野いちご源氏物語 五三 手習(てならい)

中将(ちゅうじょう)様はそれから山に登ると、僧都(そうづ)のお住まいを訪ねて世間話をなさった。
夜は、僧都の弟子(でし)になっている弟君(おとうとぎみ)のところにお泊まりになる。
「ここに来る前、亡き妻の母君(ははぎみ)のお屋敷に寄ってきたよ。(さみ)しい尼君(あまぎみ)になっていらっしゃるが、今でも品のよいご婦人だ。そこでめずらしい人を見かけた。(すだれ)隙間(すきま)から後ろ姿を見ただけだが、間違いなく若い美人だ。あんな尼君ばかりのお屋敷に置いておくのは気の毒なほどの人だった」

「その女性なら、僧都様の(はは)尼君(あまぎみ)(いもうと)尼君(あまぎみ)長谷(はせ)(でら)へお参りなさって、その帰りにお見つけになった人だそうですよ」
弟君はよく知らないことだから、それだけおっしゃる。
「そんないきさつがあったのか。どういう人なのだろう。あんなところに(かく)れ住んでいらっしゃるくらいだから、よほど深い事情がおありなのだろうね。なんだか昔話のようだ」
ますます中将様のお心は()かれる。