女は意識がはっきりして、周りを見回すと知らない人たちに囲まれている。
お年寄りばかりだから別の国に来たような気がする。
かといって昔住んでいた場所のことも思い出せない。
記憶が混乱していて自分の名前さえすぐには出てこない。
<川に身を投げたと思ったのに。ここはいったいどこだろう>
少しずつ記憶をたどっていく。
<あの夜、私はとにかくつらくて、女房たちが寝静まってから濡れ縁に出たのだった。風は激しく、川音が恐ろしかった。身投げするにもどうしたらよいか分からず、『いっそ鬼に食べられて姿を消してしまえたら』とぼんやり座っていると、美しい男の人が近づいてきたのだ。
『さぁ、私のところにいらっしゃい』とその人は言った。抱きかかえられて、『あぁ、宮様だ』と安心した。そこで意識を失ったのだ。気づいたら見知らぬ大木の根元に座っていて、男の人は消えていた。身投げできなかったと涙がこぼれたところまでは覚えている。その後のことはまったく記憶がないけれど、この人たちが言うには、あれからもう何か月も経っているらしい。こんなみっともない姿を赤の他人に看病されていたなんて>
そう、この女は浮舟の君よ。
浮舟の君は死にきれなかったことが悔しくて、薬湯も飲まなくなった。
「もうご気分はよろしいのでしょう。どうして召し上がらないのです。お熱も下がって回復なさったから、私はうれしく思っているのに」
尼君は付ききりで世話をなさる。
女房たちも、この若く美しい人に元気になってほしくて心配している。
浮舟の君がどれほど死にたいと願っても、あの状況から生き返った命だもの。
たくましい生命力で頭を持ち上げられるようになって、食事までとれるようになった。
体の方に優先的に栄養が行くのか、顔が少しやせるのを、
「元気になっていかれる証拠だ」
と周りはよろこんでいる。
「どうか尼にしてください。生きていくにはそれしかないのです」
浮舟の君は僧都に頼むけれど、
「お若い盛りにそんなことはできません」
と、本格的に出家させることはお断りになる。
そのかわり、病気回復のため髪をほんの少しだけ切る儀式をなさった。
<これでは尼とは言えない>
と思うけれど、おっとりした性格なのでそれ以上無理を言うことはできない。
「今日のところはこれで満足して、まずはお体を大事になさい」
そう言って僧都は山に戻っていかれた。
お年寄りばかりだから別の国に来たような気がする。
かといって昔住んでいた場所のことも思い出せない。
記憶が混乱していて自分の名前さえすぐには出てこない。
<川に身を投げたと思ったのに。ここはいったいどこだろう>
少しずつ記憶をたどっていく。
<あの夜、私はとにかくつらくて、女房たちが寝静まってから濡れ縁に出たのだった。風は激しく、川音が恐ろしかった。身投げするにもどうしたらよいか分からず、『いっそ鬼に食べられて姿を消してしまえたら』とぼんやり座っていると、美しい男の人が近づいてきたのだ。
『さぁ、私のところにいらっしゃい』とその人は言った。抱きかかえられて、『あぁ、宮様だ』と安心した。そこで意識を失ったのだ。気づいたら見知らぬ大木の根元に座っていて、男の人は消えていた。身投げできなかったと涙がこぼれたところまでは覚えている。その後のことはまったく記憶がないけれど、この人たちが言うには、あれからもう何か月も経っているらしい。こんなみっともない姿を赤の他人に看病されていたなんて>
そう、この女は浮舟の君よ。
浮舟の君は死にきれなかったことが悔しくて、薬湯も飲まなくなった。
「もうご気分はよろしいのでしょう。どうして召し上がらないのです。お熱も下がって回復なさったから、私はうれしく思っているのに」
尼君は付ききりで世話をなさる。
女房たちも、この若く美しい人に元気になってほしくて心配している。
浮舟の君がどれほど死にたいと願っても、あの状況から生き返った命だもの。
たくましい生命力で頭を持ち上げられるようになって、食事までとれるようになった。
体の方に優先的に栄養が行くのか、顔が少しやせるのを、
「元気になっていかれる証拠だ」
と周りはよろこんでいる。
「どうか尼にしてください。生きていくにはそれしかないのです」
浮舟の君は僧都に頼むけれど、
「お若い盛りにそんなことはできません」
と、本格的に出家させることはお断りになる。
そのかわり、病気回復のため髪をほんの少しだけ切る儀式をなさった。
<これでは尼とは言えない>
と思うけれど、おっとりした性格なのでそれ以上無理を言うことはできない。
「今日のところはこれで満足して、まずはお体を大事になさい」
そう言って僧都は山に戻っていかれた。



