野いちご源氏物語 五〇 東屋(あずまや)

約束なさった日、(かおる)(きみ)(べん)(あま)のところに乗り物をおやりになった。
信頼できるお(とも)もつけてある。
世間の目を気にして、薫の君の家来として顔が知られていない者をお選びになった。
「必ず姫をお訪ねするように」とご伝言なさったから、弁の尼は仕方なく身支度(みじたく)する。
乗り物のなかから野山の景色(けしき)を見ていると、昔のことが思い出される。
山荘(さんそう)女房(にょうぼう)(づと)めを始めたころから今まで、本当にいろいろなことがあったわ。

浮舟(うきふね)(きみ)(かく)()に到着すると、
宇治(うじ)から参った者ですが」
とお供に言わせた。
宇治の山荘にも来ていた若い女房が応対に出てきて、弁の尼が乗り物から降りるのを手伝う。

退屈(たいくつ)していた浮舟の君は、知り合いの弁の尼が来たことによろこんで部屋に呼んだ。
女房として亡き父宮(ちちみや)様にお仕えしていた人だから、仲良くして昔の話なども聞きたいと思っているのね。
弁の尼はここに参上した理由をお話しする。
「あなた様のことはずっと気にかけておりましたが、尼の身で都に出るつもりはなかったのです。しかし先日、薫の君が宇治へお越しになりまして、『私の気持ちをそなたから直接姫に伝えよ』と(おお)せになりましたので参上いたしました」

浮舟の君も乳母(めのと)も薫の君を立派な人だと思っている。
そんな方がわざわざこうまでしてお気持ちを伝えてくださることに感激した。
まさかこれが薫の君の計画のはじまりだとは気づかない。