役目を終えたはずの巫女でした―――選ばれなかった時間の続き

久しぶりに、ゼフィーリアの夢を見た。

結界を調整している夢だった。

張り替えの作業。言われた通りに、言われた場所を補強している。あの頃の私は、綻びの場所が分からなかった。どこを張り替えればいいのか分からないまま、それでもちゃんと出来てるつもりだった。

夢の中の私は、少し離れたところからその様子を見ている。

ほころびは、はっきり見えている。あそこだ、と分かるのに、作業しているもう一人の私はそこに触れていない。

なんで、分かんないんだろう。
あそこが綻びてるのに、それじゃあ全然足りてないのに。

自分のつっこみの声で、目が覚めた。

天井が目に入る。心臓が速いし、変な汗がにじんでいる。

しばらく動けなかった。

でも、さっき夢の中で見えていた場所を、今もまだはっきり覚えている。

多分、次にあっちに行ったら、綻びの場所が分かる。

体の奥が、じわっと熱くなる。何かがゆっくり巡っている感じがする。

前みたいに、無理やり引っ張られるような感覚じゃない。私の中に、ちゃんとある。

なんで今まで、こんな簡単なことに気づかなかったんだろう。

あの頃の私は、覚悟なんてなかった。ただ時間を取られてるって不満だけがあった。

中学生だったし、って思う。でも、それを理由にしてただけだったのかもしれない。

凛は布団の上で、小さく息を吐く。

でも、今度は逃げないで考えよう。

桜ちゃんや、お母さんに言われたからじゃない。

あの世界と、ちゃんと向き合わなきゃ。

――――――――――

凜は桜の部屋に入り、鏡の前に立った。

金曜日の夕方。桜がゼフィーリアから戻ってくる時間だ。部屋は静かで、鏡の表面には自分の姿が映っているだけだった。

試しに鏡に触れてみる。まだ、通れない。手のひらは冷たいままで、何も起こらなかった。

「……だよね」

まだ、私の番じゃない。

そう感じて、少しほっとする。あの世界は、まだ桜ちゃんを選んでる。

でも、次に交代の時期が来たら、そのときは逃げない。

できるだけ先であってほしいとは思ってるけど。

そのことだけは、きちんと桜ちゃんに伝えたかった。

凜は椅子に腰を下ろし、鏡を見つめたまま帰還を待つ。

やがて鏡の奥が揺れ、次の瞬間、桜が姿を現した。

「……凜ちゃん?」

桜は少し驚いた顔をする。

「どうしたの?」

凜は立ち上がった。

「ごめんね、突然。ちょっと、話があって」

「うん。何?」

凜は一度だけ息を整える。

「今日、鏡に触ってみて。でも、通れなかった」

桜の目が、わずかに揺れる。

「やっぱり、まだなんだなって」

少し間を置き、凜は続けた。

「でもね、分かったんだ。前はさ、結界の綻びが全然分からなかったの。どこ直せばいいのか分かんなくて、とりあえず言われたとこ触ってるだけでね」

桜は黙って聞いている。

「でも、今なら分かる気がする。もし今、ゼフィーリアに行ったら、どこに綻びがあるか、ちゃんと分かる気がする」

声が少しだけ強くなる。

「だから、交代の時期が来たら、大丈夫……だと思う」

すぐに言い直す。

「今すぐ行きたいわけじゃないよ。できれば、もう少し先がいい。正直、怖いし…」

それでも目は逸らさない。

「でもね、今度はちゃんとできると思う」

一度息を吸ってから続ける。

「お母さんにも話したんだ。ちゃんと考えてから話しなさいって言われてさ。それで、ちゃんと考えたから」

凜は桜をまっすぐに見る。

「だから、それを伝えに来たの」

桜はすぐに頷いた。

「そっか」

「ちゃんと考えたんだね」

凜の目がわずかに揺れる。

「ありがとう、凜ちゃん」

桜はホッとしたような笑みを浮かべた。