野いちご源氏物語 五〇 東屋(あずまや)

あっという間に夜が明けてしまったような気がなさる。
(とり)の声は聞こえないけれど、大通りが近いので物売りたちの声がする。
こういうところにお泊まりになるのは、(かおる)(きみ)にはめずらしくておもしろいことなの。

一晩中見回りをしていた男たちが、持ち場を離れてどこかへ行った気配(けはい)がする。
薫の君はご自分の乗り物を()(えん)のところまで寄せさせなさった。
浮舟(うきふね)(きみ)()きあげて乗せてしまわれる。
女房(にょうぼう)たちはびっくりして、
「どうなさるおつもりかしら」
とうろたえている。

「何かお考えがおありなのでしょう。ご安心なさい」
(べん)(あま)は浮舟の君に同情しながらも、女房たちを落ち着かせるように言った。
それから薫の君に申し上げる。
「お(とも)するべきでしょうが、私はここでお見送りさせていただきます。私が都に来ていることはすぐに中君(なかのきみ)のお耳にも入るでしょうから、そちらへご挨拶(あいさつ)に上がりませんと」

薫の君としては、浮舟の君とこういうことになったことを、まだ中君に知られたくない。
なんだか気恥ずかしいような気がなさるの。
「それはあとから謝ればよい。そなたがいなくては困る」
弁の尼へお命じになってから、女房たちの方を向いて、
「誰か姫君にお供しなさい」
とおっしゃった。
侍従(じじゅう)と呼ばれている女房が、弁の尼につづいておずおずと乗り物に乗る。
あっけにとられた乳母(めのと)たちを残して乗り物は門から出ていった。