野いちご源氏物語 五〇 東屋(あずまや)

(かみ)夫人(ふじん)ははっとする。
<姫が亡き(はち)(みや)様のお子だと、どこかでお聞きになったのだ>
そうなるとますます、浮舟(うきふね)(きみ)をそこらの男と結婚させるわけにはいかない。
できれば中君(なかのきみ)と同じくらいご立派なお相手がよい。
思い浮かぶのは(かおる)(きみ)よね。

<薫の君は匂宮様と同じくらいご立派な方だ。宮様は中君の夫君(おっとぎみ)だから、さすがに姫の結婚相手には考えられない。それに、無理やり姫のそばへお寄りになったことも腹が立つ。私たちのような身分の者を見下していらっしゃるのだろう。
その点、薫の君は奥ゆかしくていらっしゃる。姫をお望みのようなのに、気軽に口説くことはなさらない。むしろ何の興味もないようなお顔をなさっている。これこそ本物の貴公子(きこうし)だ。私でさえちらりと拝見したお姿を忘れられずにいるのだから、まして姫は恋しく思い出しているだろう。もはや少将(しょうしょう)様など話にもならない>

浮舟の君の華やかな将来を思い描いてみたけれど、現実的にはやはり厳しいと言わざるを()ない。
<あれほどの貴公子がいったいどのような女性に好意をお持ちになるのだろう。しかもご正妻(せいさい)(みかど)姫君(ひめぎみ)なのだ。私がこれまで見聞きした経験からして、見た目や人柄(ひとがら)は身分に比例する。私の生んだ子どもたちのなかでも、亡き八の宮様を父親とする姫だけは、やはり(かみ)の娘たちとは毛並みが違う。

とはいえ、誰と比べるかで優劣(ゆうれつ)は変わってくる。少将様は守の屋敷で見れば立派だが、匂宮様の御前(ごぜん)ではすっかり(かす)んでいた。つまり、身分の低い人と比べればよく見えるし、身分の高い人と比べたら悪く見えるのだ。姫を薫の君に差し上げたら、姫は帝の姫君と比べられることになる。とても()()はないだろう>
そこまで考えると、守夫人は()てしない超上流の世界に頭がくらくらしてしまう。