野いちご源氏物語 五〇 東屋(あずまや)

(かみ)夫人(ふじん)はこういうときのために小さな家を用意していた。
二条(にじょう)(いん)からもそれほど遠くないあたりよ。
ただ、まだ内部は整っていなくて、住めなくはないけれど家具も少ない。

守夫人は浮舟(うきふね)(きみ)をとりあえずその家に入れて、困り顔で言う。
「あなたをどうしてあげたらよいものか。あれこれ悩んでいるけれど、まったく答えが出ないのです。うまくいかない人生なのに長生きしてしまったことがつらい。私ひとりなら、こんな落ちぶれた身分でも我慢(がまん)してやっていきますけれどね、あなたまで私と同じ人生にするわけにはいきません。

とにかくこれ以上二条の院にいるのはよくないと思ってここへ連れてきたのです。亡き(はち)(みや)様に冷たく(あつか)われたというのに、()りもせずその姫君(ひめぎみ)でいらっしゃる中君(なかのきみ)に近づいた上、次はあなたが肩身(かたみ)(せま)い立場になれば、今度こそ私たち母娘(おやこ)は世間の笑い者になってしまう。
むさくるしいところだけれど、しばらくここでこっそりお暮らしなさい。私がなんとかよいようにしてあげますから」

そう言って守夫人は自宅に帰ろうとする。
浮舟の君は泣いてしまう。
<私の居場所はどこにもない。母君にも迷惑をおかけしている>
と打ちひしがれている。
守夫人は、もちろん娘がかわいくないわけではないわ。
むしろ立派な血筋(ちすじ)の浮舟の君を大切に思って、どうにか無事によい結婚をさせてあげたいと願っている。
それなのに匂宮様のせいで(みょう)(うわさ)が立って、世間から軽率(けいそつ)な娘だと思われては困るの。

自宅に連れて帰るのが一番無難(ぶなん)だということも分かっている。
でも、(いもうと)(むすめ)少将(しょうしょう)様が大きな顔で新婚生活を送っている片隅(かたすみ)に、ひっそりと浮舟の君を押しこめておきたくない。
しっかりした母親だけれど、少し気が強いところがあるのよね。

離れて暮らしたことなどほとんどないので、母娘はお互いに心細く思う。
「この家はまだ内部が十分にできていませんからね、夜はとくに心配です。女房(にょうぼう)があちこちにいますから、恐くなったらお部屋にお呼びなさい。警備(けいび)の者にもよく言っておくけれど、本当は私がついていてあげたい。でも、家では(かみ)が私に腹を立てていますから、帰らないわけにもいかないのですよ」
と、守夫人は泣きながら帰っていった。