野いちご源氏物語 五〇 東屋(あずまや)

浮舟(うきふね)(きみ)()したまま泣いている。
<信じられない目に()った。中君(なかのきみ)はどうお思いになるだろう>
他には何も考えられず、ただ悲しい。
見かねた乳母(めのと)(はげ)ますように言う。

「姫様にはお母君(ははぎみ)がおいでなのですから、そんなふうにご心配なさることはありません。母親がいないのはつらいものですよ。誰にもかばってもらえないのですから。世間的な評価という点では父親がいない方が不利ですけれど、安心という点では、意地悪な継母(ままはは)(にく)まれるよりずっとよいのです。

(みや)様のこともご将来のことも、お母君にお(まか)せなさったら、きっとうまくやってくださいます。お(あきら)めになってはいけません。それに姫様には長谷(はせ)(でら)観音(かんのん)様もついていらっしゃるのです。慣れないお体で、何度もお(まい)りなさったではありませんか。私もご一緒にお詣りさせていただいて、ひたすら祈っておりましたよ。『これまで見下してきた人たちがびっくりするほどのお幸せを、姫様にくださいませ』と。ですから観音様も姫様の味方です。姫様が世間の笑い者で終わるわけがありません」