逃げこんだけれど、その子は客席の方へ行ってしまった。
せっかく美しい男性がお越しになったから、近くでお姿を覗き見したいのよね。
<早く戻ってきておくれ>
と浮舟の君は祈っているけれど、なんともまぁ頼りないお供だったこと。
中将様はこれ以上何もおっしゃれなくてお帰りになった。
女房は、
「強情でいらっしゃいますね。お若さもお美しさももったいない」
と女君に文句を言って、大尼君のお部屋で寝てしまう。
夜中、大尼君はご自分の咳で目覚めると、浮舟の君をお見つけになった。
白髪頭に黒い布をかぶって、
「おや、これは誰だ」
と恐ろしい声でおっしゃる。
<あぁ、食べられてしまう>
浮舟の君は思わず身構えるけれど、もちろんそんなことにはならない。
大尼君はすぐにまたいびきをかきはじめなさった。
<妖怪に宇治の院に連れていかれたときは、気を失っていたから恐ろしくはなかった。あのとき死ねたらよかったのに。生き返ったせいで、また昔のことを思い出して苦しんだり、こんな恐ろしい目に遭ったりしている。しかしもし死んでいたら、今ごろは地獄でもっと恐ろしい鬼たちに囲まれていたのだ>
と想像する。



