野いちご源氏物語 五一 浮舟(うきふね)

二月に入ってしばらくしたころ、内裏(だいり)で中国の詩を作る会が開かれた。
匂宮(におうのみや)様も薫(かおる)の君(きみ)も参加なさる。
季節の音楽なども演奏されて、宮様は美しいお声で『梅(うめ)が枝(え)』という歌をお歌いになった。
何もかも人並み外(はず)れてすばらしい方なのよ。
許されない恋にいらいらなさることだけが罪(つみ)深(ぶか)くていらっしゃる。

雪と風が急に激しくなってきたので、音楽会は早めに終わりになった。
内裏のなかの、宮様が頂戴(ちょうだい)なさっているお部屋に貴族たちが集まる。
お食事をして皆様お休みになった。
薫の君が少し外に近いところにお出になると、お庭には雪が積もりはじめているみたい。
星の光は弱くてよく見えない。
そんななかでも香りだけははっきりと分かるわ。
薫の君のすばらしい香りは、闇夜(やみよ)の梅の香りと同じように、そこに薫の君がいらっしゃることを伝える。

「寒い夜だ。宇治(うじ)の姫は寂(さみ)しい独(ひと)り寝(ね)をしているのだろう」
昔の和歌を口ずさまれたのを、宮様は聞き逃されなかった。
寝たふりをしていらっしゃるけれどお心が騒(さわ)ぐ。
<私と姫の関係を知らないからだろうが、よくも私の近くであんな和歌を。薫の君なりに大切にしているらしい。今夜の姫の寂しさを、私だけでなく薫の君も想像しているのだ。とはいえ仲間と言ったらおかしいだろう。実際のところは姫をめぐる敵(てき)で、しかも勝つ自信も見込みもない。あれほどすばらしい恋人をさしおいて、どうして私が選ばれることがあるだろう>
と、つい嫉妬(しっと)してしまわれる。

翌朝、雪は高く積もっていた。
詩の会の続きが行われる。
帝(みかど)の御前(ごぜん)にお上がりになった匂宮様は、今が男(おとこ)盛(ざか)りでいらっしゃる。
薫の君は宮様よりひとつ年下だけれど、むしろもっと落ち着いたご様子で、上品な男性のお手本のようよ。
「帝の婿君(むこぎみ)にふさわしい人だ」と世間も納得している。
外見だけでなく、学問の知識や政治家としての才能も優(すぐ)れていらっしゃるのでしょうね。

詩のご披露(ひろう)がすんで、参加者は退出なさる。
宮様の詩は好評(こうひょう)で、貴族たちはほめそやしながら繰り返すけれど、ご本人はとくにうれしくも思われない。
<私は詩の会どころではない。どうして皆、のんきにこんなことをしていられるのだ>
と上(うわ)の空(そら)でいらっしゃる。