野いちご源氏物語 五〇 東屋(あずまや)

浮舟(うきふね)(きみ)がしばらく暮らすことになった家はつまらないところだった。
庭は雑草だらけでまだ整っていない。
花壇(かだん)に花もない。
そこへ田舎(いなか)くさい警備(けいび)の男たちが出入りしている。

何の楽しみもなくて、浮舟の君は中君(なかのきみ)のことを恋しく思っている。
そこから匂宮(におうのみや)様のことも思い出す。
<お優しそうにいろいろと何かおっしゃっていた。あれは何だったのだろう>
宮様のすばらしい香りが残っているような気がして、あらためてぞっとする。

(かみ)夫人(ふじん)からは長い手紙が届いた。
浮舟の君を心細いところに残して自宅に帰ったから、とても心配しているのね。
母君(ははぎみ)はこんなに私を思ってくださっている。でも私は母君の自慢(じまん)の娘にはなれそうにない>
手紙を読むと涙がこぼれる。

退屈(たいくつ)で居心地悪くお暮らしでしょうね。もうしばらく辛抱(しんぼう)してちょうだい」
と手紙にあるので、浮舟の君は、
「退屈なのは問題ありません。むしろ気楽に暮らしています。ここは仏様の世界かもしれないと思うことにしました。面倒事が押し寄せてきませんもの」
と子どもっぽく返事を書いた。
それを読んで守夫人はほろほろと泣いてしまう。
<姫を見捨てるようなことをしてしまった>
と苦しい。

「さすがにあの世ではいけないけれど、そういう別世界ででも、あなたが幸せになってくれたらと思ってしまいます」
お互いに夢のようなことを言いあっている。
これが正直な気持ちなのでしょうね。