薫の君は浮舟の君を宇治へ連れていくおつもりなの。
だんだん夜が明けてくる。
若い侍従は薫の君のお美しさにすっかり魅了され、困ったことになったなどと思っていない。
浮舟の君は正気を失ってうつ伏している。
「このあたりは道が悪くて乗り物が揺れるから」
薫の君は女君を抱き寄せなさった。
朝日が乗り物のなかに差しこんだ。
<大君がお元気でいらっしゃったら、こうしておふたりのお供をさせていただくこともあったのだろうか。そうだったらよかったのに、長生きすると理想とは少し違うものを見ることになるのだ>
弁の尼は悲しくて、我慢しようとしても涙がこぼれる。
侍従は事情を知らないから、ただいまいましく思う。
<ご新婚夫婦に尼がお供しているだけでも縁起が悪いのに、しくしく泣くだなんて。これだから涙もろい年寄りは嫌なのよ>
薫の君は浮舟の君を気に入ってはいらっしゃるけれど、やはり亡き大君が恋しい。
宇治への道を進むにつれて、お目が涙で曇る。
ぼんやりなさっていると、乗り物から垂れ出たお袖が、色が変わるほど霧に濡れてしまった。
お手に取ってご覧になりながら、
「これは私の涙で濡れたのだろうか。身代わりを手に入れたというのに、こんなにも悲しい」
と薫の君はつぶやかれる。
ますます泣いてしまう弁の尼を見て、侍従は、
<せっかく姫様のお幸せが始まった日なのに。厄介な尼がついてきてしまったわ>
と思う。
<いけない。めそめそしていたらさらに姫を不安にしてしまう>
薫の君は浮舟の君を思いやって、やさしく話しかけなさる。
「この山道は私の思い出の道なのですよ。少し起き上がって山の景色をご覧なさい。そんなふうに伏せていないで」
体を起こされると、浮舟の君は軽く顔を隠しながら遠慮がちに外を見た。
目元は亡き大君そっくりだけれど、おっとりしすぎている感じがあって、薫の君には頼りなく見える。
<大君も幼子のように純真だったが、ご態度は慎重でいらっしゃった>
行き場のない悲しさが大空いっぱいに広がっていく。
だんだん夜が明けてくる。
若い侍従は薫の君のお美しさにすっかり魅了され、困ったことになったなどと思っていない。
浮舟の君は正気を失ってうつ伏している。
「このあたりは道が悪くて乗り物が揺れるから」
薫の君は女君を抱き寄せなさった。
朝日が乗り物のなかに差しこんだ。
<大君がお元気でいらっしゃったら、こうしておふたりのお供をさせていただくこともあったのだろうか。そうだったらよかったのに、長生きすると理想とは少し違うものを見ることになるのだ>
弁の尼は悲しくて、我慢しようとしても涙がこぼれる。
侍従は事情を知らないから、ただいまいましく思う。
<ご新婚夫婦に尼がお供しているだけでも縁起が悪いのに、しくしく泣くだなんて。これだから涙もろい年寄りは嫌なのよ>
薫の君は浮舟の君を気に入ってはいらっしゃるけれど、やはり亡き大君が恋しい。
宇治への道を進むにつれて、お目が涙で曇る。
ぼんやりなさっていると、乗り物から垂れ出たお袖が、色が変わるほど霧に濡れてしまった。
お手に取ってご覧になりながら、
「これは私の涙で濡れたのだろうか。身代わりを手に入れたというのに、こんなにも悲しい」
と薫の君はつぶやかれる。
ますます泣いてしまう弁の尼を見て、侍従は、
<せっかく姫様のお幸せが始まった日なのに。厄介な尼がついてきてしまったわ>
と思う。
<いけない。めそめそしていたらさらに姫を不安にしてしまう>
薫の君は浮舟の君を思いやって、やさしく話しかけなさる。
「この山道は私の思い出の道なのですよ。少し起き上がって山の景色をご覧なさい。そんなふうに伏せていないで」
体を起こされると、浮舟の君は軽く顔を隠しながら遠慮がちに外を見た。
目元は亡き大君そっくりだけれど、おっとりしすぎている感じがあって、薫の君には頼りなく見える。
<大君も幼子のように純真だったが、ご態度は慎重でいらっしゃった>
行き場のない悲しさが大空いっぱいに広がっていく。



