小野の家の近くにも川が流れている。
ここの川音は穏やかで、山の麓の景色も風情がある。
庭は品よく作って手入れされていた。
秋に入ると空も美しく、下働きの女たちは地元の人のまねをして稲刈りの歌を歌う。
実った米を食べにくる小鳥を追い払おうと、板を鳴らす音が聞こえる。
浮舟の君はかつて住んでいた東国のことを思い出す。
小野には貴族の別荘がいくつかあるけれど、この家はもう少し奥まったところに建てられている。
比叡山への登り口のあたりで、松で日陰になりやすく、秋は風の音も心細く響く。
大尼君や尼君は毎日お経を読んで、代わり映えのしない静かな暮らしをなさっていた。
月が明かるい夜には、尼君が琴を、尼姿の女房が琵琶を弾いた。
「あなたもお弾きになりますか。退屈でしょう」
と尼君は誘うけれど、浮舟の君は首をふる。
<子どもの頃から田舎暮らしで、こういう優雅な趣味も知らずに成長してしまった>
すっかり年老いた尼君たちなのに、ほんの暇つぶしとはいえ、なかなか楽しそうに楽器を弾いていらっしゃる。
その姿を見ると、浮舟の君は育った境遇の違いを感じて悲しくなった。
<川に身投げするつもりが、どうして生きながらえてしまったのだろう>
思いどおりにならなかったことがつらい。
将来も見えないのだから、自分の生命力がうっとうしくなってしまう。
尼君たちは月を愛でながら、優雅に和歌を詠んだり、昔話をしたりなさる。
浮舟の君は口を挟めなくて、ぼんやりと物思いにふけっていた。
<私がこんなふうに生きていることを、誰も知らないだろう。母君はどれほどうろたえなさっていることか。私の将来を期待してくれていた乳母にも申し訳ないことをしてしまった。今はどこでどうしているだろう。右近も懐かしい。まるで姉妹のように仲良くしていたのに>
自殺を決意したときには恋しく思う人がたくさんいたけれど、今はそれほど多くの人を思い出さない。
この家にお仕えしているのは、尼姿の年老いた女房が七、八人。
人手が必要なときは、その尼たちの娘や孫娘が手伝いにくる。
いつもは都で暮らしている人たちだから、浮舟の君は自分の存在に気づかれないよう気をつける。
尼君はこの様子を見て、よほど厄介な事情がある人なのだろうと想像なさる。
女君についての詳しいことは女房たちにもお話しにならない。
ここの川音は穏やかで、山の麓の景色も風情がある。
庭は品よく作って手入れされていた。
秋に入ると空も美しく、下働きの女たちは地元の人のまねをして稲刈りの歌を歌う。
実った米を食べにくる小鳥を追い払おうと、板を鳴らす音が聞こえる。
浮舟の君はかつて住んでいた東国のことを思い出す。
小野には貴族の別荘がいくつかあるけれど、この家はもう少し奥まったところに建てられている。
比叡山への登り口のあたりで、松で日陰になりやすく、秋は風の音も心細く響く。
大尼君や尼君は毎日お経を読んで、代わり映えのしない静かな暮らしをなさっていた。
月が明かるい夜には、尼君が琴を、尼姿の女房が琵琶を弾いた。
「あなたもお弾きになりますか。退屈でしょう」
と尼君は誘うけれど、浮舟の君は首をふる。
<子どもの頃から田舎暮らしで、こういう優雅な趣味も知らずに成長してしまった>
すっかり年老いた尼君たちなのに、ほんの暇つぶしとはいえ、なかなか楽しそうに楽器を弾いていらっしゃる。
その姿を見ると、浮舟の君は育った境遇の違いを感じて悲しくなった。
<川に身投げするつもりが、どうして生きながらえてしまったのだろう>
思いどおりにならなかったことがつらい。
将来も見えないのだから、自分の生命力がうっとうしくなってしまう。
尼君たちは月を愛でながら、優雅に和歌を詠んだり、昔話をしたりなさる。
浮舟の君は口を挟めなくて、ぼんやりと物思いにふけっていた。
<私がこんなふうに生きていることを、誰も知らないだろう。母君はどれほどうろたえなさっていることか。私の将来を期待してくれていた乳母にも申し訳ないことをしてしまった。今はどこでどうしているだろう。右近も懐かしい。まるで姉妹のように仲良くしていたのに>
自殺を決意したときには恋しく思う人がたくさんいたけれど、今はそれほど多くの人を思い出さない。
この家にお仕えしているのは、尼姿の年老いた女房が七、八人。
人手が必要なときは、その尼たちの娘や孫娘が手伝いにくる。
いつもは都で暮らしている人たちだから、浮舟の君は自分の存在に気づかれないよう気をつける。
尼君はこの様子を見て、よほど厄介な事情がある人なのだろうと想像なさる。
女君についての詳しいことは女房たちにもお話しにならない。



