野いちご源氏物語 五〇 東屋(あずまや)

<姫がかわいそうだ。嫌な思いをしただろう>
中君(なかのきみ)は同情なさって、何も知らないふりで浮舟(うきふね)(きみ)をお部屋へお呼びになった。
(みや)様は中宮(ちゅうぐう)様のお見舞いに参内(さんだい)なさって、今夜はお帰りにならないようです。(かみ)を洗ったら疲れてしまったけれど、横になる気にもならないから、こちらへ来て話し相手になってくれませんか。ご退屈(たいくつ)でしょう」
と、さりげなくお誘いになる。

浮舟の君はとてもそんな気分ではない。
「具合が悪うございますので、また改めまして」
というお返事を乳母(めのと)がお伝えする。
「どんなお具合なのですか」
中君がお尋ねになると、
「どこがどうというわけではないのですが、ただとても苦しいのです」
と、また乳母を通じてお返事する。

中君の女房(にょうぼう)たちは目を見合わせて、
「あんなことがあったのですもの。気まずくて中君の御前(ごぜん)に出ていらっしゃれないのも当然ですよ」
とひそひそ言う。

中君は(かおる)(きみ)のことを気になさる。
<それにしても気の毒なことになった。せっかく薫の君が恋人にしたいとおっしゃっていたのに、このことを知ったら姫を軽蔑(けいべつ)なさるだろう。これが宮様なら、嫉妬(しっと)して騒ぎたてても最後はお許しになるはずだ。ご自分が恋多き人だから、相手の(あやま)ちも大目(おおめ)に見て、潔癖(けっぺき)に切り捨てることはなさらない。

しかし薫の君は違う。相手を責めることはせず、お心のうちで静かに、ご自分にふさわしいかどうか判断なさる。()(だか)くて落ち着きのあるご態度とも言えるけれど、姫にとっては厳しいことになった。

長年存在さえ知らない異母妹(いもうと)だったけれど、会ってみたら放っておけないほどかわいらしい。幸せになってほしいのに世の中は難しいものだ。私だって似たような境遇(きょうぐう)になっていたとしてもおかしくなかった。今も完全に幸せとは思えないが、あの姫に比べたらずいぶん恵まれているのだろう。
あとはなんとかして薫の君が姫とうまくいって、私への恋心を忘れてくださったら。そうすれば何も気がかりなことはなくなる>

豊かなお(ぐし)なので、洗うとなかなか乾かない。
女房たちに囲まれてじっと座っていらっしゃるのはお苦しそう。
乾かしやすいように肌着だけになったお姿は、ほっそりしていてお美しい。