野いちご源氏物語 五〇 東屋(あずまや)

浮舟(うきふね)(きみ)は混乱しているし、中君(なかのきみ)女房(にょうぼう)たちがどう思っているだろうと恥ずかしくもある。
でも、もともとおっとりしすぎなほどの性格だから、乳母(めのと)にされるがままに座った。
前髪がひどく汗でぬれているのを隠すように、顔を(そむ)けている。
中君を見慣れた女房(にょうぼう)たちが見ても上品で美しい。

女房たちはひそひそと話す。
(みや)様がこの姫君(ひめぎみ)を知ってしまわれたら、面倒なことになるに決まっているわ」
「たしかにこのお美しさではね。これほどでなくても、新しく女房として上がったちょっとよさそうな人には必ずお手を出されるのだもの」

異母妹君(いもうとぎみ)を怖がらせないように、親しみやすい雰囲気で中君はお話をなさる。
「こちらでのお暮らしはどうかしら。ご自宅と同じようにくつろいでちょうだいね。姉君(あねぎみ)がお亡くなりになってずっと悲しかったのだけれど、姉君そっくりなあなたに出会って心が(なぐさ)められているのよ。肉親(にくしん)をつぎつぎに失って孤独(こどく)な私ですから、あなたが私を姉と思って(した)ってくれたらうれしい」

浮舟の君は何とお返事したらよいかお分かりにならない。
田舎(いなか)育ちということが()()になって、よけいに言葉が出てこないの。
かろうじて、
異母姉君(あねぎみ)は、私など手の届かない(はる)彼方(かなた)の方と思っておりました。こうしてお目にかかれて、これまでの苦労が(むく)われるような気がいたします」
とだけ、少女らしい声で申し上げた。