役目を終えたはずの巫女でした―――選ばれなかった時間の続き

休日の朝、クロトは馬を出した。

任務ではないが、城の外へ出て頭を整理したかった。

城壁を離れ、石畳を抜け、林へ向かう道に入ると、考えないようにしていたことが自然と戻ってくる。

任務中は意識を外へ向けていられる。

魔物の出現、部下の訓練、結界の状態を追っていれば、余計なことを考えずに済む。

だが今日は違う。

静かな時間があると、どうしても思考が内側へ向く。

林の奥で馬を止める。

風が枝を揺らし、葉擦れの音だけが続く。

交代の時期が、現実として見えてしまった。

あと2か月か、3か月。遠くはない。

サクラがリンと話してきたと報告したときの様子が浮かぶ。

「泣いていた」と言った。

その言葉を聞いた瞬間、交代が本当に近いのだと実感した。

リンが引き継げば、サクラは役目を終える。

役目を終えれば、この世界に留まる理由はなくなる。

彼女は家族を大切にしている。

自由に家族に会えない選択をするはずがない。

限定的な一時帰還も、現実的とは言い難い。

理屈で考えれば答えは明白だ。

そう自分に言い聞かせる。

アルトの声がよみがえる。

――選ばないと分かっている選択肢でも、示さなければならないことがある。

――決めるのはお前ではない。

分かっている。

彼女の未来は彼女が決めるべきものだ。

自分が口を出すことではない。

それでも、三年前の空白が胸に触れる。

突然いなくなったあの時間、クロトは仕事に向き合うことしかできなかった。

任務はこなせたし、出力も精度も落ちなかった。

だが気づけば、余裕を残さない制御を続けていた。

揺れを抑え込み、乱れが出ないようにすることばかりを考えていた。

あれは平静ではなかった。

失ったと理解したときの感覚は、今も消えていない。

エリアナの言葉も思い出す。

――言葉にできなかった後悔は、長く残るものです。

時間は永遠ではない、とも言っていた。

理性だけで終わらせるのが正しい。

そうすれば誰も傷つかない。

彼女も、自分も。

そう思う一方で、胸の奥に引っかかるものがある。

「……全く、割り切れていないな」

自嘲のように呟く。

理屈は整っている。

選ばれないことも分かっている。

それでも、理屈だけで片づけられるものではない。

クロトは息を吐き、手綱を引いた。

「私は騎士だ」

その言葉で思考を閉じる。

馬を返し、城へ向かう。

背を伸ばし、いつもの歩幅で門をくぐるころには、表情に揺れは残っていない。

だが、胸の奥の違和感までは消えていなかった。