薫の君は山荘にある琴や筝を出すと、
<音楽などできはしないだろう>
と残念に思いながら、ひとりでお弾きになる。
<八の宮様がお亡くなりになってから、この山荘では楽器を弾いていなかった。ひさしぶりだ>
と、しみじみ弾いていらっしゃるうちに月が出た。
<八の宮様の琴は、格式ばった感じではなく、さりげなく優しい音色だった>
薫の君には懐かしい記憶だけれど、浮舟の君は父宮様の演奏を聞いたことがない。
「あなたが姉君たちとご一緒にここでお育ちになっていたら、お父宮の琴の音色を懐かしく思い出したでしょうにね。宮様のことは他人の私でさえ恋しく思い出されるのですよ。どうしてそんな田舎で育ってしまわれたのか」
悔しそうにおっしゃるから、浮舟の君は恥ずかしい。
白い扇をもじもじと触りながら伏してしまった。
その横顔は色白で、上品な前髪のあたりなどは大君にそっくりなのだもの。
見捨ててしまおうとはとてもお思いになれない。
<楽器もこれから教えていけばよいのだ>
と思ってお尋ねになる。
「東国育ちでも和琴なら少しは弾いたことがありますか。東琴とも言うくらいですからね。この国で生まれた琴だから、和琴とも呼ばれているけれど」
「和歌さえろくに詠まずに育ちましたから、和琴などとても」
それなりに気の利いたお返事をするあたり、まったく頼りない女性ではないのよね。
<宇治に隠しておいても思うように来られないだろう>
と、薫の君は今から苦しくなってしまわれる。
それだけ浮舟の君をお気に召しているのでしょう。
琴は押しやって、薫の君は昔の中国の詩を口ずさまれた。
元常陸の守のような荒々しい主人に慣れきっている侍従は、
<まぁ、すてき。さすが都の貴公子は違うわ。姫様は最高の婿君とご結婚なさった>
とうっとりしている。
薫の君は<しまった>とお思いになる。
その詩は、皇帝からの愛情を失った女性が悲しむ詩だったの。
<どうしてこんな詩を口ずさんでしまったのだろう>
侍従も浮舟の君も気づいてはいなかったけれど。
<音楽などできはしないだろう>
と残念に思いながら、ひとりでお弾きになる。
<八の宮様がお亡くなりになってから、この山荘では楽器を弾いていなかった。ひさしぶりだ>
と、しみじみ弾いていらっしゃるうちに月が出た。
<八の宮様の琴は、格式ばった感じではなく、さりげなく優しい音色だった>
薫の君には懐かしい記憶だけれど、浮舟の君は父宮様の演奏を聞いたことがない。
「あなたが姉君たちとご一緒にここでお育ちになっていたら、お父宮の琴の音色を懐かしく思い出したでしょうにね。宮様のことは他人の私でさえ恋しく思い出されるのですよ。どうしてそんな田舎で育ってしまわれたのか」
悔しそうにおっしゃるから、浮舟の君は恥ずかしい。
白い扇をもじもじと触りながら伏してしまった。
その横顔は色白で、上品な前髪のあたりなどは大君にそっくりなのだもの。
見捨ててしまおうとはとてもお思いになれない。
<楽器もこれから教えていけばよいのだ>
と思ってお尋ねになる。
「東国育ちでも和琴なら少しは弾いたことがありますか。東琴とも言うくらいですからね。この国で生まれた琴だから、和琴とも呼ばれているけれど」
「和歌さえろくに詠まずに育ちましたから、和琴などとても」
それなりに気の利いたお返事をするあたり、まったく頼りない女性ではないのよね。
<宇治に隠しておいても思うように来られないだろう>
と、薫の君は今から苦しくなってしまわれる。
それだけ浮舟の君をお気に召しているのでしょう。
琴は押しやって、薫の君は昔の中国の詩を口ずさまれた。
元常陸の守のような荒々しい主人に慣れきっている侍従は、
<まぁ、すてき。さすが都の貴公子は違うわ。姫様は最高の婿君とご結婚なさった>
とうっとりしている。
薫の君は<しまった>とお思いになる。
その詩は、皇帝からの愛情を失った女性が悲しむ詩だったの。
<どうしてこんな詩を口ずさんでしまったのだろう>
侍従も浮舟の君も気づいてはいなかったけれど。



